2016/07/30

つくばで練習

つくば市でEnsemble Tsukuba(吹奏楽)の練習。懐かしのアルスホールにて。

伊藤康英「古典幻想曲」、メンデルスゾーン「管楽のための序曲」ほか、ブルックナーやグリーグの管楽合奏作品(マーチ)を音出し。

音楽的に密度の高い作品が多く、こういった曲の中でサクソフォンを吹く、というのは他では得難い経験である。楽しかったー。

上野耕路&ヒズ・オーケストラ「ビッグバンド・ルネサンスVol.2」

 BIG BANDの常套手法とはアレンジが容易でグルーヴも出し易い音量バランスがとれた楽器編成、同一演奏スタイルのミュージシャンの集合体:僕はそれらを手放した。
 過去の驚異的ジャズ・アンサンブルを視野に入れつつ再考されるBIG BAND。その答えは 個々の楽器音量比と演奏スタイルはアンバランスかもしれないが、流動的ダイナミズム、室内楽的精妙さ、真新しい歪さなどが現出することとなる。
 それが僕が目指す"BIG BAND RENAISSANCE"
上野耕路

上野耕路氏は、いくつかの特徴的な編成の演奏グループに参加ないし主宰しつつ、大編成のユニット:捏造と贋作、上野耕路アンサンブルなどを経て、近年では、上野耕路&ヒズ・オーケストラを結成し、CDリリース/ライヴ等を行っている。ピアノとヴォーカル、そして管弦打楽器が入り乱れた、強烈な個性を持つバンドだ。昨年、六本木で聴くことができたのだが、初めてライヴで聴いてそれはそれは感動したものだ。→ブログ記事

ということで、今回も楽しみに伺ったのだが、期待以上だった。

【BIG BAND RENAISSANCE Koji Ueno and His Orchestra Vol.2】
出演:上野耕路(pf)、佐々木理恵(fl)、秋山かえで(cl)、曽根美紀(asax)、小池裕美(tsax)、矢島恵理子(bsax)、田澤麻美(tp)、門星涼子(trb)、国木伸光(tub)、服部恵(mrb)、中島オバヲ(perc)、杉野寿之(drs)、真部裕(vn)、多井智紀(vc)、谷嶋ちから(drs)、清水万耶子(vo)、久保田慎吾(vo)
日時:2016年7月28日 19:30開演
会場:Blues Alley Japan
プログラム(すべて上野耕路作品):
Serius B、Oil Barons and Cattle Dukes、Archaeopteryx and Compsognathus、Cosmic Radio、1979、Canis Major、This Planet is Earth!、Volga Nights他

演奏された作品は、「Polystyle」「Sirius B」に含まれるものを中心に、その他にも改作多数。アンコール含めて、なんと計20曲も演奏された。知らない作品もあり、曲名のアナウンスがない場合もあったため、完全なセットリストを書くことが出来ないのが残念だ。

とはいえ、作品名など微塵も気にすること無く、ただひたすらに"上野耕路サウンド"に溺れた3時間。各楽器が、割り当てられた超高速フレーズを無造作なようでいて緻密に演奏する。一聴すると発散した響きなのだが、その中には有機的な関連性と、一致が見て取れ、気がつけば"上野耕路サウンド"が眼前に立ち上がる。才能とか天才、という言葉で一朝一夕に片付けられず、ある種の狂気や異常性(褒め言葉です)すらも感じるほどだ。「アトミックなもの(各パート)にひとつひとつ限界クラスの試練(楽譜)を与え、せーの!と音を出したら凄いものができちゃうから楽しみにしててね!」みたいな。本当に、上野氏だけしか作ることのできない音楽だと思う。

特に、新作「Volga Nights」の面白かったこと!キグルミ「たらこ・たらこ・たらこ」のメロディに、スパークス(ロン・メイル&ラッセル・メイル)が「Volga Nights」という歌詞を付け、さらに上野氏自身が込み入りまくったオーケストレーションを施した、類まれな傑作。10分位はあっただろうか。あまりに密度の高い音楽、そして楽しさに圧倒されっぱなし。

全曲通して、演奏者はとてつもなく大変そう(笑)で、しかし楽しそうだったのが印象的。特に、トランペットの田澤氏のノリ(見た目にも!)はバンドのサウンドの引き締めに一役買っていたようだ。また、今回から加入したというトロンボーンの門星氏も、なかなか味わい深かった。サクソフォン・セクションも鉄壁、ガリガリしたサウンドを随所で楽しんだ。

いやあ、楽しかったなあ。

2016/07/27

ペッテション「交響曲第16番」の録音

実質的なサクソフォン協奏曲とも言えるアラン・ペッテション Allan Petterssonの「交響曲第16番」は、メジャーレーベルからリリースされているものは、長きに渡って以下の2録音しか存在しなかった。

・ユーリ・アーロノヴィチ指揮ストックホルム交響楽団(サクソフォン:フレデリック・ヘムケ)
・アラン・フランシス指揮ザールブリュッケン放送交響楽団(サクソフォン:ジョン=エドワード・ケリー)

つい最近まで知らなかったのだが、次のコンビによる演奏がリリースされてたのだそうだ。2014年の録音、BISからの発売で、BIS-2110という型番が付いている。

・クリスチャン・リンドベルイ指揮ノールショピング交響楽団(サクソフォン:ヨリエン・ペッテション Jörgen Pettersson)

リンドベルイ氏は言わずと知れた指揮者・トロンボーン奏者であり、ノールショピング交響楽団もそこそこ名のあるスウェーデンのオケだが、サクソフォンのヨリエン・ペッテション氏を知っている向きは少ないのでは。スウェーデン出身の非常に優秀なサクソフォン奏者で、スウェーデンのロイヤル・カレッジとフランスのボルドー音楽を卒業後、主に母国で独奏者・教育者として活躍、特に現代作品の演奏に注力し、これまでに献呈された作品は400を超える。特に「Saxophone Con Forza(Phono Suecia)」と題されたCDは、作品の強烈さと演奏のレベルの高さから、大変興味深いもので、私も時々取り出しては聴いている。ダールの「協奏曲」のCDもあるのだが、それもかなり良い。

