2017/04/30

松平敬「MONO=POLI」

珍しく声楽のCDを買った。バリトン歌手、松平敬氏の「MONO=POLI(ENZO EZCD-10006)」だ。松平敬氏は、東京芸術大学出身、現代作品の演奏に強い歌手。シュトックハウゼン講習会には9回参加するなど、特にシュトックハウゼン作品演奏・研究の国内における第一人者であり、「歴年」といった珍しい作品の日本初演に携わるなどしている。

松平氏の演奏は、一度だけライヴで聴いたことがある。シュトックハウゼンが亡くなったときに氏が主催した追悼演奏会を聴きに行った。短波ラジオを使った「シュピラール」、面白かったなあ。
http://kurisaxo.blogspot.jp/2008/09/blog-post_13.html

さて、その松平氏の「MONO=POLI」である。2010年に発表され、なんと平成22年度文化庁芸術祭レコード部門の優秀賞を受賞した作品だ。なぜそんなに話題になったかというと、多重唱パートを全て自分で歌い、ミキシングやマスタリングを全て自分の手で行う、というある種の狂気すら感じるほどの制作過程を経たアルバムであるからなのだ。収録曲の声部数は、2声から16声(!)。松平氏の専門はバリトンだが、それだけではなくソプラノやアルトといった女声パートが含まれた曲では、ファルセットボイスを使って本来の音高で歌っている。レコーディングだけでもまる9日間要したというが、声帯の維持だけ考えてもとんでもない労力が必要だったと思う。

作者不詳(イギリス) - 夏のカノン
作者不詳 - アレルヤ
作者不詳(イギリス) - ねんころりん、私は可愛らしい、上品な姿をみた
作者不詳 - ローマは喜び歓喜の声をあげよ
ダンスタブル - 聖なるマリア
ジェズアルド - マドリガル曲集第6巻より
バッハ - 8声のカノン BWV1072
モーツァルト - 心より愛します KV348
グリーグ - めでたし、海の星
ストラヴィンスキーアヴェ・マリア
シェーンベルク - 「3つの風刺」より 分かれ道にて Op.28-1
ケージ - 「居間の音楽」より 昔話
リゲティ - ルクス・エテルナ
松平 敬 - モノ=ポリ
ブライアーズ - マドリガル集第2巻より
ベリオ - もし私が魚なら
ケージ - 声のためのソロ2(4ヴァージョンの同時演奏)
シェーンベルク - 千年を三度 Op.50A
ドビュッシー - シャルル・ドルレアンの3つの歌
ブラームス - おお、なんとなだらかに
パーセル - 主よ、わが祈りをききたまえ
パレストリーナ - 主よ、今こそあなたは
ジョスカン・デ・プレ - ミサ「ダ・パーチェム」より アニュス・デイ
作者不詳(スペイン) - 3人のムーア娘
作者不詳(スペイン) - 手に手をとって
マショー - 我が終わりは我が始まり

13世紀の作品から、徐々に時代を下り、松平氏自作を折り返し地点として再び時代を遡っていく、というシンメトリックな構成。作品ひとつひとつが短く、多彩な響きに耳を奪われていると、あっという間に最終トラックにたどり着いてしまう。

このアルバム中の白眉は16声部のリゲティ「ルクス・エテルナ」であろう。9分近くに及ぶ作品だが、ぞっとするような、それでいて美しい、見事な音響世界を構築しており、聴き応えがある。また、カルロ・ジェズアルドの5声のマドリガルは、やはり独特の美しさを感じる。ギャビン・ブライヤーズ作品の「Alaric I or II」にも通じそうなネオ・バロック的な響きは、現代の耳にも心地よいものだ(その直後のベリオ作品、ケージ作品との落差がすごい笑)。解説・歌詞、それぞれをもう少し読み込んでいくと、さらに面白く聴くことができそう。

プロモーション・ムービーは以下から。面白そうでしょ。CDは絶版なのか、購入できるところを見つけられない(私は中古をHMVのオンラインストアで手に入れた)。だが、iTunes Store等ではまだ購入できるようだ。

本日:第8回サクソフォン交流会 in 長野個人参加者〆切

本日、第8回サクソフォン交流会 in 長野の申し込みが〆切を迎える。遠隔地での開催ながら、幸い今年も現時点で例年並の参加者が集まり、ありがたいかぎりだ。

企画ステージの名前は、「長野の愛好家と全国の個人参加者による演奏~原博巳先生とゲスト奏者を迎えて~」というもの。長野ゆかりのサクソフォン奏者・作編曲家である、村田淳一さんの手によるジョージ・ガーシュウィンのメドレー(サクソフォン2本のダブルソリスト編成ラージアンサンブル)を、ゲストの原博巳さん、川島亜子さんとおもに、共演するというもの。先週村田さんから楽譜が上がってきたのだが、とても面白い作品となった。また、全員合奏ステージでは、まさかの「信濃の国」という、長野県出身者ならば知らぬ者のいない、開催地ゆかりの作品をラージで演奏する…というもの。個人的にはかなりツボだ(笑)。

