
P.サンカン - ラメントとロンド
P.モーリス - プロヴァンスの風景
A.デザンクロ - PCF
J.リュエフ - ソナタ
A.ベルノー - デュオ・ソナタ
このような充実したプログラムなのだが、たとえば「プロヴァンスの風景」を聴こう!と思った時に手が伸びるというように、あまり作品それぞれとして聴くことは少ない。モーリスはミュールが、デザンクロはロンデックスが、リュエフはデファイエが、それぞれ素晴らしい録音を残しており、作品を聴こうとするときにはどうしてもそちらに手が伸びてしまう。しかし、このCDの演奏が彼らと比較して劣るとか、そういったことは全くなく、むしろ技術的にも音楽的にも(そしてもちろん録音の面でも)、大御所たちの演奏を凌駕しているのではないかと思われるほどの演奏だ。それではなぜ私の場合は、ミュールやロンデックスやデファイエを聴くかと問われれば、そういった有名曲に関しては「刷り込み」が起こってしまっているからだ。
と、前置きが長くなったが、とにかく良いCDなのだ。フランスの「伝統」と「革新」を、最良のバランスで融合させると、こういう演奏になるのだろう。本来音が持つ美しさに、ぐっと抑制されたヴィブラートが重なり、さらに隅から隅までみずみずしいフレージングを加えて出来上がる音楽は、現代におけるサクソフォン音楽の指標となるべきものだ。
たとえば「プロヴァンスの風景」の演奏なんて、実に美しい音で、様々な表現が使い分けられていて、ピアノ(服部真理子氏)とのアンサンブルも絶妙。数ある録音の中でも、これがベストだと言いきってしまいたいくらいだ。第5楽章が特に好きで、黒々としたあの楽譜の中をを軽々と進んでいくサクソフォンは、本当にアブが飛び回るような様子であり、実に聴いていて楽しい。
あとは、やはりベルノーかな。服部吉之先生とのデュオなのだが、類まれな美音を持つお二人のアンサンブル、さらに超難曲&大曲の「デュオ・ソナタ」ということで、聴きごたえは抜群。驚異的な集中力で奏でられるベルノーは、まさに圧巻である。あの楽譜を、ここまで吹いてしまうのか…という、ある意味では恐ろしさすら感じてしまう。モレティ氏&服部吉之先生というのは日本ではおなじみだが、の服部先生は、モレティ氏が10代前半のころから知りあいなのだそうだ。当時から、ソプラノサックスを軽々と操り、こいつは天才だ!と思ったとか。
録音も素晴らしい。ワンポイントなのかな?音の芯を捉えつつも、残響を最適なバランスで含めており、演奏会場で聴くようなリアルさを感じる。さらにさらに、上田卓氏による解説も、大変な読み物である。
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