そのような演奏者でのペッテション「交響曲第16番」の録音、聴いてみたが、なかなかの演奏。手に入りやすかったザールブリュッケン放送交響楽団の演奏は、少々線が細く、この曲が持つ重量感を表現するには少々不満な部分があった。今回のリリースは、メジャーレーベルのBISからということで手に入りやすく、内容も良い。やはり個人的にはヘムケ氏が参加した盤が好きなのだが、いかんせん手に入れづらく…今後、「ペッテションの交響曲聴きたいんだけどどのCD買えば良い?」と質問されたら、このBIS盤を勧めることになると思う。そんな質問が来るとは思えないが。

メイキング映像をYouTubeから参照可能。リンドベルイ氏が、ヘムケ氏についてもちらっと触れている。

2016/07/21

Xiaomi "Mi Portable Bluetooth Speaker"

シャオミ(Xiaomi)製のBluetoothスピーカーを買ってみた。

いままで使っていた、メトロノームを鳴らすための、安くて小型の、内蔵充電池で駆動するスピーカー(これとかこれ)を置き換える目的…だったのだが。

届いてみて箱から取り出して驚き。まず、見た目がとても上品。おそらく削りだしのアルミニウム製で、表面はつや消しのグレー、縁は鏡面仕上げとなっている。直径は5cm強、高さは2.5cm弱といったところか。上面の穴が音の出口だが、加工精度は高い。充電口と電源スイッチは底面に配置されている。インテリアとして考えても優秀なほどのデザインで、テーブルにちょこんと置いておくのにも違和感がない。

そして、音楽を再生してさらにびっくり。モノラル、しかもたった2Wの出力にも関わらず、意外すぎるほどの音量と、音の拡がりに驚かされた。無指向性…ではないはずだが、それに近いものを感じる。音質も癖がなく、このサイズからは信じられないほどの低音が出てくる。硬い木のテーブルの上に置くと、共鳴してさらにしっかりした音で鳴ってくれるのだ。メトロノームを増強する目的で買ったのだが、ちょっと勿体無い、と感じてしまったほど。寝室用スピーカーとか、ダイニングでちょっと鳴らす時とか、良いかもしれない。屋外で鳴らしたらどう聴こえるかな…さすがにパワー不足だろうか。

オモチャとして買い、メトロノーム用に雑に使い倒すことを考えていたのだが、意外すぎるほどのデザインと機能性。ちょっとした贈り物にも適しているかもしれない、と思うほど。

Banggood.comというサイトから購入した(→このページ)。現在のところ、普段の価格に比べて半額で売られており、日本円にしておよそ1400円くらいで意外と安いのも、購入に至った理由だ。香港かどこかからの発送で、送料が無料というのも凄い(到着まで非常に時間がかかる上、梱包が超適当だが)。

縁を拡大。遠目にはわからないのだが、拡大するとしっかり鏡面加工されているのがわかる。

2016/07/20

Hyppolite Poimboeuf氏について少し…

マルセル・ミュール Marcel Mule氏がギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団在籍中に結成したギャルド・レピュブリケーヌサクソフォン四重奏団 Quatuor de saxophones Garde Republicaineは、以下のメンバーで成り立っていた。

Marcel MULE, ssax
René CHALIGNÉ, asax
Hippolyte POIMBOEUF, tsax
Georges CHAUVET, basx

ミュール氏はもちろん、バリトンのショーヴェ氏はその後も同四重奏団での活動を続けていたため、録音でも長きに渡って音を聴くことができ、また経歴としても分かる部分がそれなりに多いのだが、内声の2名の経歴がほとんどわからないのだ。特に、一度見たら忘れない風貌の(ギィ・ラクール氏にしろ、ジョルジュ・シャロン氏にしろ、なぜミュールのカルテットのテナー奏者には一度見たら忘れない方が多いのか)、テナーのイポリット・ポワムブフ Hippolyte POIMBOEUF氏について、少し調べてみたところ、面白い記録を見つけた。

エイトル・ヴィラ=ロボス Heitor Villa-Lobosの作品に、「Choros No.3 [Male Choir/Cl/Asx/Bs/Ob/3 Hn/Trb]」という作品があるのだが、その世界初録音(1927年)でアルト・サクソフォンパートを担当したようなのだ。以下がクレジット。インターネット上を始め、幾つかの箇所でこの情報を目にすることができる。このディスクは、グラモフォンから発売され、Disque Gramophone GW-914という型番がついている。おそらく商用流通したものに間違いはなく、もし未だに現存するならぜひ聴いてみたいものだ。

Louis Cahuzac (clarinet)
Hippolyte Poimboeuf (alto saxophone)
Gustave Dhérin (bassoon)
Edmond Entraigue, Jean-Lazare Pénable, and Mr. Marquette (horns)
Jules Dervaux (trombone)
Robert Siohan (conductor)

ちなみに、他にポワムブフ氏についての情報を探したのだが、「ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団にテナー奏者として在籍していた」「ギャルド・レピュブリケーヌ・サクソフォン四重奏団のメンバーとして1928-1932年の間に活動した」以外の情報をまっっったく見つけることができない。どのようなキャリアを経てギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団に入団し、その後はどのような活動を展開したのか。とても気になっている。

2016/07/18

タージ・エキゾティカ・リゾート&スパ・モルディブ滞在記

新婚旅行で、インド&スリランカの南西、インド洋に浮かぶモルディブ共和国の"タージ・エキゾティカ・リゾート&スパ"にて、2016/4/12-16の5日間滞在した。とても楽しく、ひたすらリラックスできた、忘れ得ない旅となった。少し長くなるが、旅行記を残しておく。

羽田空港22:50発のシンガポール航空便に搭乗し、シンガポールのチャンギ空港へ。機材はボーイング777-300。およそ7時間のフライト中は、ほとんど寝ることができなかった(以前のヨーロッパ行きの際もそうだったのだが、飛行機の中で寝るのはどうも苦手…)。機内で夕食をとったのち、本を読んでいると、シンガポール航空の新婚旅行者向けのサプライズで、ケーキとシャンパンのサービスが!どちらも大変美味しくいただいた。

チャンギ空港に到着すると、夜明け前にも関わらず、まるで日本の夏のような高温多湿の気候。到着ロビーで1時間ほど仮眠を取ったあと、妻の知り合いの方とともに朝食をとった。チャンギ空港からモルディブの首都マーレへは、同じくシンガポール航空便、ボーイング777-200で4時間ほどのフライト。出発直前にスコールに見舞われ、出発が30分ほど遅れた。機内は搭乗率50%くらいだったか、意外と空いているなあと思った。

