2012/08/12

原博巳さんの2011年リサイタル録音

WSC会場で原博巳さんに頂戴したCDのうちの一枚(ありがとうございました!)。もう一枚のほうも興味深いのだが、そちらの紹介は後日。

2011年に東京文化会館で開かれた原博巳さんのリサイタルには、仕事が繁忙期だったため伺えなかった。2008年に浜離宮朝日ホールで聴いたリサイタルの素晴らしさに接していたため、大変残念な思いをしたのだった。その録音を思いがけず頂いたということで、1年越しの念願かなったり、というところ。

【原博巳サクソフォンリサイタル】
出演:原博巳(sax)、野原みどり(pf)
日時:2011年5月9日(月曜)19:00開演
会場:東京文化会館・小ホール
プログラム:
Amable Massis - Six Études-Caprices
Vincent d'Indy - Choral Varié, op.55
Pierre Vellones - Rapsodie, op.92
Alexandre Tcherepnine - Sonatine sportive
Claude Pascal - Sonatine
Alfred Desenclos - PCF
Jacques Ibert - Concertino da camera
Jacques Ibert - Le petit âne blanc (encore)

変な表現ではあるが、まるでセッション・レコーディングを聴いているかのようなクオリティの高さである。かといって、演奏の表現が平坦だということではなく、ライヴならではの熱さも感じられる。それだけ完成度が高い演奏だということだ。ライヴで聴いて感動しても録音を聴くと意外とミスが聞こえてしまうものだが、原博巳さんのリサイタルはそのような演奏とは対極をなす、ということだ。驚いた…。

リサイタル中一貫してそのクオリティは保持されており、曲が進んでも完成度は高いままである。その中にキラリと光るものを織り込んでくるのだから、聴いていて楽しくないはずがない。また、マルセル・ミュールへの深い敬愛の念を感じるプログラム構成も私にとってはツボだ。今の日本に…いや、世界を見渡しても、こういったプログラムで2時間のリサイタルを組むことができる奏者が、どれだけいるのだろうか。少なくとも、原博巳さんの世代では稀であろう。

せっかくなので、1曲ずつ書いていこう。マシスの無伴奏からリサイタルを始めるというのも勇気ある選曲だが、たしかにこの前奏曲の演奏を聴くと、なるほどなと思える。フレージングの作りこみが素晴らしい。ダンディは、これは御存知の通りピアノパートに重心が置かれた作品だが、私はそのサクソフォンとピアノのアンサンブルで持ちつ持たれつ、というあたりが印象深かった。もちろん野原みどりさんのピアノが素晴らしいことは言うまでもない。

ヴェローヌは、マルセル・ミュールの録音でチェレスタ、ハープとの演奏で聴いたことがあったが、ピアノとのデュオは初めてだ。重厚なダンディ作品から一転、傍らにあるさりげない美しさの表現を堪能した。チェレプニン、そしてパスカルは、マルセル・ミュールがクレストンの「ソナタ」とともに、サクソフォンとピアノの重要なレパートリーとして挙げた作品である。特にパスカルの完成度は達人の域であろう(歌いまわしを含め"良い意味で"とても30代の奏者の演奏に思えない)。

デザンクロで、特にこれは!と耳が引きつけられたのはカデンツァである。あのセカンドアルバムで聴いた印象をさらに推し進めるような驚異的な演奏。もちろん続く野原みどりさんのカデンツァも見事である。イベールは、ピアノ版で聴く良さをこれまであまり感じたことがなかったのだが、劇的な導入部を聴き、ピアノならではの表現があるものだなと感じ入ったのだった。もちろんサックスパートも素晴らしい。生き生きしたリズム!原博巳さんの技量をもってすればラッシャーの音域で吹くことも可能なのだろうが、あえてミュールの録音と同じに吹いた辺り、こだわりが感じられる。

ちなみに、録音と一緒にプログラム冊子も頂戴したのだが、その曲目解説も素敵だった。演奏者が書く曲目解説は、かくあるべきである。

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