2024/03/30

Quatuor Habanera plays Glass

最近アップロードされた動画で、ハバネラ四重奏団がフィリップ・グラス「サクソフォン四重奏のための協奏曲」をアメリカ海軍バンドとともに演奏している映像。


これは、アメリカのInternational Saxophone Symposiumという海軍バンド主催の年一のイベントでの演奏の様子。同曲の吹奏楽版は初めて聴いた(アレンジャーは不明)。第2楽章や第4楽章など、エッジが効いて斬新な響きだが、例えば第1楽章など、やはりオーケストラ版に感じられる浮遊感が無くなってしまっている。

ハバネラ四重奏団の演奏はさすがで、特に緩徐楽章にて微妙な陰影の遷ろいを音色で表現する様が見事。

2024/03/25

パドワのコンチェルティーノ

ウラジミール・パドワ Vladimir Padwaは、1900年ロシア帝国に生まれ、エストニアとドイツで学んだ後、アメリカで活躍した作曲家。エストニアで音楽キャリアをスタートさせ、ベルリンでは、フェルッチョ・ブゾーニの最後の弟子として学び、1932年頃からアメリカで活動し始めた。1948年には永住権を獲得し、同年ニューヨーク音楽大学の教授に就任している。1981年没。

この「サクソフォン、ピアノ、ギターのためのコンチェルティーノ」の録音では、パドワがピアノを弾き、ヴィンセント・アバトがサクソフォンを担当している。パドワとアバトの繋がりを示す直接的な情報は見つけられなかったが、パドワがニューヨークを活動の中心地に据えていた、ということで、ヴィンセント・アバトと交流があったことに違和感はない。

下記からその録音を聴くことができる。アバト氏のアメリカン・スタイルの力みの無い音色は魅力的だ。ギターはピアノの補助的に使われており、あまり目立つ箇所が無い。

https://archive.org/details/cd_thomson-schmidt-desenclos-tansman-lees-pad_virgil-thomson-gustavo-becerra-schmidt-al/disc1/

写真は、パドワの近影。


オーケストラ版のPCF、バリトン独奏(R.ピーターソン編)

ラッセル・ピーターソン氏の編曲によるアルフレッド・デザンクロ「PCF」の映像。スペインで行われた第11回世界サクソフォンコングレスで初演された編曲。初演の録音を聴いたことはあるが、なかなかオーケストラには酷な内容で、効果的かといわれると必ずしもそうではない。ちなみに、編曲として公式の許可を得ているものかどうかは不明。好事家(物好きな方)向け。

…どころか、なんとバリトンサクソフォンでの演奏。ワシントン大学の学生オーケストラとの共演で、サクソフォンを演奏しているのはKatie Zundel氏という方だが、この方も学生かな?なかなか濃厚で良い音をしているのだが、高音部や急速部では技術的に少々難あり。



2024/03/18

Quatuor LaloyのCDを紹介

…ということで、以前も紹介したのだが、あまり知られていないようなので再掲。Nicolas Arsenijevic氏が参加した商用録音の中で、個人的に最も好きなもの。

Arsenijevic氏がソプラノを務めるQuatuor Laloyという四重奏団で、2008年の結成。最新の状況としてアルトにEva Barthas氏が参加したとの情報もあるが、公式サイトが消滅しており、確証が得られていない。この「Diptyque」というアルバムは2014年の録音で、その際のメンバーは下記の通り。

Nicolas Arsenijevic, saxophone soprano
Guillaume Berceau, saxophone alto
Vincent Dupuy, saxophone ténor
Julien Bire, saxophone baryton
Sébastien Farge, accordéon
Jérôme Souille, batterie

YouTube上のプレイリストから全編を聴くことができる。これは、コロナ流行時のロックダウンの際、様々なコンサートがキャンセルとなる中で、オンライン上で聴衆に楽しんでもらおうとの試みにより公開されたものである。

https://www.youtube.com/watch?v=hWkAI1xMqzw&list=PLImaPFgp5SM9Po_JlcEKVyWdE2Eyyp9DZ&index=1

アコーディオン・パーカッションも交えての、クレツマー音楽を中心とした内容。サクソフォンならではの機動性とボーダレスな音色が、作品にマッチしている。

2024/03/17

パリ国立高等音楽院サクソフォン科の新教授はNicolas Arsenijevic

表題の通り、クロード・ドゥラングル教授の退官に伴う来年度以降のパリ国立高等音楽院 CNSMDPの教授が、選考の結果、Nicolas Arsenijevic ニコラ・アルセニイェヴィッチ氏に決定したとのこと。

カタカナ表記については、下記を参考にしたが、元の名前のスペルミス等もありなんとも言えないところで、今後落ち着くまで時間がかかりそう。そういえば、ドゥラングル氏も、2007年あたりに「ドラングル」という表記が流行ったりした。個人的にカタカナ表記はけっこう重要な情報ので、ぜひ野中貿易様あたりに早めに制定いただきたいところ。

https://ameblo.jp/chiharulemarie/entry-12817374181.html

初めてNicolas Arsenijevic氏の名前を知ったのは、無名時代に、彼の演奏するサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリツィオーソ」の録音によって、だ(確か大西智氏さんに聴かせてもらったような)。世界最先端のフランスのサクソフォン界が次のステージへと移行を開始している時期のもので、その鮮やかな演奏に驚いた記憶がある。その後、ディナンのコンクールのライヴ中継や、クロアチアのコングレスで実演に触れたこともあるし、折につけ見る名前だったが、まさかこのサクソフォンの世界最高学府の教授に就任とは。

