2022/04/03

サクソフォンを含む管弦楽作品:ミヨー「世界の創造」の名盤

ダニエル・デファイエ氏が管弦楽作品に参加した録音は数多い。有名なところだと、
・ヘルベルト=フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィル:ビゼー「アルルの女」(新旧録音あり)
・ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団:イベール「祝典序曲」
・ジャン=バティスト・マリ指揮パリオペラ座管弦楽団:ドリーブ「シルヴィア」
・マリウス・コンスタン指揮ドビュッシー「ラプソディ」
・アンドレ・ジョリヴェ指揮パリ音楽院管弦楽団:ジョリヴェ「ピアノ協奏曲」
・アンドレ・ジョリヴェ指揮ラムルー管弦楽団:ジョリヴェ「トランペット協奏曲第2番」
・バーンスタイン指揮フランス国立管弦楽団:ラヴェル「ボレロ」
…あたりだろうか。

デファイエ氏が奏でるサクソフォンの音色は、オーケストラの一席であっても、稀な存在感を持ち、たとえオン・マイクの録音ではなくても突き抜けて聴こえてくる。響きのみならず、テクニック、解釈etc.含めて多くのサクソフォン奏者にとってお手本になるような、そんな録音の数々だ。

その中でも、特にバーンスタイン指揮フランス国立管弦楽団のミヨー「世界の創造(EMI 1976年)」は、管弦楽曲の中のサクソフォン演奏のひとつの到達点として、必ず押さえておくべき録音といえる。いろいろな考え方はあると思うが、この響き、解釈、フレージング、ヴィブラートは、普遍的なもので、サクソフォンを学ぶ若い方に必ず知っておいてほしい、そんな内容だと思っている。「序曲」で、長音符で圧倒的な響きを披露したかと思えば、「創造の前の混沌」「男女の誕生」では他の管楽器・弦楽器との音色の融合も聴かれ、「色恋」のサクソフォンの即興風フレーズでは、他の楽器が乱痴気騒ぎを繰り広げる中で、悠々とした演奏を披露する。


同じくデファイエ氏が参加した録音として、ダリウス・ミヨー指揮シャンゼリゼ劇場管弦楽団(1956年)、ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団(1961年)の録音もあり、そちらの演奏もぜひ聴いてほしい。驚異的なことは、どの時代の録音にあっても、ほぼサクソフォンの解釈が変わらないことだ。

関連して、もう一つ面白い私的なエピソードを。デファイエ氏参加の演奏に慣れきってしまった私としては、現代のオーケストラ、現代のサクソフォン奏者が奏でる「世界の創造」がどうもピンと来ないことが長く続いていた。もう冒頭の一音目から、コレジャナイ感がもの凄く、瞬時にして聴く気が失せる…という。そんな中、クリスチャン・リンドベルイ指揮スウェーデン・ウィンド・アンサンブル(BIS)という録音がリリースされる。サクソフォンはクロード・ドゥラングル氏。ウィンドアンサンブルだが、「世界の創造」はきちんとオリジナルの編成で演奏されている。


これはもう間違いなくピンと来ない演奏になるだろう…と思って、全く期待せずに聴き始めたところ、驚いた。間違いなく、デファイエ氏を意識した演奏だったのだ!フレーズの取り方やヴィブラートなど、1976年の演奏を現代に蘇らせようとしている録音なのだ。

2022/03/30

アダムズ「シティ・ノワール」初演の補足

一つ前のエントリにて、初演ライヴ録音/演奏を紹介したが、その演奏の最後の描写がなかなか感動的なのだ。

実際の映像をぜひご確認いただきたいのだが、初演に臨席していたアダムズが、ドゥダメルに呼ばれて壇上に上がったのち、真っ先にマカリスターを聴衆に向けて紹介するのだ。それだけ、「シティ・ノワール」のサクソフォンのソロにアダムズが感銘を受けていた、ということなのだろう。この出来事が、その後の「サクソフォン協奏曲」の制作・初演に繋がっていることは明白である。

ニューヨーク・タイムズ紙の、アダムズのインタビューを抜粋する。

https://www.nytimes.com/2013/09/18/arts/music/classical-saxophone-an-outlier-is-anointed-by-john-adams-concerto.html

電話インタビューで、アダム氏はマカリスターの強みを熱心に語っていた。「偉大な芸術家にとっては、楽器の細部、つまりリード、マウスピース、パッド、そういった小さな、小さな、極小の物理的細部が極めて重要になってくるのです」とアダムズは言いました。「そして、彼の絶対的な、不屈の精神で、何でもやってみようとする姿勢も素晴らしいと思っています」。

マカリスターは、このチャンスを掴みました。「私個人としては、アダムスはNo.1でした。彼は、私たちが手に入れたい、いや手に入れる必要がある最大のゴールでした」と彼は言っています。「深いポリリズムの構造、巨大な氷河のような形こそが、彼の音楽のトレードマークです。その中でサクソフォンが扱われていることは本当にエキサイティングなことです」。

