「Grab It!」については、かつて書いた曲目解説をそのまま載せておく。
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アヴァンギャルドでありつつも、聴き手がポップな感覚で楽しめる音楽を次々に生み出しているオランダの作曲家、ヤコブ=テル・フェルドハウス(1951 – )。ロック音楽界の出身であり、自らの作品を評して「砂糖でスパイス付けした音楽だ」などとのたまう、まさに現代音楽界の異端児。しかし近年、世界中の多くの演奏家たちが、この一風変わった作曲家の生み出す音楽に注目しているのです。
テナーサクソフォンとゲットブラスター(屋外用途向け大音量ラジカセ)のために書かれた「グラブ・イット!」は、1999年の所産。オランダを中心に多方面に活動を展開しているサクソフォン奏者、アルノ・ボーンカンプに捧げられています。テナーサクソフォンの独奏パートとともに、サンプリング&コラージュされた効果音がスピーカーから流され、両者のデュエットが繰り広げられます。
その一見華やかなサウンドの向こう側から聴こえてくるのは、アメリカで製作されたドキュメンタリー映画の中で発せられる、終身刑に処せられた受刑者たちの「声」。彼らが憎しみや絶望を込めて発する言葉の力強さに心を打たれたフェルドハウスは、サクソフォン・ファミリーの中でもひときわ強い個性を持つテナーサクソフォンと、その「声」を掛け合わせることを思いついたのだといいます。
初めは断片的だった彼らの叫びは、曲が進むにつれて徐々にその姿を現します。「あいつは鉄パイプの片側に縄を引っ掛け、首を吊ったんだ。緑色のビニールシートに包まれた亡骸は、つま先に番号札を付けられて、外の世界に運び出されていった…でも、死んじまったら何もかもおしまいなんだよ!」…刑務所という絶望的な状況の中では、自殺という行為すら日常的な出来事なのです。この曲のテーマは、死が身近にある状況の中で、生きることの価値を認識すること。メメント・モリ(生の中で死を想え)ならぬ、メメント・ヴィヴェレ(死の中で生を想え)のメッセージが、隅々に散りばめられているのです。
【Tsukuba Saxophone Quartet Concert Vol. 5.5 at Ernie's Studio】
出演:Tsukuba Saxophone Quartet
日時:2014年10月26日 14:00開演
会場:アーニーズスタジオ
料金:入場無料
プログラム:
C.コリア/旭井翔一 - アルマンド・ルンバ(S.Sax & B.Sax版初演)
JacobTV - Grab It!
W.グレゴリー - 干渉
加藤昌則 - オリエンタル
伊藤康英 - 木星のファンタジー
R.ピーターソン - トリオより第3楽章
木山光 - ハデヴィッヒII
(チラシ・クリックして拡大)
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