マーレに到着すると、窓から目に飛び込んできたのはエメラルドグリーンの海!これまでの人生で見たことがないような美しい色だった。飛行機から降り、肌を刺す日差しは強いが、意外と暑くない。モルディブは、数百?の環礁(島)が集まって形成された国である。そのうち200ほどの環礁に、それぞれリゾートホテルが建設されている。ひとつの環礁にはそのリゾートホテルしか存在せず、マーレから先は移動はホテル任せ…となる。ということで、空港からは、ホテルのスタッフが操縦するスピードボートでタージ・エキゾティカへと移動した。

マーレから南の方向へ。15分ほどのスピードボートでの移動は、青く濃い海の上を、滑るような快速で移動…と思いきや、環礁に近づくと、とたんに海が明るいエメラルドグリーンに変化したのだった。海の底まで見通せるような透き通った色合い、この世界にこんな色があるのか、というほどのもの。

島の桟橋に到着すると、タージ・エキゾティカのスタッフが出迎えてくれた。そのまま、日本人スタッフのYUKIさんが運転するバギー(スタッフが運転する島の移動手段)に揺られて、直接、滞在先の水上コテージまで案内されたのだった。部屋のローテーブルには、フルーツと、毎日サーブされるボトル入りの水、新婚旅行者向けにケーキとココナッツジュースが並べられ、ソファに座りながらリゾート内施設や注意事項等の説明を受け、チェックイン手続きを行った。レセプションにも寄らず、荷物は預けっぱなしで部屋まで移動して、部屋でチェックイン手続きだなんて、「ここはディズニーランドか!」と思ってしまうような段取りの完璧さで、のっけから驚いてしまった。

宿泊したコテージは、島から延びた桟橋に造られたDelux Villa with Poolという部屋。エントランスには、2つのクローゼット、金庫、衣装ケース。主寝室には、キングサイズのベッド(ベッドやソファの本体はシンガポールのPLOH製、シーツはイタリアのFRETTE製)、2つの鏡付きサイドテーブル、ローテーブルとソファ、小型テーブルと椅子、テレビ(SONY製)、電気スタンド、冷蔵庫、ケトル、各国のプラグ対応のアダプタ、無料のWifi(速度は遅いが、メールやLINE等であれば余裕)等々…窓からはデッキ越しに海を望むことができる。窓の日除けは遮光機能もある。浴室には、2つの鏡&洗面ボウル、大きなTOTO製の浴槽、お手洗いもTOTO製、ウオシュレット付き。浴室とデッキはドアで繋がっており、接続部分には海水を落とすためのシャワーが備え付けられている。デッキには、常に水が循環しているプール、3組のデッキチェアと1つのテーブル、海に降りるためのハシゴも。屋根は茅葺き。内装・外装は木製を基調としており、とても落ち着きがある。

さらに驚くのは充実したアメニティの数々。石鹸、ボディソープ、シャンプー、コンディショナー、シェーバー、コーム、マウスウォッシュ等、基本的にすべてイギリスのMolton Brown製で統一されている。バスローブはシンガポールのPLOH製(バスローブの概念が覆るフワフワ感)、スリッパとサンダルも用意されている。フェイスタオルは2人分2組、ハンドタオルが2人分2組、バスタオルは2人分2組+外のデッキチェア用2人分1組がそれぞれ1日2回(!)のベッドメイキングごとにすべて取り替えられる。過剰とも思えるサービスに、凄いと感じるのを通り越して怖くなってしまったほどだ。

さらに2点ほど挙げると…マーレの空港到着時にメガネを壊してしまったのだが、スタッフに預けた所、まず現地のテクニカルスタッフで修理可能か調べてくれ、それでも修理不可能であることがわかると、マーレへの輸送による修理を提案された。「いやいやそこまでやらなくても」と思い、結局強力な接着剤を借りることで何とかした。もう1点、妻宛てに花束を用意してもらったのだが、想像以上の大きさとズッシリ感で、贈ったこちらもびっくりしたのだった。とにかく、何をお願いしても、こちらの期待を上回るサービス。タージ・エキゾティカのホスピタリティの高さを感じた。また、もし滞在中に何か追加料金が発生する場合は、その場で確認書に部屋番号とサインを書けばOK。つまり、カードを持ち歩く必要がなく、手ぶらで過ごせるということで、そんなところも非日常を演出するのに一役買っていたと思う。

荷物を整理し、まずはデッキでのんびり。フルーツを食べながら、青い空とエメラルドグリーンの海を眺める。時間の進行は外界と断絶され、時計が意味を成さなくなる。気温は30度そこそこ。湿度も高いが、弱い海風が常に吹いており、日陰にいれば不快に感じることはまずない。1時間ほど過ごしていただろうか、灰色の雲が広がり、スコールが襲ってきた。わずか20分ほどの強い雨ののち、気温が少し下がって再び晴れ間が見えてくる。何をするわけでもなく、空と海の移ろいをずっと眺めていた。水上コテージを出ると、なんと虹が!

この後、夕暮れの時間に島を散策してみた。共用のメイン・プール(インフィニティ・プールという名前は、プールと海辺がつながっていることから名付けられたのだろう)では、なんと鳥が水浴びをしている。少し進むと、白い砂浜が…夕日の時間帯であることも相まって、絶妙なグラデーションが眼前に拡がり、しばらく立ち尽くしてしまった。さらに日が落ちると、桟橋始め、島の各所がオレンジとブルーにライトアップされ、神秘的そのものといった雰囲気に包まれた。

夕食は19:00から。散策ののち、少し時間があったので、レセプションで休んでいると、なんとYUKIさんがグァバジュースをサーブしてくれた。これがまたしぼりたてで甘く美味しかった。

夕食は、24 Degreesというレストランでとった。朝食夕食付きのプランだったのだが、夕食についてはアラカルトで、好きな前菜とメインを1皿ずつ選ぶことができる。1皿ずつとはいえ、相当な量があり、お腹いっぱいになってしまう。飲物は別料金(日本の2倍~3倍位の値段で、リゾート価格相応といったところ。例えばコロナビールは10USD)。そして、肝心の味。タージ・グループの食事は、インド資本ということもあり、食事が大変美味しいと評判を聞いていたのだが、期待以上とはこのことだ。この日、私は何とかというクリーミーなスープと、バターチキンカレーを頼んだのだが、食べたことのない美味しさ、しかも日本人の口にも合うようなもので、またまた驚きと幸せを感じたのだった。食事中のホールスタッフのささやかな気遣いも、言うことなし。料理は、インド系のみならず、欧米系、アジア系と、幅広くラインナップされており、目移りしてしまう。

