2007/05/25

Claude Delangle「Under the Sign of the Sun」

当代一の名手、クロード・ドゥラングル Claude Delangle パリ国立高等音楽院教授の、最新アルバムがこれ。ラン・シュイ指揮シンガポール交響楽団との共演による協奏曲集「Under the Sign of the Sun(BIS CD-1357)」。

ドゥラングル教授のアルバムは毎回の完成度の高さが魅力的で、発売されるごとに必ず買うようにしていた。ここ数年新しいアルバムの発表がなくやきもきしていたが、「ようやく」と言った感じの新リリース。しかもデニゾフ「協奏曲」以来の、オーケストラとの共演物、しかもよく知られたフレンチレパートリーを取り上げたという大作。これぞ待った甲斐があったというものだ。

・ジャック・イベール「室内小協奏曲」
・アンリ・トマジ「協奏曲」
・モーリス・ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
・ポール・モーリス「プロヴァンスの風景」
・フローラン・シュミット「伝説」
・ダリウス・ミヨー「スカラムーシュ」

イベールの録音は、重要なものだと個人的に考えている。歴代のパリ音楽院教授によるイベールの演奏(ミュール~デファイエ~ドゥラングル)は、その時代周辺のクラシックサクソフォン界の実情がただ一点に集約されている、サンプルのようなものだ。ある意味では、歴代のパリ音楽院の教授に対する試金石とも言えるだろう…。彼らのイベールを聴くことで、その時代の音色のトレンド・解釈の違い・技術の高さなどを一瞬のうちに感じ取ることができるのだ。

ドゥラングル教授の演奏によるイベールは、難パッセージにおいても安定したソノリテ、控えめなヴィブラート、雑念が取り払われたかのような曇りのない音色、ほぼ完璧な完全なフラジオの連結、などなど、特徴を挙げていったらきりがないが、確かに現在のサクソフォン界を代表するような演奏であることに間違いはない。ミュールとデファイエのものに並ぶ、"時代の流れにおける"イベール録音の決定版のひとつとして、確かに克明に記録されるべきものとなったと思う。

トマジの「協奏曲」は、個人的に大好きな曲だ。これまでオーケストラ伴奏バージョンの決定版だった、タソット氏の録音をはるかに上回る出来。もしかしたら須川さんの演奏すらも超えているんじゃないだろうか…。確かにドゥラングル教授ほどのプレイヤーにとっては特別難しい曲、というわけでもないのだろうが、ここまでサラサラ吹かれてしまうと、このサクソフォニストの限界なんて存在しないんじゃないかとも思ってしまう。無音をも効果的に聴かせるカデンツァ、そして最終部の煽りに向けて突き進む様は、圧巻の一言。所々に聴かれるオーケストラの爆演っぷりも楽しい(高音が鳴りたてる場所になると、ちょっとアヤシイが…)。

「プロヴァンスの風景」に、オーケストラ伴奏版が存在することを知らない方って、意外と多いんじゃないだろうか。なんとモーリス自身がオーケストレーションを施したバージョンなのですよ、これって。鋭角的なリズム処理が可能なピアノに比べ、オーケストラのバージョンは推進力などの点ではかなり劣るものの、色彩感という点でかなりの魅力を湛えており、これはこれで好きだな。第3楽章のピアノ左手のズッタッタッタッ、って、プロヴァンス太鼓なのですよ。第5楽章のポリリズムで進行する部分も、ピアノバージョンより強調されたズレが魅力的に響いている。

シュミットの「伝説」オーケストラバージョンって、初めて聴いたかも。ミヨーは、ヴァンドレンから出ているアルバムの演奏が頭の中に蘇って、思いがけずニヤニヤしてしまった。隅から隅まで理性に基づいて抑制された「スカラムーシュ」は、ここでも健在。初めて聴くと、ちょっと驚く方もいるかもしれない。

総じて(相変わらず)とても完成度の高いアルバムであるという印象を受けた。さすが、世界最高のサクソフォニストという肩書きは、伊達ではない。今度は、コンピューター系のサウンドとのレコーディングでもリリースしてくれないかなあ。

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