2022/08/31

ダブルリード・カルテットでグラズノフ「四重奏曲」

Richard Boboというコントラバスーン奏者が、グラズノフの「サクソフォン四重奏曲」をダブルリード・カルテット向けにトランスクリプションし、楽譜を販売している。

http://me.subcontrabassoon.com/

確かに名曲であることは疑いようが無いのだが、意外な場所(ダブルリード)での愛され具合に驚いた。他楽器のレパートリーをアレンジして演奏する、という行為は、自楽器に無いタイプの作品に惚れ込んだ結果として発生するものである。サクソフォンでは当たり前のように行われているが、他の楽器がサクソフォンのレパートリーに惚れ込み、アレンジ・演奏まで、ということは稀であり、私が知る限りあまり多くの例は無い(今度整理してみよう)。

実際の楽器での演奏を聴いてみたいところだが…下記より、MIDI音源による演奏とトラッキングスコアを参照可能。

2022/08/28

フェルド「四重奏曲」初演時のプログラム冊子

ダニエル・デファイエサクソフォン四重奏団が、イィンドジフ・フェルド「サクソフォン四重奏曲」をチェコ(当時はまだチェコスロバキアの連邦体制だった)のプラハ市で初演した際の、プログラム冊子のスキャン画像。アンリ=ルネ・ポラン氏の生前の所蔵資料である。

1985年4月23日、陸路(車)で現地入りしたカルテットのメンバーは、プログラム冊子にある通り、新作のフェルド「四重奏曲」ほか、全4曲を披露した。会場は(読み取れる限り)ルドルフィヌムのドヴォルザーク・ホール。

ピエルネ「民謡風ロンドの主題による序奏と変奏」
フェルド「サクソフォン四重奏曲」
グラズノフ「サクソフォン四重奏曲 作品109」
シュミット「サクソフォン四重奏曲 作品102」

(画像はクリックして拡大)


2022/08/27

Le Monde紙のクロード・パスカル追悼記事(2017年)

2017年3月7日付、Le Monde紙上に掲載されたクロード・パスカルの追悼記事である。パスカルの、フランス音楽史の語り部としての側面を強調するかのような内容で、興味深い。


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2月28日、作曲家クロード・パスカルがパリのラリボワジエール病院で死去した。96歳であった。彼の死によって、ローマ賞時代の最後の生き残りがいなくなり、そして何より、ウィットと同様、正しく保たれた時代の記憶が消えてしまったのだ。フランスの偉大な伝統である、緻密な職人気質のクリエイターの一人であった彼は、単なる目撃者としてではなく、自身の音楽人生を、まるで本を開くように語ってくれたものだ。

1921年2月19日、パリで、決して裕福ではないが「音楽とは何かについて非常にハイレベルな考えを持っていた」家庭に生まれたクロード・パスカルは、1931年11月30日にパリ・コンセルヴァトワールに入学し、学年末に一等賞を獲得している。ピアノではあまり成功せず、1935年に二等賞を獲得したのみである。翌年には和声に目を向け、「la clef de voûte du système」のジャン・ギャロンに師事した。1939年(和声)、1940年(ノエル・ギャロンのクラスの対位法とフーガ)、1943年(アンリ・ビュッセルのクラスの作曲法)と、3度にわたって一等賞を獲得したのである。

ヴィラ・メディチの住人:
視覚だけでなく聴覚にも才能のある学生だったクロード・パスカルは、重要な経験を思い起こすことで、それぞれの教師の肖像を描くことができたのだろう。ある日、彼は午後2時にアンリ・ビュッセルの教室に行き、自作のメロディを提出したが、2時間後に自分の楽譜について一言も話すことができないまま帰ることとなった。先生は2時間、「長く息をすることさえ許されない」状態で話をしたのである。1941年に一等賞を受賞して退官した音楽史のクラスを教えていたルイ・ラロワについて、クロード・パスカルは、言語学者としての資質を強調し、歴史的事実(ラロワはモデスト・ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』のフランス語訳を制作した)や家庭での観察(教授の部屋の1つには「すべて中国語の本が並んでいた」)によってそれを裏付けている。