お腹いっぱい満たされた気持ちで、水上コテージに戻ろうとすると、水上コテージの桟橋がやはりオレンジとブルーにライトアップされている。非日常の風景とはこのことだ。この日は、疲れもあって、早々に寝入ってしまった。

時差ボケのせいか、それとも早く寝たせいか、朝4:00頃にふと目が覚める。どんな星空が見えるかなとデッキに出てみると、まさかの天の川が空いっぱいに広がっていた。天の川を天の川として認識しながら見たのは人生初だったかもしれない。本で見たとおり、いや、それ以上に、あまりに美しく、ちょっと涙ぐんでしまうほどだった。日本では見えないような星もたくさん。

再び寝入るつもりが、なかなか寝付けず…。この旅行用に調達したXiaomi Yiというアクションカメラを、水上コテージの入口付近に仕掛けて、タイムラプス動画の撮影に挑戦。空が白んで朝日が上ってくる様子を克明に捉えることができた(→これ)。ようやく起きる時間。海に飛び込み、顔を洗ってスッキリし、朝ごはんに出かけようとするとはらはらと小雨が。いったん水上コテージに戻り、ぼんやりと雨が止むのを待つ(時間を気にする必要はないのだ)。雨が止んだのを見計らって、呼んだバギーで朝食会場の24 Degreesへ向かった。

朝食付きのプランは、なんとメニューにあるものならオーダーし放題。まずパンとフルーツがサーブされるのだが、パンは軽く焼いて出してくれるし、フルーツも上品な味・量。どちらもとても美味しい。フレッシュジュースは、搾りたて。メニューには東西の料理が満遍なく揃う。頼んだのは、エッグ・ベネディクト、フレンチトースト、なんとかというミルク粥、インドの卵焼き。ここまででもお腹いっぱいになったが、さらにハムとパンケーキを頼み、どれもとにかく美味しいものばかりで、すべて平らげてしまった。昼食が食べたくなるのかなと思ったのだが、朝食でこれだけの量を、これだけゆっくり食べると、もう昼食を食べようという気が起きなくなってしまう。

朝食後は、ダイビングセンターへ。シュノーケリングのセットを無料で貸し出してくれるのだ。砂浜を歩きながら水上コテージに戻ろうとすると、いろいろな場所にパラソルとデッキチェアが置かれているのが目に入った。デッキチェアには、クリーニング済みのタオルが置かれ、ボックス内にはなんと冷えたミネラルウォーターのボトルが入っており、自由に飲んでOK。至れり尽くせり。

コテージへと戻り、デッキのプールでひとしきり遊ぶ。また、海へと降りて、レンタルした防水カメラで水中の撮影にもトライしてみた。海の中は、特に岩場やサンゴ礁の近くには魚がたくさん泳いでおり、苦労しながらも多くの写真を撮ることができた。シャワーを浴びて、昼寝。この辺りから、頭が緩みっぱなし。

夕暮れが近くなってきたので、Equator Barというビーチ沿いのバーへ向かってみた。飲み物をオーダーすると、一緒にピーナツとカレー味の不思議なナッツがサーブされる、この不思議ナッツ、大変美味しかった。Xiaomi Yiのタイムラプス動画をセットし、夕日を眺めるが、出てくるのは「キレイ」という言葉、ただそれだけ。時間も気にせず、ただひたすらに空と海を眺める、贅沢な時間だった。

夕食はDeep Endという、海上に建てられた予約制のレストランで食べた。おすすめされたのは大きなロブスター。大きな…ってどのくらいか、わくわくしながら待っていると、想像の1.5倍くらいあるような超巨大ロブスターがサーブされた。半分に割られ、片方はクリーム味、もう片方は塩味が付けられている。身は、味がしっかりしていて、調度良い硬さ。これも驚きの美味しさ。きっと新鮮な食材を使っているのだと思うが、それにしても、こんな離島でどのように食材管理しているのか、不思議だ。デザートのチョコ一人分を、部屋で食べるために包んでもらうと、なぜか二人分包まれていて、またまた驚き。

再び朝の4:30に起きて、天の川の写真撮影にトライ。デッキに三脚を立て、フィッシュアイレンズを使って、30秒間の露光と高感度ISO、そして注意深いピント合わせで、教科書で見たような星空がくっきりと映し出された。また、コテージ外では、コテージ群と天の川をフレーム内に収めた写真を撮ることができた。

朝、少し早く起きると、ほとんど風を感じない。波もとても穏やか。海へ降りると、たくさんの魚が泳いでおり、ひとしきりXiaomi Yiで撮影を楽しんだ。このカメラ、水中でもとても綺麗に撮ることができ、なかなかの活躍ぶりだ(この写真は水上から一眼レフで撮影したもの)。

この日も24 Degreesでゆっくりと朝食をとった。毎回サーブされるパンとフルーツ、それにアメリカ風のオムレツ、ベトナムテイストの豆腐の和え物、中華まん、卵のカレー炒めとパン、フライドオニオンが乗った粥、等々。何を頼んでも、一切ハズレ無し。ハズレどころか、とにかく美味。

朝食を終えて、浜辺を散歩しながらコテージに戻ろうとするが、木陰のデッキチェアでついつい惰眠を貪る。そよ風と、美しい景色。ここまでリラックスできたことが、これまでの人生であっただろうか。身体が芯から溶けて、景色と同化していくような、そんな感覚だった。

部屋に戻って、部屋から海へと続くハシゴを使い、海へ。コテージ近くの岩場やサンゴ礁まで泳いでいって、Xiaomi Yiでひたすらムービー撮影を楽しんだ。また、自撮り棒の先にXiaomi Yiを付けて、コテージ近くに寄ってきた魚を撮影した。

少し部屋で昼寝したのち、14:00からスパ"Jiva"へ。オイルマッサージを受けるのは初めてだったが、至福の時間だった。こちらに来て良くなっていた血行が、さらに良くなった感じ。2時間後、オフロでオイルを洗い流してリフレッシュ。

