Michael Segell著「The Devil's Horn」。ビクトリア大学の書籍売り場で見つけた本。タイトルにしろカバーにしろ、一見したところジャズ関係の本にも思えるのだが、中を見て驚き。クラシックのことがたくさん書いてある!ということで、迷わず20CA$で購入。結局自分用のお土産は、これしか買わなかったなあ。
さてさて、掘り出し物を見つけた気持ちで、日本に帰ってきてamazon.co.jpで検索してみたら、なーんだ、たくさん売っているじゃないか。しかしまあ、中を見ないことには決して買わなかっただろうし、この本のおかげで帰りの飛行機で退屈しなかったし、良いとしましょう。
中身は、サクソフォンに関するエッセイ。著者のセーゲル氏がこれまで経験してきた、あまたのサクソフォン奏者との談話から、サクソフォンの歴史・奏者・演奏スタイルなどについて、無節操に綴っていくというもの。たとえば第2章の書き出しは、こんなくだりから始まる。
ミュルハウス通りにあるメゾネットのドアが開くと、大きく腕を広げまるで久々に会う旧友を歓迎するようなふうに、ロンデックスが姿を現した。「ボンジュール、ボルドーへようこそ」と言いながら、彼は満面の笑みで私を暖かく迎えてくれた。…
プロのサックス吹きの方と酒の席を共にしたときなどに、談笑の中からふと現れては消える、トリビアルなエピソード…そんな話をたっぷりと集めたような印象を受ける(って、そもそもエッセイって、そんなものか)。
サクソフォン発明者のアドルフ・サックスが、2歳のときに階段から落っこちて岩に頭をぶつけて、一週間寝込んだ(笑)という話とか。ヘムケ氏が、ラーション本人から協奏曲の演奏依頼を受けたときに、オーバートーンを練習しまくった話とか。戦時中のこと、ニューヨークフィルの演奏会でクレストンの協奏曲初演目前に、客演予定だったマルセル・ミュール戦死の誤報がオケの事務局に伝わり、代わりにジミー・アバトが吹いたというエピソードとか。…ちょっとここには書ききれないほどに、この本は面白い話の宝庫だ。
あと、諸所で述べられているラッシャー派とミュール派の対立?エピソードの多さが、印象に残った。日本のサクソフォン界で認知されているよりも、この二派の溝というのは、実に深いものであるようだ。たとえば、パリでのラッシャー四重奏団のコンサートの後、クロード・ドゥラングル氏が、楽屋へジョン=エドワルド・ケリー氏を訪ねたときのくだり。
Claude says, "Mr. Kelly refused to shake with my hand. He said we have nothing to talk about."
何という過激な突っぱね方。ラッシャー派の強靭な精神というか、そんなものまでも感じてしまう。この本で述べられている二派間のエピソードは、かなりに読む価値があると感じた。…その関連にとどまらず、ともかくサクソフォンに興味のある方ならば、手元に置いておいて損はない書籍だと思う。全て英語であるため(当たり前か)読みづらいが、私のほうはなんとか最後まで消化していこうと思っている。
0 件のコメント:
コメントを投稿