CNSMDPのサクソフォン科は、このグローバリゼーションの時代となってなお、世界のサクソフォンのトレンドを築く中心地といえる。Nicolas Arsenijevic氏がどのように動いていくのか…注目していきたい。


2024/03/10

SAXIDEA "Hommage"

新生SAXIDEAのアルバム第二弾が、NATレーベルより発売された。これでCDを入手‥などとなると、アメリカへの輸入は時間がかかるが、発売の瞬間に聴くことができるのは、やはり配信の利点の一つだ。

武藤賢一郎(Ss)、茂木建人(As)、小山弦太郎(Ts)、歌頭諒(Bs)という師弟カルテット。日本人初のパリ国立高等音楽院卒業生にして、国際コンクール入賞者という唯一無二の経歴を持つ武藤氏。いまだにその技術・音楽性は健在であり、弟子とともに大曲を見事に創り上げている。収録は、ブーニョ、シュミット、グラズノフ。

武藤氏の演奏に着目すると、(例えば年齢による)後退の姿勢など一切を感じさせず、それはソプラノサクソフォンの音色・音楽性ともに、稀にアンサンブルの上で先行しすぎるきらいに反映されるのかもしれないが、とにかく圧倒される演奏だ。弟子である他の3名が、いまこの時点でもかなりのものだが、さらにタガが外れたときに、いったいどんな次元の演奏になるのだろうかと、そんな妄想をしてしまう。次のアルバムも期待したい(ぜひ、旧SAXIDEAでも録音していたベルノーの再来を!)。

個人的にはブーニョの録音が嬉しい。商用録音として、私が知る限りはJacques DeslogesのLPアルバムに収録されているくらいで、CD時代に取り上げられたことを聞いたことがない。小品として扱われてしまうことも多いが、個人的には他の数あるネオ・クラシカルスタイルの作品と遜色ないと考えており、これをきっかけに現代でも取り上げられることが増えてほしい。



2024/03/04

Jacques Murgierの協奏曲集

ダニエル・ゴーティエ Daniel Gauthierは、カナダ生まれ、その後ドイツで活躍している奏者。ボルドー音楽院でロンデックスに師事。近年ではAlliages Quartettとしての活動が有名。メディアへの露出も多い。

オーケストラ奏者としての演奏も有名で、ハインツ・ホリガー指揮シュトットガルト放送交響楽団と共演したドビュッシー「ラプソディ」の録音は同曲の最高の録音の一つとして名高い。

そんなゴーティエ氏が、1996年に録音したJacques Murgierの協奏曲集の録音を聴いた。「アルトサクソフォンと弦楽オーケストラのための協奏曲」という作品で、ネオ・ロマンティックとでも表現できそうなスタイルの作品を、明るい良く通る音色で見事に演奏している。こういう音色を躊躇なくオーケストラとぶつけ合うことのできる奏者ってなかなか居ないなあと、30年近く前の世界に思いを馳せている。



2024/03/03

こんなところにIngolf Dahlの名前

こどもたちがスヌーピーにハマっている関係で、昔のピーナッツの映画「A Boy Named Charlie Brown」を観た。途中、ベートーヴェン大好き、シュローダーがピアノで「ピアノ・ソナタ第8番"悲愴"」を弾く場面が出てくるのだが(その時の映像はややサイケデリックで面白い)、それがまあ見事な演奏で、劇中でも印象に残る箇所であった。

誰が弾いているのかなと思ってクレジットを見ると、なんとIngolf Dahlの名前が!作曲者としてだけではなく、ピアニストや指揮者としても活躍していたことは知っていたが、まさかこのようなところで発見するとは思わず、驚いてしまった。以下、英語版のWikipediaからの抜粋の翻訳だが、しっかりその映画についても触れられている。

彼はエンターテインメント業界でも働き、 1941年にエドガー・バーゲンと彼の人形劇のピアニストとしてツアーし、その後1942年と1956年にはコメディアンのグレイシー・フィールズのためにツアーを行った。彼はトミー・ドーシーのために編曲をプロデュースし、ヴィクター・ボルジの編曲者兼指揮者を務めた。彼はベニー・グッドマンにもクラシックのレパートリーの個人レッスンを与えた。彼は、フォックス、ゴールドウィン・スタジオ、コロンビア、ユニバーサル、 MGM、ワーナー・ブラザース、およびポストプロダクション会社トッド・AOの多くの映画のサウンドトラック・オーケストラで鍵盤楽器を演奏した。彼はテレビ番組『トワイライト・ゾーン』にも取り組みました。この作品がもたらした収入には感謝しているが、『スパルタカス』の制作中、音符は他のいくつかの楽器でも倍増されているのに、「チェレステでいくつかの音を鳴らす」ことがいかに無意味であるかについて不満を漏らしていた。ダールは弟子のポール・グラスが『アブダクターズ』 (1957年)のサウンドトラックを指揮し、 1969年のアニメーション映画『A Boy Named Charlie Brown』ではベートーヴェンの悲愴ソナタの第2楽章と第3楽章の両方を演奏した。

https://en.wikipedia.org/wiki/Ingolf_Dahl