以前、こんな記事を書いたが、当該CDをようやく入手(小倉くん、ありがとうございました)。
実際の内容を確認したところ、不正確な情報があったのでまずは訂正から。まず、第1回ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクールの実況録音盤と書いたが、それは間違いで、第1回ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクール入賞者記念コンサートの実況録音盤である。また、メセナ国際コンクールなどと書いたが、それも間違いで、あくまで第1回ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクールのみに関連した盤である。Mecenartは、ボルドーに本拠を置く文化振興を目的とした非営利団体なのだそうだ。間違った情報を書いてしまい、大変申し訳ありませんでした…。
気を取り直して、レビューを開始。第1回ジャン=マリー・ロンデックス国際コンクールの開催後、1996年9月16日にフランス・ボルドー市のCentre Andre Malrauxで開かれた、入賞者記念演奏会の模様を録音したディスクである。このコンクールでは、平野公崇氏が日本人として初めてサクソフォンの国際コンクール優勝を果たした。また、第2位にヴァンサン・ダヴィッド Vincent David氏、第3位にオーティス・マーフィ Otis Murphy氏が、それぞれ入賞している。四重奏部門の優勝は、ハバネラ・サクソフォン四重奏団 Quatuor de saxophones Habaneraであった。…なんだか凄い名前ばかりで、それぞれの演奏者の現在の活躍を見るにつけ、当時のロンデックス氏を始めとした審査員の面々は見る目があったのだなあ、という思いを強くする。
プログラムは次の通り。面白そうでしょう?
Heitor Villa Lobos - Fantasia (Masataka Hirano)
Christian Lauba - Jungle (Masataka Hirano)
Edison Denisov - Sonata (Vincent David)
Luciano Berio - Sequenza VIIb (Vincent David)
Alfred Desenclos - PCF (Otis Murphy)
Luciano Berio - Balafon (Otis Murphy)
Alfred Desenclos - Quatuor (Quatuor Habanera)
演奏内容もかなり良い。疵も散見されるが、それよりも、これらの独奏者たちが若手のホープとして活躍していた頃の空気感をダイレクトに感じられるという点で、大変貴重な録音だ。平野氏の「ファンタジア」を聴いてみよう。コンクールの二次で平野氏はデニゾフ、ベリオ、ヴィラ=ロボス選択したが、真ん中のベリオが上手く行かなかったあとに、自由に開き直って演奏したヴィラ=ロボスが好評を得たことが、本選へと進むきっかけとなったという。なるほど、こんな解釈で吹いたプレイヤーがそれまでいたかどうか、というところ。実に興味深く聴いた。
ヴァンサン・ダヴィッド氏は、とにかくキレッキレの演奏だ。この時のダヴィッド氏の演奏には、あいまいな部分が一切ない。ライヴ録音ということが信じられないほどの完成度の高さと、ライヴ録音ならではの、特に後半における熱を帯びる具合が素晴らしい。それはデニゾフでもベリオでも同様で、このCDの中でもある意味異彩を放つほどのものだ。どちらもお手本かつ鑑賞対象たりえるもの。
マーフィ氏は、今のご本人の演奏よりも、もう少し個性が薄いという印象を受けた。逆に言えば、今のあのマーフィ氏の演奏がいかに魅力的か、ということにも繋がるのだが。「バラフォン」は面白いなあ!まさかマーフィ氏がクリスチャン・ロバの作品を吹いている録音を聴くことができるとは思わなかったが…。こんなに優しい「バラフォン」があるとは…途中で循環呼吸をやめているのもなんだか微笑ましい。
そして、ハバネラ四重奏団のデザンクロ。このCDの中で私的に一番の驚き。なんと丁寧で完成度が高い演奏であることか。楽譜に非常に忠実なのだが、そのように演奏されることで、ここまで魅力的な演奏に仕上がるのか…。さらに、聴こえてくる和音やリズムが、いちいち心地良すぎる。絶妙なアゴーギクや音色の変化、楽器ごとのバランス…ハバネラ四重奏団の"アンサンブル力"の源泉を垣間見る思いだ。特に第3楽章は絶品で、数多ある録音の中で、最も好きな演奏かもしれない。全体を通して聴いても、"現代のデザンクロ「四重奏曲」の演奏"として屈指のものであり、トルヴェールQ(旧録音)、アレクサンドルQあたりと比べても遜色ない。おそらく、今後デザンクロでおすすめの演奏は、と問われれば、デファイエQに次ぐものとしてこれを提示することになるだろう。それほどの魅力を感じている。まだ聴き込んでいる段階だが、20回聴いても飽きないってなかなかのものだ。
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