夕方からは、乗り合いのクルーズへ。海は凪いでおり、場所によってはまるでシルクのような、見たことがないようななめらかな海面が広がっている。そんな中を、船がスイスイと進んでいく。カメラを抱えて、海の様子や夕日を撮りまくった。しばらく行くと、なんと海中に何匹ものイルカが!(水族館でなく)海でイルカを見たのは初めてだ。さらに、操舵士が大きな円を描くように船を走らせ、波を立てると、いるかがその波に反応してジャンプ。波と戯れて遊んでいたのかな。夕日をバックにイルカがジャンプ、などという、旅番組でしか見たことのないようなものを目の当たりにした。ひとしきりイルカを眺め、沈みゆく夕日を眺めながら帰投。

さすがにちょっと疲れて、部屋でひとやすみ。その後、24 Degreesで夕食へと向かった。前菜には海鮮系の寿司、エビのてんぷら、イクラの何か、小麦粉を焼いた何か、等。メインは、リゾットとバターチキンカレー。ビール(さすがにちょっと高いが、まあこの時だけ…)もオーダーし、夜風に吹かれながら食事を楽しんだ。真っ暗な中に食事のための灯りが点っているのだが、不思議なことに蚊や小虫がほとんど寄ってこない。部屋の注意書きに書いてあったのだが、人体に無害な天然素材の忌避剤だか殺虫剤だかを使って、虫が寄り付くのを避けているのだそうだ。さすがリゾート、そこまでやるのか…。

お腹いっぱい満たされて、コテージへと戻る。水上コテージの桟橋下、海中のブルーライトアップの中には、魚影がいくつも見えた。

朝、この日も良い天気。朝から暖かく、朝食前に海へと降りてみた。水中には中型魚から小魚までたくさんの魚が集まっており、泳ぎながらカメラで動画を撮影し、ひとしきり遊ぶ。近くの岩場に魚がいそうな波が立っており、泳いで向かってみると、白い縞模様の魚がたくさん泳いでいた。

朝食は、ビビンバ、カレー味のピラフ(インディカ米)、ホワイトオムレツ、キッシュ、ワッフル、ハム&サラミ盛り合わせ、そしていつものパンの盛り合わせとフレッシュジュース。どれも出来立てで、美味。この日も、1時間半ほどかけてゆっくりと食べた。もはや頭の回転がモルディブ仕様になってしまい、時計を見ることも少なくなり、余計なことを考えることもなくなり(ただし、あと1日半しか滞在できない、というタイムリミットは頭の隅からじわじわと)、休暇後、仕事復帰ができるかどうかが心配になってきた。

朝食後、ハネムーン特典のフォトセッションがあった。若いカメラマン(カメラはNikon D7200だったか)の指示で、ハンモックの上や浜辺、桟橋、ウェディングパビリオンで撮影。言われるがままポーズを撮って、さらに1ロケーションに数枚、という程度、どんな写真が撮れるのかちょっと心配にもなったのだが、良い写真ばかりで驚いた。さすがプロ、と唸ってしまった。どのロケーションも明るく、デジタルカメラには良い環境…とはいうものの、さすがである。日差しの下で何枚も写真を撮るのはさすがに大変だが、面白さのほうが先立った(写真はあまり関係ない1枚)。

フォトセッションの後は、浜辺でひとしきりシュノーケリング。岩場やサンゴの近くには、色とりどりの魚が集まっている。浅く綺麗な色の海で、日差しを浴びながら…。水中カメラは2台持って行ったのだが、私と妻それぞれが1台ずつを持ち、お互いそれぞれを撮影することができたのだった。

午後はフォトセッションで撮った写真の選択へ。プレイルームという、クーラーが効いた涼しい部屋で、テレビに映し出された写真を観ながら、ゆったりと選ぶ。USBフラッシュメモリに入れて持ち帰る写真を選び、1枚はプリントしてくれる、というサービスも付いていた。続いて24 Degreesに赴き、名物の"タージバーガー"を味わう。とにかく大きなバーガーで、2人でちょうど良いくらい。もちろん味は最高で、付け合せのフリットも美味しかった。そして、ビールにもとても合うこと!タージ・エキゾティカに泊まった方のレビューに必ずと言って良いほど登場するこのタージバーガー、確かに強烈な印象を残した。

一度コテージへ戻り、夕刻までグダグダ。写真とUSBフラッシュメモリを受け取りに一人でプレイルームへ行き、帰ろうとすると、まさに日が沈もうとする時刻。慌ててコテージへ戻ると、ちょうど妻が出てきた。インフィニティ・プール脇へと移動して、人をダメにするクッションに座りながら、沈む太陽を眺めた。連日、夕刻には雲がかかっていたため、「水平線に沈む太陽」を見たのは、この日が初めて。掌に太陽が載っているような写真を撮ることができた。水面に映る夕日の光と、太陽そのものの美しさの共演が、なんとも形容しがたい景色だった。

夕食は、ハネムーン特典のコース。前菜と魚/肉、そしてデザートのチョコムースとチョコケーキ。とっても美味しいのだが、ちょっとボリューム感が過ぎてる…か。デザートが出てくる頃には、お腹いっぱいになってしまった。ところで、ここで出された赤ぶどうのスパークリングジュースが大変美味しく、日本に戻ってから銘柄を調べたのだが、妙に安くて拍子抜け。まあ、美味しいものは美味しいのだから良いのだけど(笑)。他にもいろいろなコースを選べたのだが、一つしか選べないのは悔しくもあり、だからこその特別感もあり、かな。ゆっくり歩いて部屋へと戻り、お風呂でさっぱりして床についた。

朝。ついに出発の日。とにかく名残惜しいが、今日の昼にはタージ・エキゾティカを発たなければならない。部屋から見える青い海と空、美しい海に泳ぐ魚たち、充実したホテルの設備やスタッフの対応、美味しい料理、何よりもここでしか味わえない空気感は、一生に一度のハネムーンに相応しいものだ。名残惜しさから、水上コテージのテラスに出て魚たちが来ないか待つ。しばらく待っていると、角付きのブサイクな顔をした魚が寄ってきた。このコテージから何度も見た魚だ。他の魚たちも寄ってきて、しばし名残惜しみながら魚と戯れた。

朝食は、相変わらずの美味。ひとり3皿頼んで平らげる。メニューはこの日までにほぼコンプリートしてしまった。最後にはお好み焼きと味噌汁のセットまで頼む有様(意外なほどにこれまた美味しい)。ちなみに、毎回頼んだのはサラミと生ハムのセット。ふわふわの食感、味もしっかりついており、本当に飽きないのだ。

