7/12。世界サクソフォーン・コングレスをじっくり見学する日。
なにを聴こうかと思案しつつ会場付近へ。知っている名前がなかったので、とりあえずSt.Leonards Chapelという最も小さな会場(およそ40席程度)に入ると、サクソフォンとクラリネットのデュオ、Guzman-Natalieが新作を演奏中。特にサクソフォンの、フラジオ音域まで含むプレイの巧さに衝撃を受け、あわててプロフィールを参照するとなんとあのJames Houlikのお弟子さんではないか。師匠も師匠なら、弟子も弟子というものだ。すごかった。こういった思いがけない開拓も、コングレス参加の魅力の一つだ。
続いてSt.Leonards Auditoriumで、アメリカの有名な奏者のひとり、Thomas Liley氏の演奏を聴いた。ルソー氏、チェ氏がいらっしゃったので、写真を撮ってもらった。石渡先生と一緒に聴いたのだが、石渡先生がルソー氏の招きでアメリカでマスタークラスを開いたとき、Liley氏は受講生だったのだそうだ。キャンフィールド氏の新作「ソナタ・アフター・ブラームス」は、サクソフォン、ヴァイオリンとピアノのために書かれた作品で、キャンフィールド氏らしい親しみやすい曲調と構成感で、素敵な作品だ。なんと、キャンフィールド氏隣席(写真左)。
続いて、Julia Nolanの演奏でJan Friedlin「Broceliande Concerto in Five Scenes」とColin MacDonald氏の新作を聴く。中堅~ベテランという感じの女流奏者だったが、安定したテクニックや音楽性に感銘を受けた。Karen Dufour & Scott Mitchellは、ごくごく短い新作を演奏。ちょうどこのとき、St.Leonards Auditoriumの外でジョン・サンペン John Sampen氏と話すことができた。私は、かつてサンペン氏のレパートリーであるサクソフォンとエレクトロニクスのためのMark Bunce「Waterwings」を演奏したことがあったのでぜひ話したいと思っていたのだ。新作「シュレイディンガーの猫」の話や、私に会ったことをBunce氏にも話してくれるとのこと。
そのサンペン氏の演奏で、ヴァイオリン、サクソフォン、ピアノのためのMarilyn Shrude「Within Silence」。ごく静かな曲調だが、煌めくような掛け合いなど、見せ場も多い。サンペン氏の美しい音色やアタック、ヴィブラートは、CDで聴いても知っていたのだが、ライヴで聴くとさらに感動が増す。
Byre Theatreで、松下洋くんオススメ、スペインのPedrosaxを聴いた。特殊奏法とエフェクタをふんだんに使いながら自作を演奏し…と書くとなんだかありがちだが、そのテクニックはこれまでサクソフォンが到達した最高クラスのものであり、自作曲の印象も雄大な自然を感じさせるような強烈なもので、これはかなり衝撃的だった。昔YouTubeで観たことがあったことを思い出した。それだけYouTubeの演奏も印象深かったということだろう。
Byre Theatreのカフェで石渡先生、松下くん、上野くん、ルイさんとお昼ご飯を食べ、引き続いて同会場でガイス氏のKarlaxに関するプレゼンテーションを聞いた。演奏メインというよりは、プレゼンテーションがメインであり、例の「ジャングル・モーフィン」も、ヨナタン・ラウティオラ氏とともに、Karlaxを触って間もない学生?が演奏していた。Karlaxユーザーの裾野を広げるためのプレゼン、という印象だ。
その次にPolaris Duoというサクソフォンとハープの女性のデュオで、アポロSQのメンバーとしても知られるロブ・バックランド Rob Buckland氏、アンディ・スコット Andy Scott氏の新作を聴いた。バックランド氏の作品は互いの美しい響きを強調したような印象、スコット氏の作品はハープらしからぬアグレッシヴな印象を残す。2人とも会場を訪れており、バックランド氏とは簡単にお話しすることもできた。
ちらとYounger Hallをのぞいてみると、サクソフォンオーケストラ「Several World Massed Saxophones」のリハーサル中。アマチュアの即席結成のサクソフォンオーケストラ演奏イベントで、一日かけて新作のリハーサルを行い、夕方に演奏するという形。何人か有名なプロフェッショナルの演奏家も混じっており、本当はこちらの本番も聴きたかったのだが、とにかく大量のイベントが同時進行するなかではどうしても難しい。
その後は、再びSt.Leonards Auditoriumへ移動し、Jonathan Nicholの演奏でソプラノサクソフォン2重奏を2曲と、テナーサクソフォンのソロ(大喝采)を1曲聴いた。本当に、全く名前を知らないにも関わらず見事な演奏をするプレイヤーばかりで驚いてしまう。続いて、Christopher Kocherという奏者が主宰するアルト、テナー、フルート、ピアノの団体。フルート以外は完全にジャズのスタイルで、セロニアス・モンクのメドレーを楽しむ。
この次がアルノ・ボーンカンプ氏だったのだが、あまりの人気ぶりに直前のステージを聴いていた聴衆が捌けず、ほとんどの並び待ちの人たち(石渡先生やドゥラングル教授までも…)が締め出しをくらいそうになったところ、現場スタッフの機転でなんとか床に座って聴くのはOKとなり、無事開演した。「アルルの女」のメロディの断片を、現代的な和声、リズムでミキシングしたような作品。作曲者自身のピアノで世界初演された。ボーンカンプ氏をライヴで聴くのは初めてだが、下手に触るとやけどしそうな熱い音楽性は、一朝一夕には身につかないものだろう。長時間の作品を、聴き手をひきつけながら吹ききってしまう構成感もすばらしい…等々、その特徴を挙げていけばきりがない。
ボーンカンプ氏の演奏のあとBuchanan Theatreでインターナショナル・サクソフォン四重奏団の演奏を聴いた。全員がロンデックス氏の弟子で、ジャン=ピエール・バラグリオリ氏(フランス)、ウィリアム・ストリート氏(カナダ)、宗貞啓二氏(日本)、リチャード・ディーラム氏(アメリカ)という超大御所ぞろい。とにかく宗貞先生のテナーの音色が美しく、そこばかり聴いてしまったのだが、アンサンブルとしても不思議な温度を持ち、実に楽しく聴けた。フランソワ・ロセの日本風作品も興味深い。
夕食をカフェで食べた後(男性陣は皆ウェイターのルチーダに視線釘付け)、Byre Theatreでアポロ・サクソフォン・オーケストラの演奏を聴く。バーバラ・トンプソン女史のドキュメンタリーが流された後、彼女のサクソフォン・オーケストラのための作品が5曲演奏された。サクソフォン・オーケストラ、というものに対するサウンドやアンサンブルの考え方の違いなど興味深いが、やはりここでの一番の印象はバーバラの作品のおもしろさだろう!ファンク・サクソフォン奏者でもあるという彼女の、ポップな要素をうまくクラシカルな作品にマッピングする手腕に感銘を受けた。最初から最後まで、まるでほとんどジャズのノリである。最後には客席からバーバラ登場、大きな喝采を受けていた。
この日はアポロ・サクソフォン・オーケストラの演奏で幕。タクシーでDRAまで戻った。
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