2006/11/24

デニゾフ「ソナタ」の別アプローチ

平野公崇氏のデニゾフ「ソナタ」第3楽章ジャズアレンジ。

「こりゃあおもしろい!」 この曲をジャズ風に編曲するということのアイデアの奇抜さ、それに演奏者一人一人の技術の高さ。 このトラックを初めて聴き終わった後しばらく、興奮が冷めなかったのを鮮明に覚えている。それに、この演奏を聴くまでは原曲はあまり 頻繁に聴かなかったのだが、この演奏に接した後に改めて聴きなおすといろいろな妙技が散りばめられているのに気づいて今ではお気に入りの曲の1つになってしまった。

エディソン・デニゾフ。シュニトケやグバイドゥリナと並び近現代ロシアを代表する現代音楽作曲家の一人である。最初数学を専攻していたが、モスクワ音楽院でショスタコーヴィチに師事し頭角を現す。カンタータ「インカの太陽」で国際的に広く知られるようになり、その後モスクワ電子音楽スタジオなどで 自由な作風で活動を続けた。

「ソナタ」は1970年、フランスの名手ロンデックスに献呈された。古典的なアレグロ→レント→アレグロのソナタ形式でまとめられている、三つの楽章からなる ピアノ伴奏つき独奏曲。当時サクソフォンのレパートリーはアカデミックなものに限定されており、これに危惧を感じたロンデックスはデニゾフに現代の書法に よるサクソフォン曲を委嘱、世界で初めてサクソフォンのための現代曲が誕生することとなった。委嘱に際してロンデックスは特殊奏法を作品に織り込むことを合わせて 依頼したため、演奏には重音奏法、フラッタータンギング、微分音、スラップタンギングなどの技術が不可欠である。

今回紹介している演奏は、第3楽章の伴奏をクリヤマコトがアレンジしたもの。モダンジャズの影響下にあったデニゾフの当時の作風を極限まで引き出した見事な編曲である。 ノリのよいトリオの伴奏に乗って楽譜どおりに走るサクソフォンが破綻のないスマートな演奏を繰り広げ、曲に合わせて自然と興奮してきてしまう。

原曲を知っている人は「この曲の面白さってこんなところにあったんだ!」と再認知できるはず(というかやはりドゥラングル演奏の原曲をたっぷりと 堪能してからこちらの演奏に接してほしい)。アレンジ、演奏ともども、「曲の面白さを引き出すってこういうことなのか」と思わせてくれる。

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