2009/03/07

マスランカ「レシテーション・ブック」内のメロディ(続きの続き)

昨年の記事で第2楽章と第5楽章について調べ、ひと月ほど前の記事で残りの楽章について調査を行ったものの、第4楽章だけはわからず終いだった。いくら調べても判らなかったのでマスランカ氏に訊いてみたところ、つい先日返答があった!「Chants of the Church」というグレゴリオ聖歌集の「O salutaris Hostia」というメロディを拾い出し、旋律線を重ねていくという手法で作曲した、とのことだ。

そこで早速「Chants of the Church」という書籍について調べてみたところ、これはCharles E. Spenceという人がグレゴリオ聖歌を編纂し、Gregorian Institute of the Americaという機関から1953に出版されているものだった。1953年出版ならば、パブリック・ドメインになっているはず…と思って探したところ、おお、あったあった。

早速楽譜を開いてみたところ、発見!Selected Gregorian Chantsのセクションの、32番「O salutaris Hostia. II」だ。以下がその楽譜となる(クリックして拡大)。読み方としては、楽譜の左上に付いている黒い点々がハ音記号ということなので、第2線、すなわちAから始まることになる。まさしく、あの第4楽章の音運びに間違いない!レシテーション・ブックではAbから始まっていたので、原曲とは半音の差があるということだ。

演奏会前に、なんとか調べがついて良かった。

【ご案内】東北大学学友会吹奏楽部サクソフォーンアンサンブル

仙台サックスのお知り合いの方の情報で知ったのだが、今日、しかも、もう1時間後の開演だそうだ(汗)。私たちTsukuba Saxophone Quartetと同じく、学生の吹奏楽団体から派生したサクソフォンアンサンブルとして、後輩から伝え聞いていた東北大学のサックスは気になる存在だったが、まさか演奏会の準備が進んでいたとは知らなかった。

直接の知り合いはいないし、演奏会についてもついさっき知ったので許可は得ていないのだが、せっかくなので情報を掲載しておく。プログラムに、「セントポール組曲」が入ってる!ご盛会をお祈りします!

【東北大学学友会吹奏楽部サクソフォーンアンサンブル第1回定期演奏会】
出演:東北大学学友会吹奏楽部サックスパート、赤崎裕之(cond.)
日時:2009年3月7日(土) 17:30開場 18:00開演
会場:仙台市民会館小ホール
料金:入場無料
プログラム:
渡部哲哉 - サクソフォーン五重奏のための舞楽「古都の彩」
A.デザンクロ - サクソフォーン四重奏曲
A.L.ウェバー - サクソフォーンオーケストラのための「THE MUSIC OF THE NIGHT」
G.ホルスト - セント・ポール組曲 他
問い合わせ:http://tohoku-sax.org/concert/

2009/03/06

木下直人さんから(ミュールのSP第1集)

木下直人さんから、CD-Rを送っていただいた。長年の調査・研究の末、Pierre Clementカートリッジを使用したSPの再生環境が整ったのだそうだ!!それに伴って、決定版の復刻を開始したということで、マルセル・ミュールのSPを復刻して送っていただいた。

これは、疑うことなく世界最高の復刻と言える。1950年代のPierre Clementを含む諸機器をオーバーホール(その方法も、試行錯誤を繰り返した驚くべき完璧さを誇る)し、当時の機器を当時の状態で再生しているのだ。まったく、素晴らしいというほかない。これを聴くと、SPよりもLPのほうが音質が良いだなんて言えなくなってしまう。ノイズなどまったく関係なく、その奥に存在する"音楽"が、そのまま眼前に広がる。

今回送っていただいた録音のリストは、以下。SP1枚ごとに洗浄→録音を繰り返すなど、大変な手間をかけているそうだ。深く感謝申し上げる次第である。

(Disque Gramophone DB-5062/5063)
Jacques Ibert - Concertino da Camera
Pierre Vellones - Rapsodie

(Disque Gramophone L-1033)
Gabriel Pierne - Introduction et Variations sur une ronde populaire

(Disque Gramophone K-5989)
Wolfgang Amadeus Mozart - Ave Verum Corps
Nicolai Rimsky Korsakoff - Scherzo

