2012/10/21

ドゥラングル教授リサイタル事前レクチャーのメモ

先日のドゥラングル教授のリサイタルの直前に、静岡音楽館AOIの講堂で開かれた鈴木純明氏の事前レクチャーのメモを少しまとめたので、ブログに貼り付けておく。

話の流れはあちこちへの飛び石のようなもので、その場で聴くのは(たくさん興味深い話しが出てきて)面白かったのだが、いざメモを取り、まとめようとするのは難儀である。当初の予定ではひとつの資料になるように体系的にまとめと補足と修正を行うつもりだったが、やっていくうちにかなり時間を取られることが判明したため、結局メモ書きの順番を変えてカテゴライズするに留めた。

…お時間のある方は、ぜひ補足と体系化までやってみてください。調べれば調べるほど深い部分にはまっていくので、うまくやれば論文くらいの内容にはなってしまうかも(笑)

※ご注意:個人的に作った自分のためのメモですので、間違いがある可能性があります。内容について鈴木純明氏への問い合わせはご遠慮ください。公開講座の授業ノートだと考えれば特に許可は取らなくても公開できると考えていますが、万が一指摘を受けた場合削除します。

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教育者としてのドゥラングル氏
* 30年に及ぶ指導歴
- ブローニュ音楽院?教授就任:1982年~
- パリ国立高等音楽院サクソフォン科教授就任:1988年~
* 種々のプロジェクトを立ち上げる(学生とともに新しいものを手がけていく、という姿勢)
- 1997年:作曲科とサクソフォン科のコラボレーション
o ドゥラングル氏と作曲科教授ルイス・ナオン氏が意気投合したことによる
o サクソフォンのためのエチュード制作
o 6月にオリエンテーション、作曲科・サクソフォン科の学生同士がペアを組む。翌年1月に発表
o アンリ・ルモワンヌ社のドゥラングル・コレクションから出版(全二巻)
o 各作品に明確な奏法面のテーマを設定
oo ヴィヴァンコス - ムスティクス・エチュード(循環呼吸・無窮動)、井上千春さんが演奏
♪ヴィヴァンコス - ムスティクス・エチュード
* ヴィヴァンコス
- 現在はカタロニア音楽院の管弦楽法教授
- ヴィヴァンコスはこのプロジェクトで初めてサクソフォンに触れ、以降サクソフォンに強い興味を持った(彼の卒業試験の曲は、サクソフォン独奏と室内オケのための作品)
* ムスティクスとは、蚊のこと
oo ドゥランス? - (四分音のエチュード)
oo フランク? - (重音のエチュード)
oo 馬場美智子 - (ビスビリャンドのエチュード)
oo スタイグリモー - (ジャズ風リズムのエチュード)
- 2000年頃?:声楽科とサクソフォン科のコラボレーション
* ドゥラングル氏の録音資料
♪棚田文則 - ミステリアス・モーニングIII
* 棚田文則氏
- アンサンブル・イティネレールのピアニスト(最近の来日ではグリゼイのピアノと5つの楽器のための作品を演奏)
- パリ国立高等音楽院ではフルート科の伴奏も務める
* ミステリアス・モーニング
- サクソフォンのありとあらゆる特殊奏法を押し込めた作品
- チャーリー・パーカーのアドリブからもインスピレーションを得ている
- 鈴木氏による印象:超絶技巧だがユーモアがある
* パリ国立高等音楽院サクソフォン科の録音資料
♪レディス・カンポ - ZAPP'ART
- 2004年頃(有村純親氏、大石将紀氏、白井奈緒美氏在籍中)
- 12のサクソフォン(sn1, s2, a3, t3, b2, bs1)とグロッケンシュピール
- 指揮はアベカナコ氏(レディス・カンポの奥様)
- ザッパとアートを掛けたタイトル。非常にユーモアがある作品。伝統あるパリ国立高等音楽院からこのようなユニークな作品が出てくることが興味深い
クラシックのみならず、タンゴや現代や、すべて同じ軸でとらえている。

ドゥラングル氏とIRCAM
* アゴラ音楽祭(アゴラ=広場、毎年6月に開催)でのコンサート、2004年
* 演奏作品
- P.ジョドロフスキ - Mixtion
- P.ルルー - 緑なすところ
- 野平一郎 - 舵手の書
- A.マルケアス作品
- M.ストロッパ作品 他
* ルルー作品、野平作品では、小林真理さん(声楽家)と共演
- 後に同じコンビでBISよりCDリリース

鈴木純明氏とドゥラングル氏との関わり
* 芸大時代はサクソフォン科(同期が3人いた)との関わりは少なかった
* 1997年にパリ国立高等音楽院作曲科に留学
* 1997年の作曲科とサクソフォン科のコラボレーションが、深くサクソフォンと関わる初めての機会
- ドゥラングル教授門下のサクソフォン奏者ジェローム・ララン氏と組む
- スラップ・スティック(スラップタンギングを題材としたエチュード)を制作
* 2000年にサクソフォン科の卒業試験曲を委嘱された
- 楽器指定:ソプラノサックス独奏と、四重奏(SSAT)の作品
- 日本的な要素を入れるよう依頼される
- 2001年4月下旬にザグレブ音楽祭ヴィエンナーレで初演(湯浅譲二の「私でなく、風が…」も演奏された)
o 演奏旅行に同行、ドゥラングル教授の作品に対する作り込みの徹底さ、統率力に感銘を受ける
o 音楽に対する厳しい姿勢にも感銘を受けた(ホテルの部屋でずっとさらっていた、さらっていないときは雑誌投稿用の記事を作成していた)
o オランダで佐藤尚美さんが演奏(たまたまドゥラングル教授のマスタークラスが開かれ、ドゥラングル教授も立ち会っていた)
o 2007年にAOIで日本初演