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1947年のクロード・パスカルの写真。26歳前後、ということになる。



第37回管打楽器コンクール・サクソフォン部門結果

本日8/27、本選が行われ、結果は、

第1位:五十嵐健太
第2位:山本航司
第3位:住谷美帆
入選:蒙和雅
入選:海老原美保

となった。得点表は下記の通り。


五十嵐健太氏の名前は知らなかったが、6月のヤマハアトリエで開催されたソロコンサートのチラシに、次のようなプロフィールが掲載されていた。

2002年群馬県伊勢崎市生まれ(注釈:日本人の父、ウクライナ人の母を両親に持つ、ハーフ)。5歳の時母親と一緒にウクライナ・キエフに移住。7歳でサックスとピアノを習い始め、合唱団にも参加。2013年キエフ中等音楽学校(KSSMS)に入学し、Yuriy V. Vasylevych氏のクラスでサックスとクラリネットを専門に勉強する。現在、ウクライナ国立チャイコフスキー記念音楽院で学ぶ。ポーランド・ヴロツワフで開催されたヨーロッパサックスフォーラム(2019)やヤマハガルフ奨学生オーディションでの優勝を始め、数多くの国際コンクールで受賞している。ソリストとしてウクライナ国内のオーケストラとの協演の他、キエフサックスカルテットのメンバーとして活動している。これまでに、中国、ギリシャ、アラブ首長国連邦、ウクライナなどの都市でコンサートに出演、今回が日本で初めてのソロコンサートとなる。
2022年5月に特待生として東京音楽大学3年次に編入し、波多江史朗氏に師事。

2022/08/21

日下瑶子氏の博士論文(マスランカのサクソフォン作品を題材として)

昨年度、国立音楽大学大学院の音楽研究科の博士課程を終了された日下瑶子氏は、作曲家ディヴィッド・マスランカ氏の作品やその作曲プロセスを研究されていた。博士論文のタイトルは「デイヴィッド・マスランカのサクソフォーン作品における表現の根源——作曲プロセスの考察を通して——」というもの。この度、最終稿前のバージョンをご厚意で送っていただくことができた。

先行研究のレビューとマスランカ氏の生涯、諸作品の統計、サクソフォンのために書かれた時代別各作品の概説(譜例を引用しつつ続くセクションへの足がかり)、マスランカ氏の作曲プロセスとして重要な側面である「メディテーション」の詳細、そして関連するコラール旋律の引用について、さらに、マスランカ氏とサクソフォンの関わり、初演の演奏者との関わりを明らかにして、結びへとつなげる…という内容。合計350ページの大作だ。

取り急ぎ、4時間ほど使って速読してみた。公開前ということで、あまり詳細な部分まで述べることはできないのだが、日下氏の研究成果を詰め込んだ壮大な内容。内容の詳細はまたの機会(公開後)に譲るとして、3点ほど印象的だった箇所について書いておきたい。

1つ目:これまで私が持っていた疑問…なぜ、コラール旋律はこんなに人の心を捉えるのか、なぜ私はキリスト教徒ではないのにこの旋律に心惹かれるのか、という疑問があった。マスランカ氏が「コラールは『魔法の石』のようだ」コメントしている中で、まさにその理由について直接的に触れている箇所があり、その内容を読んで、長年の疑問が氷解するかのようであった。

2つ目:「レシテーション・ブック」について、雲井雅人サックス四重奏団が初演に至るプロセス、マスランカ氏との邂逅におけるやり取りがつまびらかにされている。極めて個人的な思いだが、その下りを読んでいて、10年以上前にこの作品を何度も(聴衆の前で抜粋含めて6回演奏している)演奏していた時のことを鮮やかに思い出し、また、なかなか納得して演奏できるようにならなかった頃のことを思い出して、ちょっと冷静でいられなくなってしまうほどだった。ダイナミクスやテンポについては佐藤渉さんから受けたレッスン、そのものだ。当時頻繁に活動していたTsukubaSQでの、音を出した時の異常な集中力、練習での試行錯誤、聴衆からの反応は、何物にも代えがたい経験だ。

