「佐藤渉 Saxophone Recital(Cafua CACG-0175)」
C.ケックラン「練習曲 2, 5, 9」
N.シェドヴィル「"忠実な羊飼い"からソナタ第6番」
J.ウィリアムズ「エスカペイズ」
R.ムツィンスキー「ソナタ」
P.M.デュボワ「協奏曲」
雲井雅人サックス四重奏団のメンバーとしてもおなじみの佐藤渉さんの、ファーストアルバム。独奏としてのCD収録は、実はこれが初めてというわけではない。アメリカ時代にシンシナティ交響楽団と吹き込んだGerhard Samuel「Remembering Orpheus」(未聴)でのクレジットというものがあるが、これはそんなに日本では有名ではないだろう。
佐藤さんの演奏は、これまでも様々に聴く機会があったが、特に印象深いのはマスランカ「レシテーション・ブック」のレッスンを受けたときのことである。これが普段聴いているアルトサックス、圧倒的な鳴りと豊かな響きに驚いたものだ。呼吸法とアンブシュアによる鳴りのコツを教えてもらったのだが、なるほど、最近のフレンチ・スタイルとは一線を画すコンセプトに、私たちが雲井雅人サックス四重奏団の演奏で「マウンテン・ロード」や「レシテーション・ブック」を聴いたときの、感動の秘密を見たような気がした。
ソロ・リサイタルは都合が合わず伺えなかったので、ソロCD発売はずっと楽しみにしていた。選曲も気合いの入ったもので、ぜひ多くの人に聴いてもらいたいものだ。ちなみに、超個人的な感覚では、ウィリアムズとムツィンスキーというアメリカン・サクソフォンを代表する2曲が収録されているのが嬉しかったりする。
ケックラン作品から、その美しい音色と豊かなフレージングを堪能することができる。ケックランの第2楽章とは、また憎いところを持ってきたなあ。思いつきはしても、ケックランの緩徐楽章を冒頭に配置するなど、なかなかできる芸当ではない。(フランス産とはいえ)古典的な様式美を持つケックラン、続けてバロック風のシェドヴィルという、奏者の音楽性が裸にされる作品を並べるとは…。
ウィリアムズ(そう、あのジョン・ウィリアムズ)の「エスカペイズ」は、前の2曲に比べればかなり強烈な印象を残す。ウィリアムズらしいネオ・クラシックの雰囲気に乗せて、サクソフォンが目まぐるしく駆け回る。こういう曲をクラシックとポップスの絶妙なバランスでさばいてしまうのが、佐藤さんの魅力である。この曲がついに日本でも知られるところになった、というのも、嬉しいポイントだ(国内発売のCDに組み込まれる、というのは、ある作品にとっては大きな事件である)。
ムツィンスキーも名演と呼ぶにふさわしい。好きな曲であるので、なおのこと気になってしまうのだが…。特に第2楽章はスピード先行型かと思いきや、ゴツゴツしたリズムを丁寧に掴んで演奏しており、よい意味で裏切られた気分だ。最近はいろんなプレイヤーがムツィンスキーを吹き込んでいるが、その中でもトップクラスの演奏ではないだろうか。雲井雅人氏が指揮を振ったデュボワも、おそらく相当な準備の上に臨んだのだろう、あのルソーの演奏を思い起こさせるものであった。
ひとつだけ不満点を書いておこう。ライヴで佐藤さんの演奏を聴いたときに感じられる、あの強烈な響きが、CDからは感じ取れない。これは、演奏・録音云々の問題ということではなく、CDというメディアの限界なのかもしれない。というわけで、気になる方はCDを購入しつつ直接聴ける機会を心待ちにしましょう。
雲井さん、林田さん、佐藤さんと来れば、次は西尾さんのCDを期待してしまいますな(笑)
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