イギリスのクラシック・サクソフォーン界は、特に私の興味の対象であり、まとまった資料としてWeb上(http://www.geocities.jp/kuri_saxo/english/)にもまとめてある。そしてイギリスのサックスとともに、平行して興味を持っているのが、「サクソフォーンの現代作品」である。
その「現代作品」分野なのだが、これについて調べ物をしている段階で、必ずと言っていいほど出会う奏者がいる。それが、フランスを拠点に主にヨーロッパで活躍するサクソフォニスト、ダニエル・ケンジー。この記事では、彼の簡単な紹介と、功績を以下につらつらと。
ダニエル・ケンジー Daniel Kientzy氏(1951 - )は、フランス生まれのサクソフォーン奏者。パリ・コンセルヴァトワールを卒業し、以後は主に演奏活動に専念。フランス国内外の作曲家から、多量の作品を献呈され&初演をするという、サクソフォーンの現代作品演奏のスペシャリスト。ソプラニーノ・サックスからコントラバス・サックスまでを縦横無尽にあやつる姿は、公式Webページ(→http://www.kientzy.org/)でも見ることができる(公式ページを開くと聴こえるエキゾチックなサックス2重奏の響きは、なんと2本のサックスを口にくわえて1人で演奏:BIPHONIEという奏法だそうで)。
まず驚くべきは、その献呈作品数。なんと、300(!)を超えるそうだ。さらに自主レーベル"NOVA MUSICA"への吹込みを中心とする録音にも積極的で、アナログ盤時代から通算で、現在72タイトルに達している。録音に積極的だったというあのマルセル・ミュールですら、ソロ+四重奏団のアルバムを合わせて50タイトルに満たないことを考えると、ケンジー氏の凄さが分かるというもの。しかもまだ増え続けているのだ。
それまであまりサクソフォンの作品を書くことに積極的でなかった作曲家が、ケンジー氏の演奏を聴いてインスピレーションを受け、作品を書く。そしてケンジー氏がその作品を初演、さらに再演を重ねてゆき、徐々に有名になってゆくという、好循環が生まれているのだそうだ。現代音楽の分野では、苦労して初演された作品が、もう二度と演奏されることはないことも珍しくないのだが…たった一人の演奏家に、「現代作品」分野の作曲家たちの、なんと大きな期待が込められているというのか。
2005年の暮れには初来日し、ディアナ・ロタル女史の「シャクティ(入野賞受賞作品)」を東京シンフォニエッタとともに初演した。「シャクティ」はサクソフォーン・フェスティバル2006ではメインプロとして取り上げられ、平野公崇氏が日本での再演を果たしたし、ケンジー氏の演奏によるCDも作成されているそうだ(入手至難)。この一連の流れを見るだけでも、ケンジー氏がいかにひとつひとつの作品を大事にし、そしてそのことが、どれだけサクソフォーンの世界に影響を及ぼしているのかが分かるだろう。
私が持っているケンジー氏のCDは、以下の4枚。
・Musiques contemporaines pour saxophones(ADDA)
・L'art du saxophone(NOVA MUSICA 5101)
・Une Couleur...(NOVA MUSICA 5108)
・HOT(NOVA MUSICA 5109)
いずれこのブログでもご紹介したい。…ちなみにWebサイト「mcken's wonderland(→http://www.iwakami.ne.jp/~mcken/)」管理人のmckenさんはどうやら20枚くらい持ってらっしゃるようです(^^;すごい。
ちなみに、手っ取り早くケンジー氏の演奏の凄さ、変態っぷり(もちろん褒め言葉です)を体感したい向きには、公式サイト内のビデオが楽しい。
・オーケストラとケンジー氏
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/1hq.html
オーケストラとバスサックスの協奏曲。「ドップラー協奏曲」だそうで。
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/2hq.html
ディアナ・ロタルの母、ドイナ・ロタルの作による、オーケストラを従えた協奏曲。サックスは倍音で跳躍したり、マウスピースはずしたり、二本同時に吹いたり、やりたい放題(笑)。二本同時&循環呼吸なんてできるんだ…。
・ケンジー氏ソロの映像作品「SAXISTE!」より抜粋
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/3hq.html
テープとサクソフォンのための「ド-ミ-シ-ラ-ド-レ」。優しい響きで始まるので、聴きやすい。
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/4hq.html
無伴奏バスサックスのための「Thema」。サックスの音らしい音が出てこないのだけれど…。
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/5hq.html
無伴奏テナーサックスのためのポール・メファノ「Periple」。右隅でタバコをふかしているケンジー氏、かっこよいですな。
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/6hq.html
エレクトロニクスとテナーサックスのための「Olos」。この不思議な躍動感は、エレクトロニクスを使った作品の独壇場でしょう。
http://www.kientzy.org/fr/videos/hq/7hq.html
エレクトロニクスとソプラニーノ(ソプラノ?)のための「Aulodie」。映像の合成がコミカルで面白い。
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