3つ目:サクソフォンの様々な側面における柔軟性・適応性は、マスランカ氏の各作曲時期のいずれにおいても、ピタリと当てはまるものであったのだ、という、これまで持っていた朧げな印象が、体系的・具体的にまとめられていて、とても嬉しい気持ちになった。

…2つ目は、思い入れが強すぎて、だいぶ論文の内容とはかけ離れてしまったが…。

論文は、1年以内には正式版としてオンライン公開される予定とのことで、そのあかつきにはぜひ多くの方に読まれてほしい。そして、マスランカ作品演奏における日本語で書かれた水先案内の書として、極めて重要な位置を占めることになるだろう。

武藤賢一郎氏のアーカイブ、ラーションの協奏曲

今年2022年の頭あたりから、武藤賢一郎アーカイブチャンネル、という演奏者ご本人公認のYouTubeチャンネルが登場した。武藤賢一郎氏の過去の演奏録音を、本人の許可を得た上で少しずつアップロードしていく、というもので、ペースはゆっくりながら興味深い録音も多く、多くのサクソフォン関係者が注目しているようだ。

https://www.youtube.com/channel/UC_grGJAwV4oel6uPPTuyrtQ

さて、その中で最近アップされたものが、なんとラーシュ=エリク・ラーション「サクソフォン協奏曲」である。しかも、詳細は書かれていないが、これは間違いなく昭和音楽大学のサクソフォンアンサンブルとの共演録音(録音年を知りたい)で、昔私もなぜかMDを持っており、聴いた覚えがある。

揺るぎないこのスタイルは武藤氏の演奏そのもの。極めて高密度の、突き抜けてくるような音も特徴的だが、実際聴こえてくる音と、録音で聴く音(ともすれば油絵の具のようなベタっとした音にも聴こえてしまう)は、また少し違う。2010年には演奏会で生の音を耳にしたことがあるが、印象を大きく変えた覚えがある。

2022/08/17

フレデリック・ヘムケ氏のTeacher's Guide "Saxophone"

「Teacher's Guide "Saxophone"」アメリカ・セルマーが1977年(?)に発刊した教育者向けのガイドブックで、フレデリック・ヘムケ氏が執筆した30ページ程度の小冊子である。販促品のひとつではあると思うのだが、なかなかに凝縮された内容が面白い。下記から参照できる(なぜかJohan van der Linden氏のサイト…)。

http://johanvanderlinden.com/teachers-guide-hemke.pdf

雑な訳だが、イントロダクション部分を機械翻訳。読んでわかる通り、当時アメリカでは当たり前だった(と思われる)"クラリネットとサクソフォンの持ち替え"という行為に対する反論を出発点としている。

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サクソフォンが置かれた苦境と重大な誤用について嘆く必要はない。この楽器は、他の楽器と同じように、極めて真剣に、上手に教えることができることを認識することが必要である。しかも、サクソフォンは、教育学的類似性、という意味で、他の楽器を礎にしてから学び始めるような必要は無く、独立して学ぶことができる。言い換えると、そのような独立した楽器としての教え方が適している、ということだ。

アメリカでは、サクソフォンの指導は確立されているとは言い難い状態だったが、ヨーロッパでは長きにわたり、サクソフォンの技術、音、教育について、特にフランスで確立された流派が広まっている。そのため、この冊子では、フランス流の指導法を基本的な前提条件としている。

生徒の志向がジャズであれクラシックであれ、威厳と音楽性を持って楽器を演奏するためには、ある種の基礎が必要である。このガイドブックは、サクソフォンセクションがアンサンブルに新しいサウンドと重要なカラーを加えるために、あるいは将来有望なサクソフォン奏者が自分の選んだ楽器から最大限の力を引き出すために役立つものである。