(Florige HP-2002)
Pierre Vellones - Andante (from "Concerto")

(Florige HP-2053)
Eugene Bozza - Concertino

(F.Columbia DF-2239)
Eugene Bozza - Scherzo (from "Andante et Scherzo")
Jean Françaix - Serenade comique (from "Petit Quatuor")

(Parlophone 80.755)
Joachim Raff - Inquietude, Explication

(F.Columbia DF-1557)
Gabriel Pierne - Canzonetta
Félicien Foret - Patres

(F.Columbia DF-853)
Camille Saint-Saens - Le cygne
François Combelle - Variations sur Malborough

(Disque Gramophone K-6007)
Felix Mendelssohn - La fileuse
Pierre Vellones - Le dauphin

木下さんから許可を得ましたので、いくつかのトラックを、ブログをご覧の皆様に対してMP3ファイルなどで公開したいと思っています。こちらは準備中…しばしお待ちください。例えば、ミュールの録音というと筆頭に挙がるイベールの「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」、復刻されたものは数多く出ているけど、これを凌駕するものはおそらく他には存在しないだろう。もちろん、そのほかのトラックに関しても同様。

CD-Rに記録されたデータを、できる限り忠実にPCにリッピングしようと思っている。音楽CDって、リッピング手法によっては、データの読み込みや訂正をすっ飛ばしたりして、音質が落ちることがあるのだ。CD記録時のリード・ソロモン符号化の仕組みを知れば、一定以上のデータが読み飛ばしや傷などによって情報が欠落すると、元のデータと差異が生じることがわかる。

2009/03/04

クレストン「ソナタ」のオケ版

ポール・クレストン「ソナタ」を、サックスとオーケストラにアレンジしたというものが登場したそうだ。アレンジしたのは、Marco Cicconeというイタリアのピアニスト。

…どんな響きなんだろ。しかも、なんとスコアとパート譜が以下のリンクからダウンロード可能!編曲に伴う著作権とかは、大丈夫なのか。

http://www.marcociccone.it/ENG/download.php

ふーん、と思っていたら、なんとここのページでは、ドゥラングル教授やフレデリック・ヘムケ氏がコメントを寄せているじゃないか!いったいどういう経緯?驚き。

それにしても、実際に聴いてみるまでどういう反応をして良いかわからないな。クレストンは、やっぱりピアノで弾いてこそだと思うですよ。かつては、ラッセル・ピーターソンによるデザンクロ「PCF」のオケ版というものも存在したが(ご存知だろうか?スペインのコングレスでも演奏されているのだ!)、あれは完璧に失敗していたしなあ、さーて、このクレストン「ソナタ」はどんなもんなのか。

2009/03/03

現代の音楽展2009「サクソフォーン・フェスタ」(2/2)

MAX/MSPの問題は、少しパッチのパラメータをいじってみた。何とかなる…かなあ。

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前回の記事の続き。

♪生野裕久「四つの葦のための四つの章」/カルテット・スピリタス

生野氏とサクソフォン界のつながりは作曲・編曲両面において強く、私自身も生野氏が編曲したバーバー「思い出」を演奏したことがある。作曲も、例えば最近(でもないか)では雲井雅人サックス四重奏団のために書かれた「ミサ・ヴォティーヴァ」などが有名である。東西の中間を浮遊するような旋律線に面白みを感じるのだが、この作品もそういった特色をもつものだった。もともとはキャトル・ロゾーのために書かれた作品だそうだ。それぞれの楽章ごとにテナー、バリトン、アルト、ソプラノがフィーチャーされており、国産の四重奏曲としては大変素敵な作品。なんとかアマチュアでも取り組めそうで、CD録音などされれば良いのだが。
スピリタスの演奏は、フェスティバルやCDで聴いたそのままの、精緻かつ美音、そしてコンパクトにまとまったテクニックというところが印象的である曲のスタイルとも、かなりマッチしていたな。

♪大政直人「ダンス・ミュージック」/包国充(a.sax.)、中川俊郎(pf.)