茅葺屋根の下でゆっくりと食事を楽しんでいると、スタッフが葉っぱで魚や鳥を形作って妻に渡してくれた。なんて器用な、すてきなサービスだ。また、隣のテーブルの親子連れの子供が、自由に周りを飛び回っていて、ちょっかいを出してくるものだからついついこちらも反応してしまうのだった。2時間ほどかけて、そんなまったりとした時間を楽しんだ。

部屋に戻って荷造り。手がゆっくりとしか進まないほど名残惜しい!バギーでレセプションへと送ってもらい、精算。ゲストノートに妻が書き込み。最後にスタッフの方からアルバムを頂戴し(モルジブ仕様の素敵デザイン)、スピードボートへ。YUKIさんほかスタッフに見送られ、あっという間に島から離れてしまった。

マーレに着くと、空港の喧騒から、一気に現実に戻ってきた感じを受ける。おみやげを少し選んで、ラウンジではフルーツなども食べることができ、ゆったりと過ごせた。少し待つとあっという間に搭乗時間。離陸の瞬間はあっという間で、旅の終わりはあっけなく、寂しいものである。12:50マーレ発のシンガポール行きで、4~5時間のフライトだった。シンガポールのチャンギ空港では、ターミナル移動が少々大変だったが、あっさり乗り継ぎ。さらに7時間ほどのフライト。4/17の6:35に羽田空港へと到着した。

これまでの人生で経験したことのないような、まさに夢のような数日間だった。この世に、こんなに素晴らしい場所があるなんて…と、一日を終えるたびに感じ入り、そしてこの日々が終わってほしくないと願うような、そんな稀有な体験ができた旅だった。

言わずもがな、海外を旅する目的には、様々なものがある。歴史上重要な史跡を巡ったり、芸術に触れたり、自然を体感したり、人と触れ合ったり、演奏したり。今回の旅は、そういった何か自分から何かを探し求め、理解して、咀嚼する、というものとは全く正反対で、ただただ優雅な時間を享受する、というだけのもので、他人に何かを自慢できたり、といったものではないのだが、人生に一度の新婚旅行、こういった過ごし方も良いなと思ったのだった。

2016/07/17

カノラータ・オーケストラ第15回定期演奏会

河口湖に昨日より1泊し、明けて本日は河口湖から鈍行列車で岡谷へ。PCを開いて文字書きをしつつ過ごしていたが、4時間くらいかかったかな。さすがに腰が痛くなった。

【カノラータ・オーケストラ第15回定期演奏会】
出演:カノラータ・オーケストラ、鈴木竜哉(指揮)
日時:2016年7月17日(日曜)14:00開演
会場:カノラホール・大ホール(長野県岡谷市)
プログラム:
C.M.v.ウェーバー - 歌劇「オベロン」序曲
F.シューベルト - 交響曲第2番
J.ブラームス - 交響曲第1番

岡谷のカノラホールを拠点に活動するアマチュアのオーケストラ。妹が乗っているのと、数年前より鈴木先生(大学時代にお世話になった)が指揮者に就任した、ということで、聴きに行きたいと思っていたのだ。人数は都内のアマオケと比べると多くはないのだが、広いホールをしっかり鳴らしていた。

交響曲を2曲とはなかなかヘヴィなプログラムだが、特にブラームスが素晴らしかった、というか、ブラームスへの気合いの入れ方が他の2曲と比べて別格だったと思う。特に第1楽章の集中力、第3楽章から第4楽章にかけてのクライマックスへの持って行き方、構成感には興奮させられた。奏者のパワーのみならず、鈴木先生の手腕によるところも大きいだろう。独奏によって、安定度にムラがある(もちろん上手い方は上手い)のは、アマチュアオケあるある、かなあ。オーケストラの中の独奏は難しいですね…やったことないけど。

それにしても、久々のカノラホールだったなあ。関東近郊以外でも、こうやって積極的に活動している団体を聴き、様々に思い巡らせることがあったのだった。

2016/07/15

Trio "Airs"の演奏会

国外で学んだ奏者や、国外生まれの奏者の演奏を聴くのは面白い。今日の演奏会中のトークでも少し話題に上っていたが、普段我々が触れている、日本の文化や言語とは、全く違ったバックグラウンドは、演奏に如実に表出するものだと思うのだ。今年に入ってからヴァンサン・ダヴィッド氏、ミーハ・ロギーナ氏、ジュリアン・プティ氏、ニキータ・ズィミン氏など、国外奏者を聴く機会に幸運にも多く恵まれているが、そういった中で耳を柔軟にしていくことも、聴き手としては必要なことだろう。

【音のパレット番外編:若手音楽家シリーズVol.1 フランスの風に吹かれて Trio "Airs"】
出演:小澤瑠衣、ロマン・フルニエ(以上sax)、宮野志織(pf)
日時:2016年7月15日(金曜)19:00開演
会場:横浜市磯子区民文化センター杉田劇場 コスモス
プログラム:
D.ミヨー - スカラムーシュ(小澤、宮野)
C.フランク - ヴァイオリン・ソナタより第1,2楽章(フルニエ、宮野)
P.ヒンデミット - コンチェルトシュトゥック(小澤、フルニエ)
オムニバス - 日本の歌メドレー(小澤、フルニエ)
C.ドビュッシー - 喜びの島(宮野)
J.イベール - 2つの間奏曲(小澤、フルニエ、宮野)
J.ドゥメルスマン - ファンタジー・コンチェルタント(小澤、フルニエ、宮野)
C.ケックラン - ジーン・ハーロウの墓碑銘(小澤、フルニエ、宮野)(アンコール)

独奏で演奏されたミヨー、フランクは、上述したような特徴が特に表れていた。会場がそこまで大きくないせいか、奏者の息遣いや繊細なコントロールが良く聴こえてくる。なかでも、聴いて(観て)面白かったのは、サクソフォンのみで演奏されたヒンデミットと日本の童謡メドレー。 ここまで濃密なアンサンブルはちょっと久々に聴いたかもしれないな(笑)。取り巻きがいない(ピアノがいない)、いち奏者といち奏者の純粋な組み合わせは、その人間関係が演奏にもやはりにじみ出るようだ、と感じ入ったのだった。