すべての管楽器には、音色、音程、音質、音域、テクニックに関連する音響的な特徴があり、また、各楽器にはそれぞれの音響的な特徴がある。一つの楽器を完全に理解するためには、教師は一般的原則・応用面の両方を良く知っていなければならない。ここではサクソフォンの音響的な性質について概略を述べるにとどめ、楽器を教える際の予備的な手引きとすることにする。

サクソフォンは2つの音響的特徴、すなわち単一の拍動するリードと円錐形の管を組み合わせたものである。これらは偶然に組み合わされたものではなく、発明者であるアドルフ・サックスが創り出したものである。サックス氏は、オルガンのパイプを膨らませたような反応をする楽器を作り、倍音列の倍音を余すところなく出すことを可能にしたのである。クラリネットの1つ目の倍音は12度上だが、サクソフォンの1つ目の倍音は1オクターブ上である。そのため、指使いが比較的単純である。また、この楽器の特徴的な音質もこのためである。

すべてをオーバートーンで鳴らすことは現実的ではないので、高音域の演奏を機械的に補助する工夫がなされている。弦楽器では、指で弦の中間を止めるとオクターブが出る。サクソフォンでも原理は同じだが、空気の柱を分割しなければならない。そのためには、ボディの側面に小さな穴を開け、中の気柱を断ち切る必要がある。もし、Low DからMiddle C sharpまでを、C sharp以上の音を出すための基礎と考えると、これらの基礎を完全に1オクターブ上げるには、少なくとも12個の穴が必要であることがわかるだろう。

しかし、サクソフォンには2つのオクターブキーしかなく、これ以上の数は機械的に非現実的である。その結果、可能な限りの補正を施しても、完全に調律され、機械的に健全で、演奏者の妨げにならない楽器を作ることは、音響的に不可能であることがわかる。優れた楽器では、この問題は最小限に抑えられますが、楽器の先生はその意味を見過ごすことはできない。

サクソフォンのいくつかの音は、この楽器の音階の中でわずかにシャープまたはフラットになる傾向がある。このような音は、演奏者の感性が優れていれば、アンブシュアの微小な調整によって、正しい位置に近づけることができる。サクソフォンは、他の管楽器と同じように、ある特定の音程で最もよく調律されるようにできている。マウスピースの位置を変えると、ある音は他の音よりも大きく変化するため、この音程を上下させると、必ず調律が狂ってしまう。

弦楽器奏者が音程に注意を払うように、サクソフォンもその柔軟性から、初心者のうちは非常に音程に対して敏感でなければならない。サクソフォン奏者が成長するにつれて、口腔内、アンブシュア、息、あるいは別の指使いを微妙に調整しなければならないことに気づくだろう。しかし、サクソフォンは指使いが単純であるため、若いうちは技術的なことだけを考えて演奏してしまう。そのため、イントネーションや音質、音楽性などの習得が遅れてしまう。そのため、若いサクソフォン奏者は「ゆっくり練習すること」を学ばなければならない。

サクソフォンに特化したクラスを教える場合に比べ、異種混合楽器のクラスを教える必要がある場合、問題は深刻化する。この点で、資格のある教師によるサクソフォンの個人レッスンは、通常のクラス指導を補う貴重なものである。

サクソフォンから"最高の結果を得る"ためには、サクソフォンを高い音楽的成果を上げることができる主要な楽器として扱うことである。サクソフォン・セクションを充実させるために、クラリネットや他の楽器から始めて、後でサクソフォンに交代させるようなことはしないでほしい。このような古い習慣は、サクソフォンを始めるのに不適切であるだけでなく、この楽器の多くの問題を解決するのを妨げています。また、サクソフォンは副次的な楽器であるかのように思われていますが、決してそうではない。