フィンランド出身のサクソフォン奏者、ヨナタン・ラウティオラ氏のCDで、メイヤー財団の出資により制作される「Jeunes Solistes」の一枚。アレクサンドル・スーヤ氏のCDと同じく、小倉君からお土産としてもらったものだ(ありがとうございました)。タイトル・型番は「Norden(CREC-audio 11/082)」。
ヨナタン・ラウティオラ氏の名前は、まだまだ日本で広く認知されているとは言い難く、簡単に経歴を書いておく。1983年、フィンランドのヘルシンキ生まれ。シベリウス音楽院でペッカ・サヴィヨキ Pekka Savijoliに学ぶ。その後フランスへと留学し、パリ区立音楽院にてニコラ・プロスト氏とクリステャン・ヴィルトゥ氏に師事。その後パリ国立高等音楽院に入学し、クロード・ドゥラングル氏のもとでさらに研鑽を積んだ。サクソフォン以外にも、クラリネットのポール・メイエ氏やオーボエのモーリス・ブルグ氏らに教えを受ける。ディナンのアドルフ・サックス国際コンクールを始めとし、入賞歴多数。フィンランド放送交響楽団ほか数々のオーケストラと共演実績がある。公式サイトはこちら→http://www.joonatanrautiola.com/
2010年のディナンのコンクールで第4位に入賞しており、そこでヨナタン氏(なんとなくファミリーネームで書くより、ファーストネームで書くほうがしっくりする)の名前を知った方が多いだろう。また、2011年のサクソフォーン・フェスティバルにあわせて来日しており、そこでの演奏に触れた方もいるだろう。ロマン派からコンテンポラリーまで自在にこなす適応能力の高さと、音色の美しさが印象的であった。
そのヨナタン氏の「Jeunes Solistes」シリーズだが、プログラムに逆の意味で仰天した。なんと、サクソフォンとピアノのみ。ジェローム・ララン氏、ミーハ・ロギーナ氏、アレクサンドル・スーヤ氏のプログラミングを眺めると、非常に挑戦的というか、エレクトロニクス有り、特殊編成の室内楽有り、といったものばかりだったもので、このシンプルなコンセプトに驚いたのだ。プログラムもシンプル。シベリウスの歌曲・器楽曲を軸に、ヨナタン氏に捧げられた同時代の音楽が2つ含まれている。
Joonatan Rautiola, sax
Mikko Merjanen, pf
Jean Sibelius - Luonnotar, op.70
Jean Sibelius - Narciss
Jean Sibelius - Var det en dröm, op.37/4
Jean Sibelius - Norden, op.90/1
Olli Virtaperko - Crimes of the Past
Jean Sibelius - Arioso, op.3
Jean Sibelius - Den första kyssen, op.37/1
Jean Sibelius - Söf, Söf, susa, op.36/4
Tapio Tuomela - Pilke 1
Jean Sibelius - Kirinmyllyn tarinaa, op.143
Jean Sibelius - Sehnsucht, op.50/2
ソプラノ(声楽)とオーケストラのために書かれた「Luonnotar」から、そのシンプルな響きにすっと身を委ねたくなる。ピアノ(弱音でますます美しい演奏をする)との上質なアンサンブル。完璧なコントロールや、音程感。クールに進むのかなと思いきや、熱い部分はなかなか情熱的に歌い上げていく。うーん、これは良い!現代のサクソフォン・アルバム…特にアルトに特化したものの中では、相当良いものなのではないか。音色やフレージング、さらにこのプログラムも相まって、変な例えだが、サクソフォンの初学者に積極的に薦められるものだ。また、サクソフォンのプログラムはいかにも"サックスっぽい"ものばっかり、ということで食傷気味になっている方が聴けば、耳が洗い直されてしまうことだろう。
2曲置かれた「Crimes of the Past」「Pilke 1」がアルバム中で良いアクセントとなっている。アクセントとなりつつも、異質感は感じないのが不思議。作品のせいでもあり、演奏のせいでもあるのだろう。テクニカルな作品だが、ここでのヨナタン氏、相当なレベルで吹いており、こういったコンテンポラリーへの適応能力を、改めて感じさせる演奏だ。
室内楽の盤として、これはぜひサクソフォン関係者のみならず、普通のクラシック音楽愛好家にも耳にしてほしい!とても素晴らしく、クラシックのCDとして他の編成に負けないと、私自身は思うのだが、そういった方々の耳にはどう聴こえるのだろう。私も、きちんと原曲となる歌曲その他を聴いた上で、きちんとレビューしなければならないなと思うのだった。
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