えーっとですね。びっくりしました。だって包国充っすよ、包国充!!長らく、サザンのサポートメンバーとして活動をしていることでも有名で、クラシックとはおおよそ縁のなさそうなプレイヤーだけに、突然の登場に驚き。しかもピアノが中川俊郎ときたもんだ!曲の内容は、タンゴ、ワルツ、ロックという3つの楽章それぞれに性格が与えられたというもので、もともとは須川展也さんのために書かれたのだそう。タンゴなんかは、須川さんの節回しを想像しながら聴いてしまったが、ロックはお2人の独壇場ですなあ(笑)。アドリブセクションも用意されていたのだろうか。ヴァースの部分なんかは、かなりカッコヨイ感じだ。

♪南聡「2つの余韻の心得, op.50-5」/原博巳(a.sax.)、原田恭子(pf.)

バッハの素材をコラージュしたという作品。これも、もともとは須川展也さんのために書かれたのだとか。2つのセクションに分かれており、「Ritornello Ritomico Doppione」「Bach Aria Doppione」という名が与えられているそうだ。1つ目のセクションは縦方向のリズムが面白く、2つ目のセクションはバッハの平均律第1巻の第1番プレリュードから始まり、横に流れていくようなイメージ。どこだったかなあ、とあるフレーズが、フーガの技法の最後のメロディにより分断されて「あっ!」て思ったのだが。基の素材を知っていれば知っているだけ、面白く聴けるのかもと思った。原博巳さんと原田恭子さんの演奏は、高い集中力を伴うものであり、堅牢な構造を持つ音楽がホールを満たしていた。

♪可知奈尾子「サルルンカム」/クローバー・サクソフォン・カルテット

アイヌ語で、サルルンカム=丹頂鶴を指しているのだそうだ。トリル、ブレスノイズや、フラッター、スラップを浅くした「チュッ!」という音が、4羽の鶴がリズミカルに会話するように繰り広げられていく。演奏会の最初からプログラム冊子の解説を読まずに聴いていたため、少々その響きに面食らったが、丹頂鶴といわれれば、なるほど可愛らしいですね。特殊奏法のみならず、そのバックで鳴る和音がちょっと不思議な感じだったりして、日本人的、女性的感性に裏打ちされたものでした。クローバーの演奏も、技術的にはもちろん、アンサンブル的にもけっこう練り込んである感じ。特殊奏法が多いとは言え、日本人の作品を日本人が演奏するときというのは、やっぱりハマる感じがする。

♪宮木朝子「Evangelium」/大石将紀(t.sax.)、宮木朝子(Electronics Ope.)

ロビーのエレクトロニクスステージでの演奏。機材は、Macと、RolandのFireWire接続のインタフェースであるFAシリーズを使用していたようだ。マイクを使用して、MAX/MSPを利用したエフェクトをかけていたよう。キラキラとした幻想的なサウンドファイルに乗せて、テナーサックスの音色がしなやかに空間を満たしていった。とても雰囲気のある作品で、これはなかなか感動的というか…素敵な感じだ。これ、いいなあ。機会があれば演奏してみたいものだ。繰り返し引き伸ばして発音されるアルペジォに、なんかJackdawの中間部のような感覚を覚えた。大石さんのテナーも、曲のスタイルにマッチしており、素晴らしかった。

♪山内雅弘「3 Movements for Saxophone Orchestra」/松元宏康(cond.)、洗足学園音楽大学サクソフォーン・オーケストラ

どこかでタイトルを聞いたことがあると思ったら、そうか、2年前の東京藝大の「Saxophone Day」で初演されたやつだ。いかにもサクソフォン・オーケストラのオリジナル作品!という感じの、シンプルなわかりやすい響き。例えば、アマチュアのサクソフォンアンサンブルなどでも、これは取り上げられる可能性がある。アカデミア・ミュージックからレンタル譜が出版されているそうで、ミ=ベモルあたりがCDを録音しないもんでしょうか。今回の演奏会では、演奏が終わって拍手のときに一作品ごとに作曲家が呼ばれていたのだが、松元氏=作曲者が真後ろに座っていてびっくりした。ちなみに2つとなりには中川俊郎が!うおお。

