2010/09/29

= Today (MA Ensemble)

これまでも何度かブログで取り上げたが、21世紀に入ってリリースされた室内楽のCDで「最高の一枚」と言い切ってしまいたいアルバムがある。私はそれほど(ピアノ+サクソフォン、サクソフォン四重奏以外の)室内楽に精通しているわけではないし、いわゆる一般的なクラシック音楽を普段から真面目に聴いているわけでもないので、もしかしたら「最高の一枚」という考えも見当はずれなものなのかもしれないが、いや、それでも自分の耳を信じて推したいアルバムだ。Amazon.co.jpAmazon.co.ukAmazon.deAmazon.frで購入可能となっているようなので、再び取り上げた次第。

Ma Ensemble…おそらく日本でこの室内楽団の名を知る方はほとんどいないことだろう。スウェーデンを発祥の地とするアンサンブルで、例えばアンサンブル・アンテルコンタンポラン Ensemble Intercontemporainとか、アンサンブル・モデルン Ensemble Modernあたりと似ている、と言ってしえば、団体のコンセプトはお判りいただけることだろう。1987年に、スタファン・ラーション(指揮、ヴァイオリン)を筆頭に、アントン・ヴェーベルンの「四重奏曲,Op.22」を演奏するために結成され、以来メンバーを追加しながら活動している現代音楽アンサンブルである。Maとは、Todayという意味のハンガリー語なのだそうで。

私はCDを2枚持っているだけだが、そこから聴きとることができる演奏の特徴といえば、緻密で精緻なこと、そして音色が美しいこと。北欧のアンサンブルだからだろうか?(と言ってしまう時点ですでに先入観に染まっているが)。ディスク全体が、限りなく透明な水晶で形作られているような、そんな音。硬質だが、同時に不思議としなやかさをも感じさせる。

「MA(Nytorp Musik Nytorp0001)」は、彼らのデビューアルバム。Nytorp Musikという個人経営のマイナーレーベルについては、いくつかの質の高い録音をリリースしていたようだが、その後やむなき(家庭内)事情により活動を停止している。活動停止後、多くのディスクが現在では入手困難となっており、残念だ。

このたった1枚のアルバムからも、Nytorp Musikのアーティストへのこだわり、録音へのこだわり、装丁へのこだわりが伝わってくる。録音はおそらくワンポイント(エンジニアはCirrus RecordingのHans Larsson)だが、異常なほどの解像感と、まるで奏者の前に一本一本マイクを置いたような各楽器の分離が心地良い。ジャケットやライナーノーツのデザインも秀逸。こんなクールなデザインのジャケットが、未だかつてあっただろうか!?

A.Schönberg - Pierrot Lunaire, op.21
C.Larson - Väsen
C.Larson - Cordes et Tuyau
A.Webern - Quartett, op.22
P.Boulez - Dérive

「月に憑かれたピエロ」は、私もいくつか録音を聴いたことがあるが、最高の録音だと断言して良いと思う。どの曲の演奏にも一貫して言えることだが、Ma Ensembleの演奏の最大の特徴こそ"冷たさと温もりの同居"なのだ。透明度の高い音色と申し分のないテクニックで存分にアピールするのだが、その中に聴き手を突き放すような高飛車な態度は全く感じられない。「こっちへおいで、一緒に響きを楽しもうよ」と誘いを受けているかのようだ。

サクソフォン的興味としても、クリカン・ラーション「Väsen」とアントン・ヴェーベルン「四重奏曲」が挙げられる。どちらの作品にもクリステル・ヨンソン Christer Johnssonがテナーサクソフォンで参加しており、素晴らしい音と音楽性で存在感を示している。ヴェーベルンの「四重奏曲」は、素晴らしい録音が多くて、どれも大好きで困ってしまう(他に、クロード・ドゥラングル教授、ミーハ・ロギーナ氏、ヴァンサン・ダヴィッド氏、カイル・ホーチ氏など)のだが、ううむ、なぜかここに戻ってきてしまうのだよな。不思議。

ところで、私ごときがレビューを書かずとも、大丈夫なのだ。ぜひ、ノルディックサウンド広島のスタッフが書いたレビューも、併せて読んでいただきたい。きっと興味がわいてくるはず。

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