また、フルート、オーボエ、ピアノのために書かれたというドゥメルスマンの作品が、いかにもヴィルトゥオーゾ・スタイル、という趣で聴き応えがあった。瑠衣さんもロマン氏もすらすらとフラジオまで駆け上り、難度の高いフレーズを連発していた。アンコールは、フルートパートをソプラノサクソフォンに置き換えた「ジーン・ハーロウの墓碑銘」。

客層は、サクソフォン関係者はあまりおらず、地元の方が多かったかな。こういうときの客席の反応って、普段自分自身が面白いと思う箇所から少し外れたところにあるのだから、興味深い。そこにツボがあるのか!と驚くことしばしば。休憩なし留学エピソードに関するトークをは挟みながらのコンサートだったが、こういったスタイルもまた良さがあるものだ。

2016/07/12

演奏会情報:Trio Airs演奏会

小澤瑠衣さんより演奏会をご案内頂いた。共演は、サクソフォンのロマン・フルニエ Romain FOURNIER氏と、ピアノの宮野志織氏。

小澤瑠衣さんの名前はいまさら改めて紹介するまでもないが、フルニエ氏の名前はまだあまり知られていないので、簡単に書いておこう。1993年生まれ(若い!)のフランス出身のサクソフォン奏者。ブーローニュ音楽院、セルジー・ポントワーズ音楽院を経て、パリ国立高等音楽院へ入学。パリ管やシャトレ座管等へ呼ばれているほか、Aeolus国際コンクール等で入賞している。来日は昨年に引き続き、2度目となる。

今回、私は杉田劇場の演奏会に行く予定。ざっと見た感じ、プログラムはスタンダードそのもの、という印象だが、若い感性でそれらの作品がどのように料理されるのか、楽しみだ。

【フランスの風に吹かれて~Trio "Airs"~(杉田劇場主催公演)】
日時:2016年7月15日(金)19:00開演
会場:横浜市磯子区民センター杉田劇場コスモス
料金:一般2500円(全席自由)
プログラム:
C.フランク - ソナタ第1,2楽章
D.ミヨー - スカラムーシュ
オムニバス - 日本の歌メドレー 他

【フランスの風に吹かれて~Trio "Airs"~(汐留ホール木曜日の調べ)】
日時:2016年7月21日(木)19:00開演
料金:一般2500円
プログラム:
C.ケックラン - ジーン・ハーロウの墓標
C.フランク - ソナタ第1,2楽章
D.べダール - ファンタジー
C.ドビュッシー - 喜びの島 他

【フランスの風に吹かれて~Trio "Airs"~】
日時:2016年7月24日(日)16:00開演
会場:アクタス ノナカ・アンナホール
料金:一般2000円 高校生以下1500円
プログラム:
C.フランク - ソナタ第1,2楽章
A.ハチャトゥリアン - ヴァイオリン・ソナタ第1楽章
J.ドゥメルスマン - 協奏的幻想曲作品36
P.ヒンデミット - コンチェルトシュテュック
J.イベール - 2つの間奏曲 他

2016/07/10

Fitkin Project@Guildhall School of Music & Drama

グラハム・フィトキン Graham Fitkin氏は、イギリスの現代作曲家。ミニマル・ミュージックの手法を拡張したポスト・ミニマル的な作風が特徴。ジャズ等に影響を受けた、非常に厚みのある和声と、推進力のあるリズム。サクソフォンにも四重奏のための「STUB」や、ソプラノサクソフォンと2台ピアノのための「Hard Fairy」等を提供している。

もう3年前だが、イギリスのギルドホール音楽院で「Fitkin Project」なる、フィトキン氏の個展が開かれたそうだ。すべてサクソフォンを含む編成による演奏で、「ARACT」「Hard Fairy」「Sciosophy」「Jim & Pam & Pam & Jim」「Passing」「CUD」といった作品が演奏されたようだ。その、ダイジェスト演奏の模様がYouTubeにアップされている。演奏クオリティは少々厳しい部分もあるのだが(フィトキン氏の作品は、聴いたら心地よいのだが演奏するとめっぽう難しい)、個人的に非常に魅力的なコンサートで、この場にいたかったなあと思わせる内容だ。

デアクライス・ブラスオルケスター 第7回定期演奏会

雨の降りしきるなか、デアクライス・ブラスオルケスターの定期演奏会を聴きに伺った。文京シビックホールは、以前プリモアンサンブル東京の演奏会を聴いて以来。客席の椅子の角度が不思議ですよね(笑)。

【デアクライス・ブラスオルケスター 第7回定期演奏会】
出演:佐川聖二(指揮)、デアクライス・ブラスオルケスター
日時:2016年7月9日(土)14:00開演
会場:文京シビックホール大ホール
プログラム:
酒井格 - たなばた
矢藤学 - マーチ・スカイブルー・ドリーム
樽屋雅徳 - 白磁の月の輝宮夜
G.プッチーニ/後藤洋 - 歌劇「蝶々夫人」より
S.バーバー/C.カスター - アダージョ
O.レスピーギ/木村吉宏 - バレエ組曲「シバの女王ベルキス」
真島俊夫 - シーガル(クラリネット:佐川聖二)(アンコール)
真島俊夫 - 五月の風(アンコール)

この団体の演奏は、佐川聖二氏の還暦記念コンサートにて聴いたことがあった。当時、まだ結成1年足らずだったはずだが、よく練られたサウンドに感銘を受けた覚えがある。その印象は、今回の演奏会においても変わること無く、さらに安定度や地力の高さに印象的を受けた。木管、金管、打楽器ととにかく基礎的な鳴りやアタックについて隙がなく、とにかく「上手い」と思えるバンドだ。とても広いホールだが、しっかりと響きを会場に満たしている。

佐川氏の的確なバトン。さすが吹奏楽界を代表する指揮者のひとりだ。じっくり振り方を観察しても、特別なことをやっているようには見えないのだが、瞬間瞬間のバランスの作り方が絶妙。ポリフォニックに織りなされる各フレーズの、特に裏で鳴っている対旋律を前面に押し出すような作り方が心地良い。その対旋律の、フレーズの持続性を重視しているようにも聴こえる。

