ここ数年来で世に出たクラシック・サックスのCDのうち、最も注目すべきディスクが発売された。その名も、「Jean-Marie Londeix - Portrait(MDG 642 1416-2)」。いろいろ御託を書き並べる前に断言しておこう。このCD、クラシックサックスの世界に身を置くものならば、必携!!4枚組ながらお値段も2500円程度とお安いので、ぜひ明日にでもCDショップへ!ちなみにamazonでも買える。
ジャン=マリー・ロンデックス氏は、パリ国立高等音楽院のマルセル・ミュールクラスを1952年に一等賞で卒業し、その後、長きに渡り、演奏家として・教育者として・研究家としてサクソフォンの世界に絶大な影響力を及ぼしてきた人物。ミュール・デファイエ・ドゥラングルとともに、フランスを中心に発達したサクソフォンの歴史上、最も偉大なサクソフォニストの一人に挙げられよう。
開いたコンサートは600回、献呈を受けた作品は250以上、30タイトル以上のソロ・レコーディング、著名なオーケストラとの共演(マルティノンとの共演によるドビュッシーは、絶品)、ボルドー音楽院で教えた生徒は100人以上、350作品以上の編曲、エチュードや研究書の執筆、As.Sa.Fraの設立、ボルドー・インターナショナル・サックスアンサンブルの主宰…等々、こんなところには一日二日では書ききれないほどの輝かしい実績を残した。
まあ、ロンデックス氏はそれほどまでに凄い人物なのだが、最も活躍した年代が1970年代であったということもあり、出版された録音物がほとんど入手不可能な状態になっている。LPなのだからある意味当然と言えば当然。ようやく1990年代後半に入って、EMI Franceから待望の復刻版「Le saxophone francais」が発売され、そのすばらしい演奏を気軽に楽しむことができるようになった。
そして、今回発売された「Portrait」は、今まで復刻されたことのなかった、Crest盤や私家録音を、大量に再発したものなのだ!総計の再生時間は、なんと4時間30分を越え、編成も、協奏曲、ピアノとのデュオ、無伴奏、室内楽との共演などなどさまざま。録音年代も1950年代から1980年代までと、実に長いスパンを誇る。
録音状態にばらつきはあるものの、演奏は見事と言うほかない。自由自在に楽器をコントロールするテクニック、深いヴィブラートを伴うキラキラした音色。そして、オーケストラを従えようと、無伴奏であろうと、スピーカーを通して伝わってくる圧倒的な存在感は、なかなか他のプレイヤーの録音では聴けないものだ。
大曲が目立つ一方、4枚目に収録された小品たちも、なかなか良い。デュボワの「りす」の愛らしさ、ボノー「ワルツ形式のカプリス」での自在さ、フローラン・シュミットの「コッペリウスの歌」では、ロンデックス氏の見事なテナーの演奏を聴くことができる。
作品も興味深いものばかり。個人的に特に面白かったのが、マリウス・コンスタン Marius Constantの筆による「コンチェルタンテ Concertante」。「ムジク・ドゥ・コンセール Musique de concert」辺りを想像しながら聴き始めると、腰を抜かすほどの強烈な印象を残す音楽で、あわてて解説を見てみると、なんと1978年のギャップ国際コンクールの本選曲だったそうだ。…このコンクール、優勝が現パリ音教授のドゥラングル氏で、二位がセルジー音楽院教授のフルモー氏だったはずだ。そんな感じで、サクソフォンの歴史上のマイルストーンとなるような作品が数多く収録されている。
今まで分かってはいたつもりだけれど、ロンデックス氏の偉大さを再認識させられた感じだ…。サクソフォン界にはこんな凄い人物がいるんですなあ。ちなみにまだお元気だとのこと。うーん、恐れ多いが、会っていろいろ話してみたいぞ。氏の評伝「Master of the Saxophone」買ってみようかな。
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(付録:収録曲目詳細)
> Jacques Murgier - Concerto (Dir: J.Murgier, Orch: Ensemble de chambre)
> Marius Constant - Concertante (Dir: M.Constant, Orch: Prchestre philharmonique)
> Paule Maurice - Tableaux de Provence (Dir: E.Ciavane, Orch: Orchestre de Provence)
> Andre Ameller - Concertino op.125 (Dir: A.Ameller, Orch: Orchetre de chambre)
> Rene Bernier - Hommages a Sax (Dir: M.Boneur, Orch: Orchestre de solistes)
> Pierre-Max Dubois - Concerto (Dir: P.M.Dubois, Orch: ?)
> Pierre-Philippe Bauzin - Poeme op.20 (Dir: P.P.Bauzin, Orch: Orchestre symphonique)
> Pierre-Philippe Bauzin - Sonate op.15 (Pf: P.P.Bauzin)
> Charles Koechlin - Etudes op.188 (Pf: L.Robert)
> Alfred Desenclos - Prelude, cadence et finale (Pf: A.M.Schielin)
> Paul Hindemith - Sonate (Pf: C.Picard)
> Edison Denisov - Sonate (Pf: C.Picard)
> Ida Gotkovsky - Brillance (Pf: C.Picard)
> Lucie Robert-Diessel - Cadenza (Pf: A.M.Schielin)
> Marc Eychenne - Cantilene et Danse (Vn: M.Eychenne, Pf: M.Chancelade)
> Thierry Alla - Polychrome (Dir: J.M.Londeix, Ensemble International de Sax)
> Ivan Markovitch - Complainte et Danse (Pf: A.M.Schielin)
> Guy Lacour - Diertissement (Ens: Ensemble Jean Coutioux)
> Pierre-Max Dubois - Le Lievre et la Tourne (Dir: A.Ameller, ?)
> Claude Delvincourt - Croquembouches (Pf: A.M.Schielin)
> Darius Milhaud - Scaramouche (Pf: A.M.Schielin)
> Rene Bernier - Capriccio (Pf: F.Jenicot)
> Paul Creston - Toccata (Pf: F.Jenicot)
> Jeanine Rueff - Chanson et Passepied (Pf: A.M.Schielin)
> Pierre Auclert - Comme un vieux Noel (Pf: A.M.Schielin)
> Pierre-Max Dubois - Les Ecureuils (Pf: A.M.Schielin)
> Florent Schmitt - Songe de Coppelius (Pf: A.M.Schielin)
> Jacques Ibert - L'Age d'Or (Pf: A.M.Schielin)
> Paul Bonneau - Caprice en forme de valse
> Claude Debussy - Syrinx
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