5/7 19:00~ 上野の東京文化会館で開かれた演奏会。なんだかんだ言って、東京文化会館小ホールはいちばん足を運んでいるホールかも。4年前の栃尾さんのリサイタル、昨年のハバネラ四重奏団、今年のモルゴーアと、累計4回目。他と一線を画したユニークな形状のホールは、室内楽を聴くのに最高の環境の一つだと思っている。
開場時間ぴったりに到着したのだが、驚くほどの混みっぷり。誘導係員がてんやわんやで、何度も別の列に並び直させられるハメに…。かなり出遅れて入るも、何とか席を確保して開演を待った。客席を見渡してみると、サックス奏者の方、お弟子さんらしき方などがたくさん。週末に同じホールで定期演奏会を開くクローバー・サクソフォン四重奏団のメンバーが全員いたのが、ちょっと面白かった。
フロリオ。気の利いたオードブルのような、楽しげな演奏。そう、雲Qさんの演奏は、軽い曲でもふっと引き込まれてしまうのだ。それは、音色の変化であったり、緻密に構築された曲の流れであったり(いったどれだけ合奏しているんだろうか?)…いろいろな所に要因があるのだと思う。前回の定期演奏会はそのせいでメインまで(自分の体力が)持ちこたえられなかったので、この曲だけは気楽に聴くこととする。フロリオは19世紀の所産だが、オリジナルの響きに流されず、完全に再構築された音が、この現代のホールに響き渡った。
続くグラズノフは、とても堅実な印象を受けた。相変わらずの美音のなかにゆらめく、音色の変化。なんかこう、もう少しロシア的な様式を踏まえた(ルバートがしつこく効いた)感じを聴きたかったとも思ったけれど、ここまで説得力があると、さすがに贅沢すぎる願いというものだ。最終部は、快速で飛ばしながらも決して軽くならず、重厚な音楽のままフィニッシュ。
後半は、バッハとマスランカ。バッハは、本当に楽しい編曲だった!メロディの形はしっかり残っているけれど、そこから聴こえてくるのは、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような多彩な響き。編曲者の北方寛丈さんは、2005年に愛知県立芸術大学を卒業されたばかりの若手だが、そんな若さから来るチャレンジ精神が良い方向に働いたのだろう。同じ無伴奏パルティータとは言え、2年前に聴いた伊藤康英先生の「シャコンヌ」の編曲とは大違いだ。演奏も最高。満点の星のようにキラキラした音が、ホール中に響き渡るのだ。このサックス四重奏団に掛かると、現代楽器でバッハを演奏したところで、微塵の違和感すら感じられない。
マスランカ「レシテーション・ブック Recitation Book」。作品・演奏とも、想像をはるかに超えた強靭さと、美しさを兼ね備えたものだった…ホールの中に凄いことが起こったのは覚えているのだけれど、あれはいったい何だったんだろうか。究極の慰めの表情から、天地がひっくり返って世界が終わってしまうのではないかというような狂気の渦、そして昇華…。本当の音楽は、私たちを日常から切り離し、はるか彼方へ連れ去ってしまうのだな、と実感した瞬間。…だめだ、やっぱり上手く言葉にできない。
終演後は、身体・精神ともに虚脱状態だったのと(マスランカ起因…)、ロビーのあまりの混みっぷりに、早めに退散。「レシテーション・ブック」とアンコールの「ソールズベリー」の余韻に浸りながら、帰路についた。
0 件のコメント:
コメントを投稿