2010/09/17

ギャルド復刻CDレビュー(ディスク1)

というわけで、ようやくレビュー開始。長くなりそうなので二回に分けることとした。

第6代楽長、ピエール・デュポン Pierre Dupont指揮ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団 Musique de la Garde Républicaine。録音年代は、1927年から1935年となっている。シュミットやパレスなどのオリジナル作品も散見されるが、全体を通して取り上げられている多くは編曲物で、この時代の吹奏楽のレパートリー開拓の方向性が分かるようで、面白い。

Disque No.1
Florent Schmitt - Dionysiques (F.Columbia DFX-137/ D-11012)
Gabriel Pares - Richilde (D-11022/3)
Franz Liszt - Rapsodie hongroise No.2 (DFX-202)
Alexis Emmanuel Chabrier - Espana (D-11019)
Carl Maria Friedrich Ernst von Weber - Invitation a la valse (D-11040)
Franz Liszt - Le preludes (DFX-55/6)
Mehr - Air Varie Sur Un Theme Suisse (D-11041)
Carl Maria Friedrich Ernst von Weber - Freischutz (D-11042)

ディスクを再生してみよう。SP特有のノイズに続いて、ディオニソス冒頭の低音楽器が登場。ノイズは気にならず、むしろその奥から聴こえる音楽に耳が捉えられる。2001年にEMIから20枚一気にリリースされた復刻盤を少しだけ聴いたことがあるが、それらと音質を比較してしまうと、比べものにならない(そういえば、当時の復刻盤には「ディオニソスの祭」も後半部分しか収録されていなかった)。9年の時を経た木下直人さんの研究成果が、ここに実を結んでいることがよく判る。「ディオニソスの祭」は、個人的に好きな吹奏楽オリジナル曲ベスト1であり、ブラン楽長時代にギャルドが来日した折、杉並公会堂でワンテイク録音したものを愛聴していたが、その録音とほとんど変わらない解釈に驚いている。テンポ設定など、ほぼそのままではないか?デュポン楽長時代には、この曲の解釈の完成形が呈示されていたということに、驚きを感じる。ブラン楽長の録音が、ライヴ感にあふれたものだったのに対して、(SP時代とはいえ)きちんとした録音セッションの形を取ったデュポン楽長の録音のほうが、室内楽的な緻密さでは勝るだろう。どちらが良いかは、お好みで…。

二曲目のガブリエル・パレス「リシルド序曲」。これは、ギャルドの第4代楽長だったパレスが、楽団のために作曲した作品なのだそうだ。2つの主題が複雑な綾を成しながら、最後に待ち受ける感動的なクライマックスへと突き進む。「ディオニソスの祭」でも感じたのだが、クラリネットセクションのアンサンブル能力の高さには、まったく恐れ入るばかりである。そこに重なるサクソフォンと、木管群のえも言われぬ響き、けっしてがなり立てることのない金管セクション。冒頭でもクライマックスでもその音質が保たれている。きっと、奏者も指揮者も恐ろしいほどに冷静なんだろうな…。

そして、直後の「ハンガリー狂詩曲」の冒頭で、鳥肌がたつ。SPの違いによるものなのだろうか、とつぜん音像がさらにクリアになるのだ!序奏の部分から、非常にユニークな解釈が散りばめられ、テンポが揺れる揺れる。しかし一糸乱れぬアンサンブル…デュポン楽長の統率力の賜物だろうか。この曲は、各所にソロの部分が設けられているのも聴きものだ。この時代のギャルドを聴く楽しみの一つに、20世紀前半に活躍したフランス管楽器界の名手たちのソロを聴くことができる、というものがある。後半にかけては、ここでもクラリネットセクションが名技を披露するが、合いの手を入れる不思議な音色のセクションにも注目。これがサクソルン属かな?

ちょっと書き終わらなさそうなので、ペースを上げていく(苦笑)。シャブリエとウェーバーの2曲は、普通のオーケストラのバージョンで聴くよりも、引き締まって輝きが凝縮されているように感じる。リハーサルの回数が、おそらく並でないのだろう。細かい部分まで、決してぼやけることなくベクトルの揃った音楽。デュポン楽長は、オーケストラには出せない吹奏楽の魅力を存分に引き出していると思う。例えばこれを現代のオーケストラや吹奏楽の演奏で聴いた時に、どういったところにその団体の個性を出すことができるのだろうか。

リストの交響詩"レ・プレリュード"は、15分という長い時間の録音。こういう曲がSPで聴けるなんて、ちょっと感動モノだ。長時間にわたって集中力の高い音楽が奏でられる。計算しつくされた構造(とは言っても、まだ全部を把握しきれていないが…)により、聴き手は音楽に没頭させられる。もちろん、どんな弱層部分においても安定感は抜群。様々な音色が飛び出し、編曲の手腕の高さも伺わせる。

続く「スイス民謡の主題による変奏曲」は、独奏者…ルネ・ヴェルネイ(cl.)、ウジェーヌ・フォヴォー(tp.)、そしてサクソフォンにマルセル・ミュール(!)らをフィーチャーしたヴィルトゥオジックな一品。サクソフォン的興味として、この時代はまだヴィブラートが研究途中であったミュールが、吹奏楽の中でのヴィブラートの使い方について試行錯誤をしている真っ只中の演奏を聴ける、という点でも貴重だろう。音色は丸く、しかしヴィブラートが妙にちりめん状にかかっており、ちょっと微笑ましいというか、なんというか。ディスク2で聴くことができる「タンホイザー」の録音時には、すでにそのスタイルは確立されている。この2枚組のCDの各所で聴こえてくるサクソフォンの音色は、時代によって少しずつ変化しており、その辺りも聴きどころだろう。

さらにパワーアップしたディスク2のレビューは、明日の続きの記事にて。

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