〆切は本日中。まだ迷っている方、申し込み忘れてた!という方、ぜひご参加ください。以下のリンクから要項を確認、申し込みをお願いします。
https://sites.google.com/site/saxkouryukai/info

2017/04/29

第2回JOSIP NOCHTA国際コンクール・本選結果

本日未明(現地時刻で4/28の午後~夜間)、第2回JOSIP NOCHTA国際コンクールの本選が行われ、順位が決定した。

優勝: Antonio García Jorge (Spain)
第2位: Nicolas Arsenijevic (France)
第3位: Nicola Peretto (Italy)
第4位: Ryo Nakajima (Japan)
(ちなみに、選択曲は中島君がイベール、他の3名は皆ラーションであった。)

1位を受賞したAntonio Garcia Jorge氏の演奏を貼り付けておく。他の本選出演者の演奏も、すでにYouTubeにアップロードされている。

リュエフ「コンチェルティーノ」


ラーション「コンチェルト」

2017/04/28

ファジル・サイ「(SaxQと弦楽のための)Preludes」ライヴ放送

あと3時間とちょっと、日本時間の4/29 3:00amより、ファジル・サイ Fazil Say作曲の、サクソフォン四重奏と管弦楽のための「プレリュード Preludes」がライヴ放送される。演奏は、Peter Oundjian指揮フランクフルト放送交響楽団、サクソフォン四重奏は、初演者であるラッシャー・サクソフォン四重奏団が担当する。

25分ほどの、4曲からなる作品。もともとはリンツのブルックナー管弦楽団が委嘱し、2015年にラッシャー四重奏団を迎えて初演された作品。各曲には、以下のような文学作品の名前が付与されており、これらの作品の複雑で情緒的な世界からモチーフを借り入れ、作品として結実させたもの…とのこと。表面的な音楽のスタイルは、"オリエンタル"といった部分が強く現れている。
I Siddhartha (Hermann Hesse) ヘルマン・ヘッセ「シッダールタ」
II Weiße Nächte (Fjodor Dostojewski) ドストエフスキー「白夜」
III Die Verwandlung (Franz Kafka) フランツ・カフカ「変身」
IV Der Fremde (Albert Camus) アルベール・カミュ「異邦人」

映像はこちらから:
http://concert.arte.tv/de/fazil-say-rascher-saxophone-quartet-peter-oundjian

音声はこちらから(まさかのFlashサイトなので、Google Chrome等、Flash非対応ブラウザをお使いの方はご注意を):
http://www.hr-online.de/website/static/streaming_popup/mp3streamer.jsp?client=hr2

2017/04/27

第2回JOSIP NOCHTA国際コンクール・ファイナリスト

クロアチアで開かれている、第2回JOSIP NOCHTA国際コンクールのファイナリストが決定した。

http://josipnochta2017.adolphesax.com/index.php/es/

日本からは、中島諒くんが本選に残った!Nicolas Arsenijevic氏は有名だが、Nicola Peretto氏、Antonio Garcia Jorge氏の名前は初めて聞いた。少し調べてみたが、既にCDをリリースしたり、コンクールに入賞したり、各所で活躍中の奏者であるようだ。いやはや、ちょっと離れている間に、時代は移り変わっているのだなあ…。

Arsenijevic, Nicolas (France)
Garcia Jorge, Antonio (Spain)
Nakajima, Ryo (Japan)
Peretto, Nicola (Italy)

本選(ファイナル)は、現地時間で4/28。Zagreb Philharmonic Orchestraとの共演による協奏曲2曲の演奏で、最終順位が決まる。演奏曲目は、以下の2曲。

a) 必須演奏曲
J.リュエフ - コンチェルティーノ

b) 以下の4曲から1曲を選択
J.イベール - コンチェルティーノ・ダ・カメラ
L.E.ラーション - コンチェルト
F.マルタン - バラード
P.Despalj - コンチェルト

2017/04/26

第2回JOSIP NOCHTA国際コンクール・セミファイナル進行中

クロアチアにて、第2回JOSIP NOCHTA国際コンクールが開催中。おなじみAdolphesax.comのチームが現地入りし、全プログラムを中継している。現在、セミファイナルが進行中。下記ページから、EN DIRECTOをクリックするとストリーミング中継を観られる。

http://josipnochta2017.adolphesax.com/index.php/es/

セミファイナリストは以下の10名。つい先ほど、中島諒さんが出演していた。日本人は他に、田中愛希さん(洗足学園音楽大学出身)が残っている。

Arias Gonzalez Alvaro (Spain)
Arsenijevic, Nicolas (France)
del Valle Casado, Mari Angeles (Spain)
Garcia Jorge Antonio (Spain)
Nakayima, Ryo (Japan)
Peretto, Nicola (Italy)
Razdevsek, Aljaz (Slovenia)
Ronzio, Francesco (Italy)
Sanchez Solis, Borja (Spain)
Tanaka, Aki (Japan)

