2011/07/24

大宅裕ピアノリサイタル~祈りの時代に~

渋谷駅から東急の左側面に沿って進むと、次第に喧騒が和らいでくる。およそ徒歩15分ほどで、静かな住宅街が見えてくるのだが、その入り口に位置するのが、今回の会場となった松濤サロン。この立地にはなかなか驚いた。通りに面し、時折外から自動車が通過していく音が聞こえる、そんなスタジオに巨大なスタインウェイが鎮座している。およそ60席ほどのスタジオが、満員。大学時代の知り合いもたくさんいるなか、開演となった。

【大宅裕ピアノリサイタル~祈りの時代に】
出演:大宅裕(pf)
日時:2011年7月24日(日曜)16:00開演
会場:松濤サロン(しょうとうさろん)
料金:全席自由3000円 親子券4000円 パスリゾーム2500円
プログラム:
権代敦彦 - R.I.P. ~Glas「弔鐘」
Luc Brewayes - Pyramids in Syberia(日本初演)
Galina Ustvolskaya - Piano Sonata No.6
Peter Eötvös - Erdenklavier Version I
Morton Feldman - Palais de Mari
問い合わせ:
http://yutakaoya2011.jimdo.com/
info@imageairproject.com(イメージエア音楽事務所)

今回のプログラムが、311の災害に対する大宅さんの感情を大きく反映したものだ。「祈りの時代」というサブタイトルが与えられてはいるものの、聴こえてくるのはもっとダイレクトな悲しみや怒りであった…と思う。あのとんでもない厄災、生と死が隣り合わせに存在していたその状況。犠牲者に捧げられた(であろう)「R.I.P.」は、執拗な高音部のパルスに、なんとなくあちらの世界を垣間見るような気さえする。最後は、外からの音によって現実世界へ引き戻された。

日本初演となったリュック・ブレイエズもまた、強烈な印象を残す。硬質なタッチから生み出されるカミソリの刃のような鋭いイメージ(音ではなく像として脳裏に飛び込んできた)を浴びる。CDでは聴こえない倍音の響きは、ときおり実に甘い表情を与える。そして、中間部から奏でられる、激烈な高速パッセージ。思わず前に乗り出してしまうほど惹き付けられ、まさに「全力を尽くしての表現」という言葉がふさわしいものであった。「全力」というよりも、「極限の集中力」と表しても良いかもしれない。

ウストヴォルスカヤは、これまた想像を絶する音楽。チェルノブイリの事故のあとに書かれた…という噂があるのだが(?)。大音量のトーンクラスターをふんだんに使い、超高密度の音塊が会場を埋め尽くす。初めて聴いた人にあっては、ずいぶんと驚いていた様子だったが、有無を言わせない迫力があった。単音で演奏されるメロディは、まるで「インターナショナルの歌」のような社会主義啓蒙的旋律を想起させる。次の瞬間、クラスターにかき消されるメロディ…。ウストヴォルスカヤという作曲家、きちんと追ってみたいのだが、中途半端に足を突っ込むと戻れなさそうだ。ウストヴォルスカヤに続いて、エトヴェシュの慰めの音楽が短く、美しく演奏された。

休憩を挟んで後半は、「Palais de Mari」。インスピレーションの基となったルーヴル美術館の"マリの城"については、こちらのサイトから。今年初めに聴いた「トライアディック・メモリーズ」ふうの、静かで深遠な音楽。ただし、次々とフレーズが出現し、リズムは瞬間々々にゆらいでいく。空調を止め、時々外の音が漏れ聴こえてくるなかでの、貴重な25分間だった。こんな形で音楽と向き合える、その瞬間を我々が生きているという喜びをかみしめた。

終演後は、併設のカフェでゆっくりとおしゃべり(ワインは美味しかったけれど、さすがの都会価格に閉口)。帰り際にはラーメンを食べて散会した。

持っていったコンデジで撮った開演前の写真。やっぱり35mm換算で28mmの画角は、気持よく撮ることができる。

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