2007/05/19

デファイエが吹く「ディヴェルティメント」

その昔Crestから発売されたダニエル・デファイエ Daniel Deffayet氏のソロLPは、今となっては半ば伝説と化している。ガロワ=モンブラン「6つの音楽的練習曲」、ブートリー「ディヴェルティメント」、パスカル「ソナティネ」、リュエフ「無伴奏ソナタ」が収録されたものだ。

親交が深かったというリュエフのソロや、ガロワ=モンブランなんか、今まで出版されたLP・CDを全部まとめて鼻の先で吹き飛ばしてしまうような、究極的な素晴らしさを誇るのだが、私個人が特に取り出して聴くのはブートリーの「ディヴェルティメント」だ。

この演奏に出会うまでは、どうもこの曲が好きでなかった。フルモー氏、マーフィ氏、アンドレ・ブーン氏などの大御所が吹くこの「ディヴェルティメント」も、一回聴いただけでお蔵入りしていたものだ。たぶん、曲そのものの性格から来ていたものなのだろう(つまり、あんまり好きな曲ではない、ということ)。どんな曲か、というのも忘れてしまっていたほどだ。まあ、作曲家としてのブートリー氏も取り立てて好きというわけではないし、不思議はないですな。

しかしデファイエ氏が吹く「ディヴェルティメント」に初めて出会ったときの衝撃は、今でも鮮明に思い出すことができる。第1楽章がカデンツァを経て最高潮に達する瞬間の、あの等速ヴィブラートを伴うファ#、第2楽章の耽美なフレーズ、そしてつむじ風のように鮮やかな第3楽章と、聴き終えて呆然と立ち尽くしたっけ。「こんな曲だったっけ!」という飛び上がるほどの驚き。

奏者が変わると曲の印象もこうまで変わるものなのか、という、いままでで一番の経験だろうか。それ以来繰り返し聴いたが、何度聴いても鮮烈な感動を得ることができる。もしかしたら、曲そのものというより、デファイエ氏の天性のようなものを演奏から感じ取って楽しんでいるのかもしれないなあ、というのが、最近「ディヴェルティメント」を聴きながら考えること。

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