ところで、セミファイナルの課題曲がなかなか面白く、下記a)b)c)を連続して演奏する…というもの。b)c)は一般的な印象を受けるが、a)はなんと弦楽四重奏との共演。特殊奏法満載の、なかなか難解な作品で、リハーサルでの、弦楽四重奏団とのコミュニケーションもキーポイントになってくるのではないかな…と推測。

a)
Mladen Tarbuk - Didgeridoo for Alto Saxophone and String Quartet

b)
William Albright - Sonata
Fernande Decruck - Sonata
Edison Denisov - Sonata
Jindřich Feld - Sonata
Jeanine Rueff - Sonata
Takashi Yoshimatsu: Fuzzy Bird Sonata.

c)
任意の曲

2017/04/16

The Rev Saxophone Quartet@ミューザ川崎

息子が生まれてから少し演奏会通いを控えていたのだが、久々に演奏会へ伺った。昼の部(都合によりバッハ以降のみ)と、夜の部。

技術的に非常に完成されていることはもちろんで、その先に様々な可能性を秘めているカルテットだ。これまで聴いたことのあるカルテットの、どれにも似ていない。なんとも言えない浮遊感というか、現実離れした音世界・空間を楽しんだ。

【ミューザ川崎 ランチタイムコンサート】
出演:The Rev Saxophone Quartet
日時:2017年4月12日 12:10開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
プログラム:
R.プラネル - バーレスク
J.B.サンジュレ - 「四重奏曲第一番」より第4楽章
J.S.バッハ - G線上のアリア
J.フランセ - 小四重奏曲
G.ガーシュウィン - 3つの前奏曲
N.カプースチン/宮越悠貴 - 「24の前奏曲」よりXVII(アンコール)

【ミューザ川崎 Night Concert60】
出演:The Rev Saxophone Quartet
日時:2017年4月12日 19:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
プログラム:
N.カプースチン - 「8つの演奏会用エチュード」よりプレリュード
J.リヴィエ - グラーヴェとプレスト
N.カプースチン/宮越悠貴 - 「24の前奏曲」よりXII, IX, XVII
M.エンゲブレツォン - ベア
M.ラヴェル/旭井翔一 - 「クープランの墓」よりプレリュード、フーガ、メヌエット、トッカータ
R.プラネル - バーレスク(アンコール)

コンサートのレビュー(夕方のコンサート中心)は、5/25のTHE SAX誌に掲載予定。

2017/04/12

Guillermo Lagoの正体

時々、作曲者名として見かけるGuillermo Lagoが、何者なのか、これまで気にも留めていなかった…のだが、最近とある調査の一環で、アウレリア四重奏団の創設メンバーのひとり、バリトンサクソフォンを担当していたWillem van Merwijk氏であることを知った。サクソフォン四重奏曲の「Ciudades」が有名。また、アウレリア四重奏団のアルバム「Tangon」に、「Pequenitos」「El tonto del pueblo」の2曲を提供している(実はこの2曲が初めての作品だったようだ)他、サクソフォン以外にも様々な作品を書いているようだ。その数およそ50。いずれもサクソフォン吹きの余技、というレベルをはるかに超越しており、興味深いものも多い。

ふと思い返せば、ギィ・ラクール氏、野田燎氏、バリー・コッククロフト氏、林田祐和氏、Juan Luis del Tilo氏(Johan van der Linden氏)らの作品を思い浮かべてみると、コンポーザー・サクソフォニストの筆によるものは面白い作品であることが少なくない。サクソフォンの効果的な響き、聴き手に心地よい響きを知り尽くしているからこそ、作ることができる作品、というものもあるのだろう。

2017/04/03

アウレリア四重奏団のデビュー盤入手

Aurelia Saxophone Quartet Debut Album (LP)!

アウレリア・サクソフォン四重奏団のデビュー盤LPを入手した。EMIのASK 1201という型番で、1987年6月の録音。アウレリア四重奏団の結成は1982年だから、その5年後の録音である。アレンジ物2点を収録するという、面白い内容。

曲目:
ジョージ・ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」
モデスト・ムソルグスキー「展覧会の絵」
(いずれもJohan van der Lindenのアレンジ)

メンバー:
Johan van der Linden, Ssax
André Arends, Asax
Arno Bornkamp, Tsax
Willem van Merwijk, Bsax

オランダの中古レコード屋からの取り寄せで、本体$7に、送料$20を支払うという結果となったが、レコードの国際発送ならばこんなもんだろう。本当はCD(EMI CDC 7 49065 2)を入手したかったのだが、10年以上にわたって探せども探せども見つからず、先延ばしにしても入手は難しいだろうと判断、アウレリア四重奏団解散のニュースを機に、中古LPをエイヤと購入することとなった。

とりあえず盤面チェックと再生チェック。少し汚れやシミが散見されるのと、1箇所音飛び(もう一度再生すればおそらく大丈夫かな?)を除いて、ほぼ問題ないレベル。再生チェックをしながら小気味よい演奏と、表現力の広さに唸ってしまった。「Blow!」にも収録されており、聴いたことのあった「ラプソディ・イン・ブルー」が、実に若々しく、高いテンションで演奏されており、すっかり耳を洗い直された。また、「展覧会の絵」での、曲ごとの表現の吹き分け方は、アウレリアならでは、であろう。

またゆっくり聴いてレビューしようと思う。