2022/03/27

サクソフォンを含む管弦楽作品:アダムズ「シティ・ノワール」の名盤

グスターボ・ドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックのライヴ録音(2009年)。ジョン・アダムズ「シティ・ノワール」初演にして最高傑作と断言する。

人気指揮者の大舞台ということで、日本国内でもNHKで映像が放映され、その熱い演奏が当時話題となった。事前の下馬評では、メイン曲であるマーラー「交響曲第一番」への期待が高く、「世界初演」は、ほぼ世間の眼中に無かったようだが、演奏会後の話題をかっさらったのはこの「シティ・ノワール」であった。

モダンなジャズの影響を色濃く受けた作品で、これがドゥダメルのキャラクターにどハマり。シモン・ボリバル・ユース・オーケストラを率い、「マンボ!」で一世を風靡した"若き"指揮者が、LAフィルという、技術的にもエンタメ的にも充実した手兵を得て、未知の作品に体当たりしたのだ。面白くないはずがない。映像はDVD化/配信などもされているが、とにかく激しく、熱く、アダムズの分厚い響きをホール一杯に昇華させている。

サクソフォンは、ティモシー・マカリスター。巧さが際立つ。巧いとはいっても、サラサラっと行くわけではない。スコアを見ていただければわかるが、とにかく「どう吹くべきか」というのが想像がつかない音運びだが、この初演一発目にして、極めて説得力ある、完成された解釈を提示してしまう驚き。

スコア参考(アカウント作成で無料で参照可能):https://www.boosey.com/cr/perusals/score?id=982

現代サクソフォンの完成形が聴ける場として、ぜひ多くの方に聴いていただきたい録音/映像だ。

2022/03/26

サクソフォンを含む管弦楽作品:名作セレクション

 ビゼー「アルルの女」、ムソルグスキー/ラヴェル編「展覧会の絵」、ラヴェル「ボレロ」、ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」「パリのアメリカ人」など、サクソフォンが使われている管弦楽作品はそれなりに存在し、それなりに演奏機会も多いため、それなりに耳にする機会も巡ってくる。

しかしながら、サクソフォンの魅力を全方位から(響き、歌、機動性)引き出す、管弦楽作品での活用例はごくごく限られているだろう。さらに悪いことに、作品がマイナーなこともあって演奏機会が少なく、一般聴衆はおろか、サクソフォン奏者にも知られていない、という状況が発生している。

個人的に考える、オーケストラの中のサクソフォン:名作セレクションは、下記の3つ。引き続き、別の記事で録音についても触れたい。

・ダリウス・ミヨー「世界の創造(1923)」:ミヨーが作曲したバレエ音楽。世界の始まりの神話の世界をモチーフにした物語が基礎にありながら、音楽自体にはミヨーが米国訪問時に耳にしたジャズ(1920年代の)をふんだんに取り入れている。サクソフォンは、「序曲」のレガート風旋律から、熱狂的な後半部まで、一貫して存在感を放つが、特に聴きものは終盤の乱痴気騒ぎの中に、悠々と歌う即興風のメロディだろう。

・ジャック・イベール「遍歴の騎士(1933?/1950)」:こちらもバレエ音楽で、ドン・キホーテの物語に付加された、スペイン情緒溢れる作品。セクションワークの他、無伴奏でのvヴィルトゥオジックなカデンツァなど聴き応え十分。中間楽章は「黄金時代」として単独でも演奏される。1933年にイベールが音楽を担当した映画「ドン・キホーテ(J.W.Pabst監督作品)」に基づいた再編集作品との情報があり、件の映画のサウンドトラックを着目(耳?)しながら観てみたのだが、どうも関連性が見出せなかった。別の作品かもしれない。

・ジョン・アダムズ「シティ・ノワール(2009)」:ロサンゼルス・フィルハーモニックのグスターヴォ・ドゥダメル芸術監督就任記念演奏会に向けて作曲された委嘱作品。モダン・ジャズの空気管に支配された分厚いハーモニーの上を、各ソロ楽器の走句が縦横無尽に覆いつくす中にあってなお、サクソフォンが放つ存在感そのもに感動を覚える。この作品をきっかけにアダムズ「サクソフォン協奏曲」が生まれたのだが、その話はまた次回に。

2021/10/20

Instruments a vent français(木下直人さんより)

だいぶ昔から存在は知っている盤だが、聴いたのは初めてだった。これも木下直人さんに送っていただいた。

Erato(原盤)STE50212という型番の、木管楽器オムニバス盤。国内では、日本コロムビアから販売されていた。国内盤のジャケッは、素材は同じだが色合いやレイアウトが違う。

フルートのマクサンス・ラリュー、オーボエのピエール・ピエルロ、バソンのモーリス・アラール、クラリネットのジャック・ランスロ、ピアノのアニー・ダルコ、そしてデファイエが独奏として、デファイエ四重奏団として…錚々たるメンバが参加した豪華な企画盤である。サクソフォン的興味のみならず、フランスの管楽器ファンにとっては垂涎モノの内容ではないだろうか。もちろん、サクソフォンの演奏も十分豪華なのだが、それ以上に弾けるようなみずみずしさを湛えたA面ばかりを聴いてしまう。

