同大学のサクソフォン・クラスを受け持つ、名手ジョン・サンペン John Sampen氏との共同作業により生まれた作品だ。神秘的な響きと、効果的なディレイ・エフェクトにより、名曲と言える作品だと思う。サクソフォンとエレクトロニクスの作品を聴いたことがない方も、自然に聴けるのではないだろうか。このい動画では海をテーマにした映像が付加され、新しい魅力を生み出していると感じた。
Waterwings from Carlo Conti on Vimeo.
2009年3月に演奏した時に書いたプログラム・ノートを貼り付けておく。電子音楽の歴史まで書いたせいか「プログラムノートが長くて難しい」という感想をいただいたことを覚えている(苦笑)
マーク・ブンス「ウォーターウィングス」
Mark Bunce “Waterwings” for Saxophone and Electronics
電子音楽と呼ばれる音楽ジャンルは、第2次世界大戦後から1960年代にかけて、前衛の旗手と呼ばれた作曲家たちによって、爆発的に普及しました。初期の電子音楽は、完成した作品がテープに記録され、聴衆が作品を鑑賞するためには、そのテープを再生するしかありませんでした。しかし1960年代、コンサートホール等の演奏会場でリアルタイムにエフェクトを施し、結果をスピーカーから出力する“ライヴ・エレクトロニクス Live Electronic Music”という分野が登場します。電子音楽の旗手:カールハインツ・シュトックハウゼンの代表作「ミクロフォニー」は、その分野の代表的な作品であり、打楽器とマイク、アナログフィルタによって、マイクから入力した音に対して処理を施すものでした。
時代はさらに進み、音楽にコンピュータが使用されるようになると、フランスの音響研究所IRCAM(イルカム)においてSogitec 4Xというシステムが開発されました。これは、従来アナログの電子回路で行っていた音素材に対する変調処理を、コンピュータ上でデジタル処理することを目指したものです。このSogitec 4Xは形を変え、現在はMax/MSPと呼ばれるPC上で動作するシステムとなり、電子音響を扱う常套手段として世界中の作曲家に使われています。
「ウォーターウィングス」は、アルトサクソフォンとMax/MSPシステムのために1993年に書かれました。サクソフォンと電子音響のコラボレーションは、すでに1980年代から興っていましたが、リアルタイムシステムを使用した楽曲としては、最も初期に作られたものの一つです。アメリカのサクソフォンの名手、ジョン・サンペン氏のために書かれ、作曲以来欧米では大変演奏機会が多いとのこと。国内では、本日の演奏が初めてとなります。楽曲は、水の中を飛翔する鳥をイメージしています。全体は、Prelude、Nghtflight、The Returnの3つのセクションに分かれており、水中に響くような、全編を通して静かな音響が印象的です。
作曲者のマーク・ブンスは、アメリカのBowling Green State Universityの音響部門に勤務するレコーディング・エンジニア、作曲家です。楽譜とMax/MSPパッチの入手、及び演奏上のアドバイスに関してお世話になったブンス氏に、この場を借りて感謝申し上げます。
(楽譜:私家版)
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