予定がぽっかり空いて、急遽伺うことにした。サクソフォン的興味はもちろんだが、テューバ奏者の橋本氏の演奏に興味があったこともその理由の一つ。ふだんコンサートに行くとなると「前売り予約して平日なら仕事調整して曲の予習して云々」という癖がついてしまっているのだが、シルバーマウンテンオープニングコンサートは(前売りが売り切れていない限り)こうやってフラッと聴きに行けるのが嬉しい。
【東京現音計画 Silver Mountain Opening Concert】
出演:有馬純寿(electo.)、大石将紀(sax.)、橋本晋哉(tub.)
日時:2013年12月16日(月曜)18:30開演
会場:シルバーマウンテンB1F
プログラム:
ブルーノ・マデルナ「ディアローディーア」
ルイジ・ノーノ「後-前-奏曲第一番"ドナウのための"」
有馬純寿「うつしのエチュードI」
松平頼暁「サクソフォンのためのジェスタフォニー」
エルネスト・H・パピエ「急ぎ仕事」
スティーヴ・ライヒ「ニューヨーク・カウンターポイント」
杉山洋一「ファンファーレ」
川上統「羅鱶」(委嘱初演)
ライヒ以外はすべて初めて聴く作品。最初から最後までとても興味深く聴いた/観た。各曲の様子を簡単に述べていこう。
マデルナは、大石氏(Bsax)と橋本氏のデュオ。不協和音を並べつつも、時折現れる協和音の響きは、実に"甘く"感じる!しかし、こうして並べて聴くといかにサクソフォンがイロモノであるかが、良く解る。それに比べてテューバの響きの、なんとシンプルかつプリミティブなことか。人間が太古の昔から鳴り続けているような、そんな印象すら受ける。響きや音色を完全にコントロールしたいと思う作曲家にとっては、やはりサクソフォンという楽器はとても扱いづらいものなのかなとも感じた。
ノーノはテューバソロとエレクトロニクス。シンプルな響きがコンピュータ処理によって幾重にも折り重なり、やがて聴いたことのないような響きが立ち上がる。とても穏やかな盛り上がりを何度か経て幕。テューバパートは、シンプルな音素材を求められるこそ難しいと思うのだが、さすが橋本氏、楽器を完全にコントロールしていた。有馬氏の作品は、エレクトロニクスのソロ。特に説明もプログラム冊子もないので、タイトル「うつし」の意味するところはわからなかった。きらめくような響き、時折挟み込まれるミュージック・コンクレートが美しい。
松平作品は、サクソフォンソロ。シアターピースといった趣。ソプラニーノからバリトンまで、5本のサクソフォンを操りながら、また、時間感覚(やっぱり日本人の作品は断絶部分の取り扱いが楽しい。それでこそだ)をもステージングに取り入れて、まるでサクソフォンを使った日本の伝統芸能の舞台を鑑賞する感覚。ふしぎ。いったいどこからどこまでが楽譜に書かれているのか、それともある部分は即興なのか、楽譜を眺めたいくらいだ。大石さんのこういったシアターピース作品に対する適応能力の高さはYAMATONATTO時代の動画から拝見しているが、相変わらずの素晴らしいステージだった。コミカルなのだけれどシリアスで、西洋なのだけれど東洋で、ストップ&ゴーで…これはとにかく観てみなければわからないものだと思う。今日臨席できて良かった!
休憩を挟んでパピエ。大石氏と橋本氏が机に向かい合って座り、目の前に並べられたマウスピースを、手に取っては吹き、机上に打ちつける。タイトルの「急ぎ仕事」のとおり、せわしなく、目まぐるしく、リズムを刻みながら、時に2つ同時吹きなども交え、さらにはコミカルな幕間も交え、曲が進む。クラッピングミュージックの進化系かな?などと言ってしまっても良いかもしれないが、なぜかくラッピングミュージックにはない面白さをじわじわと感じる。実に面白い。
ライヒは…実はこの曲が演奏されることを知らずに伺ったのだが、大好きな曲であるので思いがけず聴くことができて嬉しかった。ライヴで聴くことのできる機会など、そうそうあるものではない。大石氏の演奏の素晴らしさはもちろんのこと、4本のスピーカーから各パートのバランスを絶妙に変えて、立体的な音響を作り出していたのは有馬氏の手腕だろうか。いずれにせよ、この響きは万人に受け入れられるもののはずで、特にライヴで演奏された時の印象は強烈だ。いろいろなところでもっと演奏されてほしい。
杉山作品は、テューバソロ。タイトル通りの短くシンプルなファンファーレ風のフレーズが演奏されたと思ったら、曲が進むにつれて徐々にそのフレーズがぶっ壊れていく。特殊奏法(テューバでこんなことできるのか!という驚きが多発)をふんだんに交え、安定した演奏で…いや、あまりに安定しすぎて、曲の難しさすらわからないほどだったが(^^;見事に吹ききった!凄すぎてよくわからなくなることって時々あるのだが、そんな感覚。
最後の川上作品は、なんと委嘱初演。バリトンサクソフォン、テューバ、エレクトロニクス。川上氏の作品には動物の名前が付くことが多いというが「羅鱶」もご多分に漏れずそのシリーズに連なる。羅鱶は"らぶか"と読むが、こんな生物だそうだ。…あまりかわいくないな。冗談はさておき、バリトンサクソフォンとテューバの、連続的な、畳み込むような変調の応酬は、聴いていてとてもエキサイティングなものだった。編成的にも設備的にもかなりこれはぜひ再演を期待したいところだ。同じバリトンサクソフォンとテューバ、という編成でも、マデルナ作品よりこちらのほうがより楽器としての特性が近いところにあるように聴こえたのは、なぜだろう。エレクトロニクスの有無だけが理由ではないと思うのだが。
いやー、楽しかった。ピアノの黒田亜樹氏やパーカッションの神田佳子氏が参加した時の演奏もそのうち聴いてみたいなあ。
帰りに溝の口駅近くの「博多っ子」に寄り道して帰宅。ここはなかなかいいですね。
0 件のコメント:
コメントを投稿