特に吹奏楽コンクール向けに取り組んでいると思われる矢藤作品と樽屋作品、そしてメインのレスピーギ作品は、完成度の高さが伝わってきた。「白磁の月の輝宮夜」は、断片的なフレーズが徐々に集積されて、クライマックスを形作る、とにかく演奏者側にとっては演奏に難儀する作品だと思うのだが、バンドの性能もあって、高い完成度に仕上がっていた。「シバの女王ベルキス」は、輝かしい音が響いたパワー系の部分はもちろん、繊細なソロなども聴き応えがあり、メインに相応しい内容だった。ところで、フルートが樽屋&レスピーギ作品で何度かソロを取っていたが、安定的かつ規範となるような演奏で、唸らされたのだった。

アンコールは真島俊夫氏追悼。佐川氏がクラリネットを持ってサクソフォン協奏曲「Birds」から「シーガル」を演奏するというのには驚かされたが、感動的というか、ちょっと感じたことのない心の動かされ方をした。ここぞ、という箇所で織り込まれるヴィブラートまでをも交え…クラリネットって魅力的だ。「五月の風」も、久々に聴いたが良い作品だ。

ということで、大満足の演奏会。願わくば、これだけ質の高い演奏ができるのであれば、取り上げる作品についてもさらなるコダワリが欲しいな。吹奏楽は久々に聴いたが、やはり作品や編曲によって良し悪しがあるというか…いやまあどの世界でもそうなのだが。

いやー、でも吹奏楽、良いですね。これだけ良い演奏を聴くと、何だか自分も吹きたくなってしまうなあ。

2016/07/04

アポロSQ plays ベネット「四重奏曲」 on YouTube

イギリスのアポロサクソフォン四重奏団は、これまでに様々な作品を委嘱/献呈&初演しているが、その中でも重要な作品のひとつとして、リチャード・ロドニー・ベネット Richard Rodney Bennett「四重奏曲」がある。同団体のアルバム「worksforus」に収録されているほか、アポロ四重奏団以外にも取り上げる団体があり、日本で聴く機会も増えてきている。

初演者であるアポロ四重奏団が、昨年のRNCM Saxophone Dayで、同作品を演奏した動画がYouTubeにアップロードされている。このキレキレ感と遠慮のない音色、そしてダイナミックな音楽作りを聴いて、アポロ四重奏団を初めて聴いた時(ナイマン「ソングス・フォー・トニー」だった)の衝撃を思い出した。

ベネット「四重奏曲」第1楽章


彼らのYouTubeアカウントには、他の楽章や、他の作品の演奏もアップされている。

2016/07/02

松下洋サクソフォンリサイタルVol.5~ニキータ・ズィミン氏を迎えて~

JML1位とディナン1位の揃い踏み。お互いまだ20代とはいえ、それぞれが完成した世界観を持った、卓越した奏者である。その2名が同じステージに乗るのだから、凄くならないはずがない。

【松下洋サクソフォンリサイタルVol.5
~世界のサクソフォニストより II~
第6回アドルフ・サックス国際コンクール優勝者ニキータ・ズィミン氏を迎えて】
出演:松下洋、ニキータ・ズィミン Nikita Zimin(以上sax)、永井基慎(pf)
日時:2016年7月1日(金曜)19:00開演
会場:青葉台フィリアホール
プログラム:
B.セコーン - パズル・ソナタ
P.サラサーテ - ツィゴイネルワイゼン
旭井翔一 - ジャズ・ソナタ
A.ピアソラ - エスクァロ
A.ピアソラ - 悪魔のロマンス
F.プーランク - トリオ
P.ジュナン/旭井翔一 - ヴェニスの謝肉祭

松下くんは、セコーンの新作、そして旭井さんの名作を取り上げた。セコーンは、楽章ごとにやや取っ付きづらい部分も散見されるが、瞬間瞬間の響きや、聴衆をがっちり掴んで離さない響きの作り方が随所に見られる。特に、第2楽章の一部にはペンタトニック・スケールを利用した日本風なメロディまでも出現し、さらにサクソフォンのダーティな部分と美しい部分を上手に共存させている、佳作だと感じた。旭井さんの作品の面白さは、言わずもがな。特に第1楽章のすっきりとしたジャズ風の部分など、爽快そのものである。

いずれも松下くんのキャラクターにとてもマッチしており、大きな振れ幅を各所に見事に当てはめ、作品の魅力を存分に引き出していた。期待通り、いや、毎度のことながら"期待以上!"(期待以上、って言葉で言うのは簡単だが、実際それをステージで出して聴衆に届けるのって凄いことで、並大抵の努力と才能ではできないものだと思う)のステージだった。

ニキータ氏は、サラサーテとピアソラという、アレンジ物の演奏。内容は、何かをスペシャルにするといったことはない、至極まっとうな編曲…しかしそれはすなわち、ヴァイオリン作品etc.をそのまま、忠実にサクソフォンで再現せねばならない、ということである。激烈な技術と安定性が求められる。

YouTubeなどで彼の演奏を聴くと、ロシアらしい(師匠のマルガリータ・シャポシュニコワに影響を受けたような)、非常にダイナミックで爆音系の音、というイメージを持っていたのだが、一発目の音から驚いた。瞬間瞬間に表情やアタックを変えていく、繊細な音楽作りが耳に残った。隣りにいたけいとさんと話したのだが、コンクールはやはりコンクール仕様のセッティング、また、マイク乗りが良い倍音構造など、そういったところも関係しているのかもしれない。もちろん、繊細なだけではない。実に深みのあるしなやかな音色。曲作りにおける大胆な立ち振舞い、超絶技巧(と感じさせないほど鮮やか)、ステージマナーなど、多くの点で完成された素晴らしい奏者だと思った。いやー、ライヴで聴けて良かった。

最後の3曲は、松下くん、ニキータ氏のデュオ。ピアソラの美しい作品で、軽くジャブを打ち、プーランクへ。サクソフォンデュオで演奏されすぎ、というほど演奏されているプーランクだが、本日のような演奏を聴くと、まだまだサクソフォンでも開拓の余地がある作品だと感じる。若さゆえのスリリングさと、互いを尊敬しあう幸福感を併せ持つ、稀有な演奏となった。

旭井さんがオブリガードを書いたという「ヴェニスの謝肉祭」は、これはもう言葉にするのが意味を成さないほど。「つべこべ言わず聴いてみてくれ、凄いから!」と、そんな感想しか書けない。敢えて言うなら、2人同時K点越え100連発、といったところだろうか(笑)。

アンコールは、ローゼンブラットのロシア民謡を、これまた超絶アレンジで。全編通して、心からブラヴォーを送った、そんな演奏会であった。また聴きたいなあ。ブログが饒舌になってしまった。