2012/04/02

Laughter & Tears - A Jewish Saga

なんとも不思議なサクソフォンのCDである。ヘンテコなジャケットに、聞いたこともないような作品。よくよく解説を読んでみれば、ユダヤ系民族にまつわる作品を集めたアルバムということだ。古典的なクレツマー・ミュージックのアレンジ、ホロコーストの描写、イスラエルの音楽など、全編を通してコンセプチュアルにまとめられている。サクソフォン奏者のDale Wolfordは、アメリカ生まれで、モロスコ・サクソフォン四重奏団、サンフランシスコ・サクソフォン四重奏団、ニュークリア・ホエールズ・サクソフォン・オーケストラ等でキャリアを積んだプレイヤー。現在、サンノゼ大学、カリフォルニア州立大学バークレー校で教鞭をとる。ヤマハのアーティストでもあるそうだ。

Traditional/Simon Bellison - Four Hebraic Pictures
Ivan Rosenblum - Shtetl Voices
Boris Levenson - Hebrew Dance
Carl Anton Wirth - Jepthah
Elwood Derr - I Never Saw Another Butterfly
Paul Ben Haim - Three Songs Without Words
Jacob Weinberg - Maypole
Irving Berlin/Ivan Rosenblum - Sadie Salome
Irving Berlin/Ivan Rosenblum - Yiddle on Your Fiddle, Play Some Ragtime

Dale Wolford, saxophone
Ivan Rosenblum, pf
William Trimble, saxophone
Kathleen Nitz, soprano
Sylvie Braitman, mezzo-soprano
Stephanie Friedman, mezzo-soprano
Erica Lann Clark, actress

最初の曲から、民族音楽を奏でるドライなサクソフォンの響きが耳を突く。これってどこかで聴いたことがあるなあ、と思ったら、John Harleの「habanera」に近い音作りだな、と気付いた。そういえば、かのアルバムの一曲目も、ベラ・バルトークの作品だったのだった。至極真っ当な奏法で、純粋に民族音楽の響きを楽しむことができる。圧巻はラッシャー父娘に捧げられたというソプラノサクソフォンとアルトサクソフォンのための「イェフタ」で、強烈なフラジオ音域を伴うソプラノサクソフォンが、作品の特徴をよく表している。

このアルバムの中心に置かれているのが「I Never Saw Another Butterfly」である。テレージンシュタット強制収容所に投獄されていた子供たちの書いた詩を基にした、サクソフォン、ピアノ、ナレーション(歌)のための作品。強烈なメッセージ性を持ち、夢幻的な響きとどうしようもない現実が交錯する。ライナーノートに書かれたテキストを読みながら聴いていると、なんともやりきれないのである。これをキッカケとして、ホロコーストや強制収容所のことなどWikipediaで調べ始めてしまったのだから、ますます気分が落ち込んでしまうのだった。

続けてその魂を慰めるかのような「Eli Eli」に、やや新世代の響きも垣間見える「無言歌」。最後に置かれた2曲は、ボードヴィルふうのなんとも楽しげな作品だった。最初から最後まで聴くと、まるでユダヤ系民族の歴史をたどってしまったかのような感覚に陥る。単に聴き流すことのできない、不思議な魅力を湛えたCDだ。

0 件のコメント: