エディソン・デニゾフ「ソナタ」がデニゾフとロンデックスとのコラボレーションにより作曲された、という事実は、比較的良く知られているが、もう少し詳しい話はあまり知られていない。そもそもは、ロンデックスがロシアツアーを行ったことに端を発したようだ。
1970年3月、ジャン=マリー・ロンデックスはドミトリ・カバレフスキーに招かれて、ロシアツアーを敢行した。このツアーの目的は、サクソフォンのデモンストレーションを行うことで、ロンデックスはモスクワとサンクトペテルブルグ(レニングラード)においてリサイタル、マスタークラス、レクチャー、ラジオ収録等を行った。
ロンデックスはこのツアーの最中、ソフィア・グバイドゥーリナ(後にデュオ・ソナタやイン・エルワルタンを作曲している)やドミトリ=ニコライエヴィチ・スミルノフ(四重奏のためのミラージュが有名)ら、多くの作曲家との出会いがあったそうだが、デニゾフとの出会いこそが後のサクソフォン界おいて最も重要なものとなったと言える。
デニゾフとロンデックスが会合したのは3月24日。サクソフォンのレクチャーを行った後、デニゾフは大変なインスピレーションを受け、サクソフォンのための作品の作曲を申し出た。ロンデックスもデニゾフの「インカの太陽」などを聴いて、期待を膨らませたようだ。デニゾフは作曲に際して、サクソフォンをもっと良く知りたいと考え、ロンデックスに対してサクソフォンの特殊奏法をテープに録音して送ってくれないかと、ロンデックスに依頼した。
ツアー終了後、フランスに戻ったロンデックスは、早速特殊奏法の録音を行い、テープをデニゾフに送付した。その時ロンデックスが書き送った手紙は、SaxAmEから参照することができる。手紙とテープは別便で送ったようだ。また、パテ・マルコニ(EMI France)からの録音の提案に、新作を収録したいという旨も伝えている。
・ロンデックスからデニゾフへの手紙
手紙とテープを受け取ったデニゾフは、ロンデックスにお礼の手紙を返送している。デニゾフがサクソフォンに対して、大きな興味を抱いている様子がわかる。サクソフォンとピアノという編成以外にも、いろいろ書きたいと考えていたようだ。
・デニゾフからロンデックスへの手紙
「ソナタ」の作曲は急ピッチで進められ、同年の8月に初稿が完成。2人の共同改作業によって、主に特殊奏法に関する改訂が行われた。ロンデックスが最終稿を受け取ったのは10月10日。同年12月には、シカゴで開かれた第2回世界サクソフォン・コングレスでピアノのミルトン・グレンジャーとともに初演を行い、大きな反響(ポジティヴ&ネガティヴ双方)をもって迎えられた。翌1971年4月には、パテ・マルコニに吹き込みを行っているが、これが「Le saxophone français(EMI)」等から参照できる演奏である。
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