♪荒尾岳児「多重振り子のあるカプリス」

公式なアナウンスは特になく、なぜか演奏されなかった。なんでだろう。曲目解説から想像するに、もしや演奏難度の問題…?どなたか教えてください。
かわりに、民謡をサクソフォンオーケストラにアレンジしたものが演奏されていたが、やっぱ気合の入り方が違うものだ(笑)。

♪二宮玲子「〈影像〉娘道成寺による」/松元宏康(cond.)、松尾祐孝(sub cond.)、洗足学園音楽大学現代邦楽研究所・和太鼓部「鼓弾」、洗足学園音楽大学サクソフォーン・オーケストラ

和太鼓とサックスオーケストラ、例えば序盤では、日本的な時間感覚と西洋のリズムを伴う時間感覚の擦り合わせ方などを興味深く聴いた。最終部では、サクソフォンオーケストラのほうにも純日本的なテーマが与えられ、和太鼓と共に大盛り上がり。随所で独奏などの要素もふんだんに取り入れ、長時間ながらも聴き手を飽きさせないつくりになっていた。それにしても、ずいぶんと不思議な光景だ。面白いなあ。

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以上。多くが「また聴きたい」と思えるものであり、またいくつかは、「自分でも演奏してみたい」と思えるものであり、総合的にとても楽しく聴くことができた。ほとんどの作曲家が国内で研鑽を積んでいるため、日本的な要素に素材を求めている作品も多く、そういった点でも興味深く聴いた。ただ、新作が邦楽にヒントを求めることは少なくなってきているのではないだろうか、これだけの新作が披露される場が、例えば中国や韓国などで催された場合、自国の音楽に由来を求める作品はもっと多いはずだ。あからさまに邦楽を再構築/パロディとした作品、誰か書いてくれないかなあ。自国の音楽や自らのアイデンティティを取り混ぜた、作曲家たちの本気の作品を、サクソフォンという形態で聴いてみたいものだ。

演奏者側としては、こういう機会ならずともたくさん新作を取り上げて欲しいものだ(プロ・アマチュア問わず)。だが、やっぱり新作を大量に、というと、いろんなバックアップが必要なわけで、日本現代音楽協会の主催とは言わず、日本サクソフォーン協会もこういったコンクールを主催すれば、面白いと思う。昔はそういったコンクールがあって、伊藤康英先生の「ツヴァイザムカイトへの補足的一章」とか、サクソフォーン協会のコンクールから生まれた名曲なのだが、最近はあまり作品コンクールって聞かないよなあ。素晴らしいサクソフォン奏者がどんどんと出てきており、バックグラウンドは十分そろっているのだから、そんな企画があっても面白いのではないか。あ、あと、大物作曲家による新作もぜひ聴いてみたい。現代の音楽展2009のうち「唱楽」という児童合唱のコンサートは、作品提供の作曲家が間宮芳生、一柳慧、野平一郎、他、ってなもんで。委嘱プロジェクトみたいなものがあれば楽しそうだ。

2009/03/02

ヤバーイ

非常に良くない状況。

今度の演奏会で取り上げるサクソフォンとライヴ・エレクトロニクスのための「ウォーターウィングス」、今日、機材を一通り準備して本番に近い環境でテストしてみたのだが、大きな問題発生。ディレイが効果的な作品で、サクソフォンの音に追従して常に200msec弱の遅延エフェクトがかかるのだが、どうも、さらに+200msecくらいの余分な遅延が入っているような雰囲気。いくつかテストして原因を探ってみたが、ドライバやオーディオインタフェース等に遅延の原因はなく、どうやらMAX/MSP上のディレイのサウンド・プロセッシングが遅すぎるようだ。

このままでは演奏しても、作品として成立しないぞ。やばい。非常にやばい!

