2006/11/28

リュエフ「ソナタ」

ジャニーヌ・リュエフの「ソナタ」。無伴奏曲のための古典的作品としては、ボノーの「ワルツ形式によるカプリス」と並んで高名なものの一つだ。

1922年パリに生まれ、作曲をビュッセルに師事、1948年にローマ大賞を受賞。女流作曲家。サクソフォンの世界とジャニーヌ・リュエフとの関わりは結構深いもので、 CDのライナーノーツを読んでみて驚いたのだが実は彼女はパリ国立高等音楽院でマルセル・ミュールのクラスの伴奏者を務めていたことがあるそうだ。「ソナタ」はミュール退官後にサックス科の教授がダニエル・デファイエに交代し、そのころに書いた作品だ。

1967年に当時の名手デファイエに献呈された、無伴奏アルト・サクソフォンのための曲。特殊な技巧を必要とするところは一切なく、演奏に際しては純粋に奏者の技量が試されるのだが、名曲の割りに録音が少ないところを見るとプロ奏者でも難しいのかな、と思ってしまう…(そんなことないか)。三つの楽章からなり、第一楽章ではリズミックな主題が面白く聴かれ、第二楽章は一転、静かな部分から徐々に頂点へ向かってゆくシャンソン。そしてなんといっても第三楽章、曲を挟む形で存在するスラーのパッセージの速いこと!

ところで実はこの曲、特に第二楽章はリュエフがデファイエを想う愛の歌(!)、だという噂がある。いや、本当に根も葉もない噂であるし、真偽のほどは、今となっては知る由もない。しかし仕事上で比較的近い位置にあった二人が、私的にはどんな関係だったのか…というのは、興味あるところだ。

それは、楽譜の最初に記された献呈辞からも読み取ることができる。「A Daniel Deffayet en toute amitie」…つまり、for Daniel Deffayet with totally friendshipである。こういった、「en~」付きの献呈辞はなかなかお目にかかれるものではない。それに、女性から男性へ向けて献呈された作品が「無伴奏」という演奏形態である点も、いろいろ考えさせられるものがあるではないか?

ファブリス・モレティ氏のCD「SONATA!(Momonga Records)」やケネス・チェ氏の「Sonate(RIAX)」、そして国内奏者のものでは、須川さんの「Exhibition of Saxophone(EMI)」など、最近になってようやく入手しやすいCDが増えてきた感がある。とくにモレティ氏の演奏は、師匠デファイエ譲りの美音と超絶テクニックが堪能できる一級品のディスクで、イチオシ。チェ氏や須川さんの演奏も良いのだけれど、どちらも録音が悪いのが玉にキズ。

もし機会さえあれば、デファイエ自身の演奏(Crest)も聴いていただきたい。1970年代に、この曲の完成形を提示してしまった、恐るべき録音だ。上記のエピソード(というか、噂か)を知りながらこの演奏を聴けば、第二楽章の聴こえ方が変わってくる…かもしれない。

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