2007/07/07

Quatuor Jean Ledieu

ジャン・ルデュー Jean Ledieu氏は、フランスのサクソフォン奏者。デファイエ四重奏団にバリトンサクソフォン奏者として参加していた、ということが良く知られている。サクソフォン四重奏のスタンダードなレパートリーに関して、後世に向けて唯一無二の録音を数多く残した。また教育者としても、ナンシー音楽院のサクソフォン科教授に就任し、数々の優秀なサクソフォニストを輩出した。

ところで、デファイエ四重奏団の演奏は、頭の中に完全に刷り込まれている。EMIに吹き込まれたピエルネやデザンクロの、あの言葉では言い表せない魅力を放つ、バリトンパート。高校時代~大学の初期にかけては、私は主に四重奏でバリトンを担当していたが、一体全体どうやったらこんな音色が出るんだ!と、驚いたものだ。そのとき以来、私がもっとも好きなバリトンサックス奏者は、ジャン・ルデュー氏だと言い張っている。叶うものなら、ルデュー氏の眼前で、「あなたのサックスが大好きなんです!」と大声で言いたいくらいなのだ。←謎

まあそれは良いとして、話を元に戻そう。1988年8月、川崎での世界サクソフォン・コングレスにおいてデファイエ四重奏団は大野和士指揮東京都交響楽団とロジェ・カルメルの「コンチェルト・グロッソ」を演奏した。そのコンサートを最後に、デファイエ四重奏団は解散してしまったのだが、その後ルデュー氏が自身の門下生とともに四重奏団を結成した…というのは、あまり知られていないかも。

メンバーは以下のとおり。ちなみにテナーは、後にヤン・ルマリエ Yann Lemarieと交代している。下に掲載するジャケット写真を見ても判るとおり、「世代が違う」どころか、「親と子」かと思うような年齢の離れっぷりが特徴的。

ファブリス・モレッティ Fabrice Moretti(ss)
ドゥニ・バルド Denis Bardot(as)
フィリップ・ポルテジョワ Philippe Portejoie(ts)
ジャン・ルデュー(bs)

CDが何枚か存在するので、私の持っている二枚を紹介しておこう。一枚目は、ルデュー四重奏団のデビューアルバム「Singelee, Pierne, Pascal, Absil(Opus 91 2408-2)」。

・サンジュレ「四重奏曲第一番」
・ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」
・パスカル「四重奏曲」
・アブシル「ルーマニア民謡の主題による組曲」

ルデュー四重奏団が、サクソフォーン四重奏曲の定番曲ばかりを集めて、1992年にレコーディングしたもの。5年近く前に、amazonで偶然買った。amazonにはそれっきりほとんど入荷が無いため、今考えるとラッキーだったかも知れない。アブシル、サンジュレなどは、数ある実演やCDの中で、いまだにこの演奏が私の中でのスタンダードとなっている。

サンジュレを聴いてみよう。伝統的なフランス・アカデミックの流れを汲む、耳に優しい音色が心地よい。ともすれば縦の線は合っていないような感じも受けるが、4本の繊細な糸を紡いでいくようなポリフォニー的な音楽作りは、ため息が出るほどに美しい。変な例えだが、デファイエ四重奏団がサンジュレを録音したらこうなったのだろうな…、という思いが巡る。

その思いの基となるのは、ピエルネやパスカルの演奏。まるでフランス人同士の、他愛の無いおしゃべりを耳にしているかのように聴こえてくるのだ。かなりのアンサンブル力を必要とされるような難所も、それぞれの奏者の半端ないセンスでもって、いともたやすく切り抜けていってしまう。日本人が陥りがちな、ガチガチの解釈とは無縁の演奏だ。

もう一枚は、2002年の四重奏団解散の直前にレコーディングされたCD。「Bach, Boutry, Pascal, Planel, Rueff(Polymnie POL 490 115)」

・ブートリー「花火」
・バッハ/パスカル編「フーガの技法より」
・パスカル「四重奏曲」
・パスカル「スケルツォ」
・リュエフ「四重奏のためのコンセール」
・プラネル「バーレスク」

テナーがヤン・ルマリエ氏に交代した、最初で最後のアルバム。何といっても、パスカルとリュエフが含まれているのが目を引くだろう。デファイエ四重奏団の伝説的LP(CBSソニー盤)を思い起こさせる。

かなりデッドな会場である上に音場が近く、録音状態でかなり損をしているが、演奏は見事だ。特にルデュー氏、このとき73歳くらいだったはずだが、そんな齢を微塵も感じさせない楽器のコントロールと音色。これ聴いて、自分の中で「73歳になっても(バリトン)サックスを吹く」という密かな目標を設定したのは、いつのことだったか。

リュエフ、パスカルは、さすがにデファイエ四重奏団の全盛期の録音に采配が上がるだろうが、それにしても(おそらくほとんど意識せずに)曲の魅力を存分に引き出しているのは、さすが。本質的に"音楽家"であるということは、こういう演奏ができる人たちのことを言うのでしょうね。アンコールとして配置されたプラネル「バーレスク」の、エスプリたっぷりの演奏を聴きながら、何だか嬉しくなってしまった。

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そういえば、デュボワとカルメルのサクソフォーン四重奏協奏曲に、フェルド「四重奏曲」とリヴィエ「グラプレ」がカップリングされたCalliope盤、どこかにないかなー。在庫情報ありましたら、どなたかお教えくださいませ。

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