しょうがないので、ブンス氏から提供されたMAX/MSPのパッチの一部を少しプログラミングし直してみようかと思っている。あと、PCも取り替えていくつか試してみよう…。

MAX実行時って、ネイティブ・コードに変換している…わけないよなあ。もしかしてインライン処理なのか?そして、Runtimeが呼び出すAPIは何なのか?Macだと、こんな問題はないのだろうか。Windows上での実行は怖いですね。

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昨日の演奏会の感想の続きは、明日書きまーす。

2009/03/01

現代の音楽展2009「サクソフォーン・フェスタ」(1/2)

日本現代音楽協会が主催する「現代の音楽展」は、5日間の日程に分化したコンサート・シリーズのことである。そのうち「フェスタ」は、年替わりで一つの楽器に焦点を合わせて、数多くの作品を公募・初演・蘇演するというコンセプトの基に開かれている催し、ということだ。今年はたまたま、サクソフォンにスポットが当てられたということになる。確か一年前に作品の新作募集要項を見た覚えがあるから、そのくらいの頃から準備が進められていたようだ。大石将紀さんによる、現代奏法のレクチャーも、ちょうどその頃かな?

とどのつまりは、新作の演奏会。14作品が演奏されたが、聴いたことのあるものは一つしかなくて、その他は全く未知の領域だった。サクソフォンの邦人による新作は、近年でもいくつか作曲されているが、傑作という点では、枯渇しているのかもしれない…と考えて、面白い作品を探しに行くつもりで聴きに行ってみた。演奏者も豪華だったし~。

以下、一作品ずつ振り返ってみる。総括は最後に。

♪寺内大輔「王の主題」/大沢広一郎(cbs.sax.)

到着したら、既に始まっていた。ロビーでの演奏で、コントラバスサックスの周りをぐるりと譜面台が取り囲み、演奏が進むにつれて奏者と楽器が回転していくというしかけ。もともとはアルトサクソフォンを想定して書かれたようだが、コントラバスサクソフォンという形態では、かなり難易度が上がっているような雰囲気だった。曲自体は、「音楽の捧げ物」のフリードリヒ大王の主題に基づくもの。主題の原型が執拗に繰り返される中で、音響的な遷移効果を狙って書かれたもの…ということになるのかな。独奏としては、けっこう面白いかなと思う。ちなみに、作曲者自身のウェブサイトで試聴可能(こちら→http://dterauchi.com/friedrich.html)。

♪古屋雄人「Twistor」/鈴木広志(s.sax.)、平賀美樹(b.sax.)

タイトルの「ツイスター」とは、竜巻のことだと思っていたら、twisterではなくtwistorなのですね。音の密度はそれほど高くないようだが、ほぼ無調の中からときおり調性のある響きが聴こえてくる部分が面白い。アンサンブルは至極難しそうだった。一貫したビート、テンポがあるわけでなく、one by oneのような時間設定を取っているように聴こえた。
サクソフォン四重奏団"ストライク"のメンバーでもある、鈴木広志さんのソプラノは初めて聴いたが、少し細めながらも良く響く、清潔感のある音色で好印象。平賀さんのバリトンは、相変わらずさすがです。デュエットだったが、前田ホールという空間は、少し会場が大きすぎるとも感じた。

♪松岡大祐「トリツカレ男」/津田征吾(s.sax.)、東秀樹(a.sax.)、橋本恭佑(t.sax.)、大塚遥(b.sax.)

先日の藝大サックス科定期でも聴いた、松岡氏の作品。コミカルな演奏効果、聴きやすいリズムなど、いわゆる普通のクラシックサックスの作品として、定着しうるものだ。例えば、上手いアマチュアの団体だったら、アンサンブルのコンクールなどで見事に演奏してしまうかもしれない。CDなどになれば、人気が出そうだ。
演奏は、洗足学園音楽大学の学生が担当。テクニカルな面は余裕でクリアした演奏で、今一歩のアピールやテンションが足りないだろうか?と思ってしまうのは、さすがまだまだ学生の演奏だからということなのだろうか。こうして聴いてみると、違いは大きい。

♪伊藤高明「3本のテナーサクソフォンのための山女魚」/江川良子、冨岡祐子、塩安真衣子(以上t.sax.)