ヴィヴァルディ「協奏曲 フルート、オーボエ、バソンのための」
テレマン「オーボエ・ソナタ」
モーツァルト「バソンとチェロのためのソナタ」
フォン=ウェーバー「ヴァリエーション・コンチェルタンテ」
グラズノフ「カンツォーナ・ヴァリエ」
ガロワ=モンブラン「6つの音楽的エチュード」
リヴィエ「グラーヴェとプレスト」

サクソフォンのトラックについては、「カンツォーナ・ヴァリエ」はシューマン風が省略されており、「6つの音楽的エチュード」についてはトリル、スタッカートのみの抜粋となっている。収録時間の関係だろうか。

デファイエ氏の演奏は極めて冴え渡っており、数ある録音のなかでも非常に聴きごたえのあるものだと感じた。復刻環境のせいもあると思うが、古い録音ならではの、原盤起因の解像度の低さやノイズはあるものの、音楽のコアがきちんと捉えられていて、耳が吸い付いていく(たまに商用録音であるような極端に加工された復刻は聴き疲れしてしまう)。

「グラーヴェとプレスト」は、EMIの録音でも有名だが、こちらはより統制が取れ、モダンな演奏に聴こえる。4人の音楽性が発揮された上での統制…面白くないはずがない。そして、EMIの冒頭の編集ミスのようなものは無い(当たり前といえば当たり前だが)。「カンツォーナ・ヴァリエ」は、これはぜひ第1楽章や第3楽章も聴きたかった、録音として残してほしかった…と叶わぬ願い。

2021/10/16

魅惑のサクソフォーン(木下直人さんより)

木下直人さんより、いくつかの復刻を送っていただいた(いつもありがとうございます)。少しずつ紹介していきたい。

今回は、丸針ではなく、楕円針を使っている。この形状に正解は無く、聴きながら判断していく、とのこと。この判断と取り扱いは非常に難しいところがあるようだ。

「魅惑のサクソフォーン(邦題)=Les classique du saxophone」は、マスターテープからのCDでも所有しているが、国外原盤のLPからの復刻。聴き比べがとても面白かった。LPからの復刻を聴いていくと、トラックごとの、録音環境の違い(マイクの位置だろうか、音場がトラックごとに違う)が顕著に目立つのに対して、CDを聴くと巧妙に調整され、差異が目立たないようにされているのだ。

このアルバム、聴き流すと「ダニエル・デファイエ氏の気品あふれる演奏」というありふれたものにしかならないが、高い精度で分析的に聴いていくのも一興。"完璧"ともいえるCrest盤と比べると、人間味を感じる場面が多い。そのせいか必ずしも評価が高いアルバムではないが、聴き疲れとは無縁の、気楽に音楽に浸ることができる、という点で気に入っている。

2021/07/31

デザンクロ作品のレア録音 on Internet Archive

アルフレッド・デザンクロ Alfred Desenclosの作品のうち、これまで商用録音としてリリースされていなかった(と考えられる)ものが、有名なデータベースサイトの「Internet Archive」にアップロードされているのを発見した。

ツイッター上でU(S)氏が、「弦楽とピアノのための五重奏曲」の録音について言及されているものを見つけ、「まさか他にないよな…」と軽い気持ちで検索してみたところ、出てくるわ出てくるわ、聴きたかった作品のオンパレード。ぜひ多くの方に聴いていただきたい。

 特に嬉しかったのが「交響曲」で、存在+タイトルだけ何年にもわたり知識として持っていたが、どんな作品なのか気になりすぎて、今年頭にスコアをレンタルしたのだった。楽譜だけで音は鳴らせないので、MIDIで打ち込んでみるか…と思案していたところに、まさかの本家フランスのオーケストラの録音の存在が発覚し、嬉々として聴いた。とにかく、名曲。ダイナミックな音楽の流れと、緻密さの同居(解像度の低いモノラル録音では"緻密さ"は聞き取りづらいが‥)。蘇演を望む! 

 「レクイエム」は、オルガン版の録音はいくつか存在しているが、オーケストラ版だと違った空気感が漂う。これはぜひ実演で接してみたい(ただし、この録音は演奏技術的にはいまいちか)。 

 ダークホースで、録音がすでに多く存在しているものの、まさかのモーリス・アンドレ演奏の「祈祷、呪詛、踊り」。歴史上最も輝かしく、破天荒なトランペットによる同曲の解釈。オービエによる演奏他、広く聴かれている録音を吹き飛ばすようなパワーに満ち溢れた演奏だ。知られていなかったのが「交響曲」並にもったいない。こちらもぜひ一聴を。 

「交響曲 Symphonie」
Eugene Bigot指揮 フランス国立放送管弦楽団 

「ピアノ五重奏曲 Quintette pour codes et piano」 
Marie Therese de Bosse Quintet 

「レクイエム Requiem」
Nicholas Koye指揮St. Mary Magdalene Music Society Orchestra/Chorus 

「祈祷、呪詛、踊り Incantation, therene et danse」 Eugene Bigot指揮 フランス国立放送管弦楽団 トランペット:モーリス・アンドレ Maurice André 

 「Trois vœux」
演奏者不明