珍しく声楽のCDを買った。バリトン歌手、松平敬氏の「MONO=POLI(ENZO EZCD-10006)」だ。松平敬氏は、東京芸術大学出身、現代作品の演奏に強い歌手。シュトックハウゼン講習会には9回参加するなど、特にシュトックハウゼン作品演奏・研究の国内における第一人者であり、「歴年」といった珍しい作品の日本初演に携わるなどしている。
松平氏の演奏は、一度だけライヴで聴いたことがある。シュトックハウゼンが亡くなったときに氏が主催した追悼演奏会を聴きに行った。短波ラジオを使った「シュピラール」、面白かったなあ。
http://kurisaxo.blogspot.jp/2008/09/blog-post_13.html
さて、その松平氏の「MONO=POLI」である。2010年に発表され、なんと平成22年度文化庁芸術祭レコード部門の優秀賞を受賞した作品だ。なぜそんなに話題になったかというと、多重唱パートを全て自分で歌い、ミキシングやマスタリングを全て自分の手で行う、というある種の狂気すら感じるほどの制作過程を経たアルバムであるからなのだ。収録曲の声部数は、2声から16声(!)。松平氏の専門はバリトンだが、それだけではなくソプラノやアルトといった女声パートが含まれた曲では、ファルセットボイスを使って本来の音高で歌っている。レコーディングだけでもまる9日間要したというが、声帯の維持だけ考えてもとんでもない労力が必要だったと思う。
作者不詳(イギリス) - 夏のカノン
作者不詳 - アレルヤ
作者不詳(イギリス) - ねんころりん、私は可愛らしい、上品な姿をみた
作者不詳 - ローマは喜び歓喜の声をあげよ
ダンスタブル - 聖なるマリア
ジェズアルド - マドリガル曲集第6巻より
バッハ - 8声のカノン BWV1072
モーツァルト - 心より愛します KV348
グリーグ - めでたし、海の星
ストラヴィンスキーアヴェ・マリア
シェーンベルク - 「3つの風刺」より 分かれ道にて Op.28-1
ケージ - 「居間の音楽」より 昔話
リゲティ - ルクス・エテルナ
松平 敬 - モノ=ポリ
ブライアーズ - マドリガル集第2巻より
ベリオ - もし私が魚なら
ケージ - 声のためのソロ2(4ヴァージョンの同時演奏)
シェーンベルク - 千年を三度 Op.50A
ドビュッシー - シャルル・ドルレアンの3つの歌
ブラームス - おお、なんとなだらかに
パーセル - 主よ、わが祈りをききたまえ
パレストリーナ - 主よ、今こそあなたは
ジョスカン・デ・プレ - ミサ「ダ・パーチェム」より アニュス・デイ
作者不詳(スペイン) - 3人のムーア娘
作者不詳(スペイン) - 手に手をとって
マショー - 我が終わりは我が始まり
13世紀の作品から、徐々に時代を下り、松平氏自作を折り返し地点として再び時代を遡っていく、というシンメトリックな構成。作品ひとつひとつが短く、多彩な響きに耳を奪われていると、あっという間に最終トラックにたどり着いてしまう。
このアルバム中の白眉は16声部のリゲティ「ルクス・エテルナ」であろう。9分近くに及ぶ作品だが、ぞっとするような、それでいて美しい、見事な音響世界を構築しており、聴き応えがある。また、カルロ・ジェズアルドの5声のマドリガルは、やはり独特の美しさを感じる。ギャビン・ブライヤーズ作品の「Alaric I or II」にも通じそうなネオ・バロック的な響きは、現代の耳にも心地よいものだ(その直後のベリオ作品、ケージ作品との落差がすごい笑)。解説・歌詞、それぞれをもう少し読み込んでいくと、さらに面白く聴くことができそう。
プロモーション・ムービーは以下から。面白そうでしょ。CDは絶版なのか、購入できるところを見つけられない(私は中古をHMVのオンラインストアで手に入れた)。だが、iTunes Store等ではまだ購入できるようだ。
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