タイトルどおり、3本のテナーによる作品。重音、フラッター、キィノイズ、ブレスノイズ、サブトーン等々を駆使した、特殊奏法のオンパレードのようなハードな曲だった。演奏も、作品に触発されたのか集中力の塊のようなもので、会場が明らかに集中度を増しているのがわかった。冨岡さんが、マウスピースを外して吹く奏方"トロンペ"をやっていたが、「う、上手い…!」と、妙なところにも感心。作品自体は、かなり面白いと思ったのだが、少し長いかなー。終わりかけのところで聴き手の集中力が切れていったのを感じてしまった。テナーであるし、機会があれば演奏してみたいものだ(できるかどうかは別にして)。

♪平野義久「恋のうた」/福井健太(a.sax.)、細田真子(pf.)

作曲家の平野氏は、テレビ音楽等への楽曲提供で有名。最近でも、アニメ「Death Note」「はじめの一歩」の音楽を担当しているとか…知らなかった。海外でも、その筋ではかなり有名なようだ。サクソフォンとピアノのために書かれた「恋のうた」…タイトルからは、甘い響きを想像するでしょう?その予想通り、ピアノのMajコードから始まったのだが、次の瞬間サクソフォンによって調性が崩壊、かなりの難パッセージ、そしてジャズかロックのようなビートを纏いながら、両者が疾走していった。「恋のうた」というより、「ラヴァーズ・ロック」って感じ(笑)。かっこいい!演奏を担当した福井氏は、「Death Note Concertino」の初演も行ったそうで、そんなことからこの作品と初演が成立したのだろう。

♪松尾祐孝「ディストラクションIX」/大石将紀(a.&b.sax.)、中川俊郎(pf.)

「恋のうた」とは一転、再び無調の世界に引き戻された。この演奏会の奏責任者である松尾氏の筆によるもの。作品としての印象は、それほど残っていないのだが(苦笑)、演奏が凄かった…。大石将紀さん、大きい会場で生楽器の演奏を聴いたのはほぼ初めてだったが、長身から繰り出される音楽は、テクニックもさることながら、実にダイナミック!ソプラノからバリトンまで似合う奏者というと、国内では大石さんと平野さんくらいではないかな?そして、それに輪をかけて強烈な中川俊郎のピアノ!火花散ってましたね。両者とも、まったく一筋縄ではいかない…凄すぎ。

♪蒲池愛「Moment to moment」/斎藤貴志(a.&t.sax.)、蓮池愛、NAGIE(Electronics Ope.)

MAX/MSPを使用したリアルタイムエフェクト、あらかじめ用意したサウンドファイルのミクスチュア、そしてさらに、Jitterを使用した映像が投影される、不思議な空間。エフェクトの多さには、かなりびっくり…通常のアンプリファイ、エコー、ディレイといったところはそれほど珍しくないが、逆行再生、ハーモナイズ、タイム・ストレッチ等々をふんだんに使用し、華やかなエレクトロニクスのサウンドがロビー全体を埋め尽くしていた。とても情報量の多い作品だが、比較的調性は感じられ聴きやすい。CDにならないかなあ。斎藤氏の演奏は、ライヴでは初めて聴いたが、素晴らしい演奏家だと思った。特に、空間そのものを震わせるようなテナーサクソフォンの鳴りには、恐れおののくほかなかった。

♪サクソフォンとエレクトロニクスによる即興演奏/平野公崇(a.sax.)、松尾祐孝(Electronics Ope.)

エレクトロニクスと言えど、比較的単純な音素材とエフェクトによる即興。蓮池氏の作品は、エフェクトの種類がかなり豊富であったのに対し、こちらはディレイとエコーのみ。用意されたサウンドファイルも、数種類ということで、平野さんはかなり自由に即興演奏を繰り広げているような印象を受けた。しかしあれですね、平野さんて本当に素晴らしいインプロヴァイザーですね。なんでこんな奇跡のようなアンサンブルが可能なのだという驚き、即興自体が一つの作品として成立しそうなほどの練り上げられた(ように見えてしまうほどの)強固な構成等々、挙げていったらキリがない。コンピュータという、ある意味至極恐ろしい共演者相手に、対等もしくはそれ以上に絡んでいく平野氏、さすがです。

次の記事に続く。