雲井雅人氏の「Simple Songs(Cafua CACG-0093)」を昨年末に買って以来、ディヴィッド・マズランカ David Maslanka氏の「ソナタ」を特に意識的に聴きこんでいる。30分に及ぶ長大な作品というだけあって、今まではどうも集中して聴きとおすこともなかったのだが、きちんと何度も聴いていくと楽曲の構造が徐々に身体に染み付いて、最後まで聴くのも容易になるようだ。
演奏側が作曲者に要求されることが増えれば増えるほど、聴き手側も真剣に耳を傾けざるを得ないというものだ。特にこの「ソナタ」は、マズランカ氏の表現したいことがこれでもかというほど詰め込んであり、聴き手を捉えて離さない強い意志が感じられる。…イダ・ゴトコフスキーの手による、強烈な感情を表した作品(ブリランスや四重奏曲など)に共通点を感じるのは私だけだろうか。
さてそんな折、実家からつくばに戻る最中に寄った石丸電気で、スティーヴン・ジョードハイム Steven Jordheim氏演奏によるマズランカサックス作品集「Maslanka / Song Book for Saxophone(Albany TROY 392)」を発見した。2000円ほどだということもあり、あっさりと購入。アルトサクソフォンとマリンバのための「ソング・ブック」、そして「ソナタ」が収録されている。
サックスのジョードハイム氏は、実は雲井さんとジュネーヴ国際音楽コンクールの入賞を分け合ったプレイヤーだ。現在は、ローレンス大学音楽院サクソフォーン科の教授職にあるという。アメリカではかなりの実力派プレイヤーなのだろうか、録音はピンボケ気味ながら演奏はかなり良い。
「ソング・ブック」が収録されているのが目新しい。マリンバとアルトサクソフォンという、現代楽器の組み合わせによる、7つの短い曲から成立した組曲。一貫して感じられるのは、マズランカ氏のバッハへの愛情だ。バッハのコラールを1パートずつ歌うことを日課にしているというマズランカ氏だが、激しいフレーズの中にも、抑制された美しさが感じられるのは、そういった理由からなのだろう。
これまで「ソナタ」「ソング・ブック」「マウンテン・ロード」などマズランカ氏の作品をいくつか耳にしてきた。どの作品も、サクソフォーンというフォーマットを使いながら、自身の言葉を最大限に表現しきっているものばかり。作品を聴くだけで、作曲者の「独白」が生々しく感じられる作品って、実は意外と稀有だったりするのではないか?氏の作品が知られるにつれ、特に演奏者サイドに徐々に人気を博している理由も、わかるような気がする。
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