鈴木純明氏とIRCAM
* 2002-2003シーズンに研究生として在籍
* 毎シーズン世界各国から10人採択、うち1人はパリ国立高等音楽院作曲科卒業生枠(鈴木氏はこの枠)
* 1年かけてライヴエレクトロニクス作品をひとつ作る:cursusプログラム=作曲とテクノロジーを同時に学ぶ
- 作曲支援ソフトウェアの使い方の講義(3名のアシスタントによる)
- 作曲法のアドヴァイザーが付く(鈴木氏はファーニホウ、ミュライユについた)
* 修了作品
- チューバとエレクトロニクスのための作品
♪鈴木純明「?」
o 既存のサウンドファイル、リアルタイム変調を盛り込んでいる
o サクソフォンとエレクトロニクスの作品を書きたかったが、リュイリー・チャン(同期の他の研修生)に先を越されてしまった

ライヴ・エレクトロニクス入門
* 電子音楽の歴史
- フランス、ドイツの二大潮流
o フランス:ミュージック・コンクレート→自然音を加工する。放送局で制作。最初の代表的作品:???「エチュード」
o ドイツ:電子音楽→原音(サイン波等)を加工。ケルン放送局で制作。最初の代表的作品:シュトックハウゼン「習作」
- いずれもテープを使って再生、演奏家不在→演奏者のアクションを観ることができず、あまり面白くない
- 1960年代に生楽器と電子音響を組み合わせる試み
o シュトックハウゼン:オーケストラの音をリアルタイムでリング変調(二つの音をa+b, a-b)する作品、ピアニストの横にモジュレータを置いて変調する作品「マントラ」
o アナログならではの問題点:音程が悪い、リアルタイムでの操作が難しい

IRCAM
* 概要
- 1969年、ポンピドゥー大統領がブーレーズを招聘して音響研究所設立の準備を開始
- 1977年に活動開始
- フランスの文化省に所属
- 活動コンセプト:探求、創造、教育、普及
- ポンピドゥーセンターの横にある噴水の下に、地下3階まで研究所が広がる
* 組織
- 1976年時点の部門
o 作曲:?
o 楽器と声:リングオンブログカーレ?
o 電子音響:ルチアーノ・ベリオ
o 音楽情報学:ジャン=クロード・リセ
o 教育:ミシェル・ドゥクースト
- 現在
o 探求と発展(研究)
o 創作
o 教育
o メディアライブラリ
o インタフェースの探求と研究
* 歴代所長
- ピエール・ブーレーズ ~1992
- ロラン・ベール ~2002
- ベルナール・スティグレール(哲学者) ~2006
- フランク・マドレーネ(ブリュッセルやストラスブールの現代音楽祭ディレクター経験あり) ~現在

IRCAMで作られた音楽
* 最初期の作品
♪ジョナサン・ハーヴェイ「我は生者を呼び、死者を悼む(1980年)」
- ウェストミンスター寺院の鐘の音と、ボーイソプラノ(ハーヴェイの息子)の音を当時のIRCAMの技術で加工、8chのスピーカーを使って回転させる
- 鐘の音を音響分析し、倍音列を反転させた
* 新たなテクノロジーの開発
- 世界的な流れ
o midiにより機器共通のプロトコルが定義
o fm音源によりアナログシンセでは実現が難しかった電子的な音が生成可能になった
♪ピエール・ブーレーズ「レポン(1981年)」
- 6人の奏者と室内オーケストラのための作品。
- IRCAMで演奏者とエレクトロニクスが共演する仕組みを考案・開発
o 4x(キャトル・イクス):生楽器とリアルタイム音響処理の共演を可能にした
o 4x→ISDW→MAX/MSP
- 制作経緯
o ブーレーズは1958年に電子音響とオーケストラのための作品「可能にするための歌」制作を試みたが、うまくいかず撤回してしまっている
o IRCAM創設後、1980年に「レポン」を発表、傑作として幅広く受け入れられた
IRCAMから生まれた作品
* 演奏方法について
- エレクトロニクスとの同期(エフェクト、サウンドファイル再生等)方法
o フットペダルで音響イベントを進めていく
o 楽器のキイにセンサをつける
o ブーレーズの3本のフルートとエレクトロニクスの作品はフルートのうち一本にmidiフルートを使い、midiで同期する
o ふつうだったらあり得ないようなハプニングも発生する(イベントが進みすぎてしまう、等)

♪ピエール・ジョドロフスキ「Mixtion」
* ジョドロフスキ氏
- オランダ系、リヨンで作曲を学ぶ。IRCAMのCURSISプログラムに在籍経験あり
* フットペダルでの同期
* 作品の成立
- テナーサクソフォンとエレクトロニクスのための作品
- 2002年のパリ国立高等音楽院サクソフォン科の卒業試験課題曲として委嘱
o エレクトロニクス作品が卒業試験課題曲となることが、大きな反響を呼んだ
- その年の卒業生にジェローム・ララン氏がいる

♪フランチェスト・フィリデイ「プログラミング・ピノッキオ」
* 作品の成立
- CURSISプログラムの修了課題曲として制作
- ModalysというIRCAM制作のソフトを利用:仮想楽器をコンピュータ上でシミュレートしている
- ピアノとエレクトロニクスのための作品だが、打鍵音は出てこない(ピアノの鍵盤の上を爪でひっかくだけ)
- 他にサクソフォンアンサンブルのために作品を書いているが、それも特殊奏法しか出てこない作品

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