JML1位とディナン1位の揃い踏み。お互いまだ20代とはいえ、それぞれが完成した世界観を持った、卓越した奏者である。その2名が同じステージに乗るのだから、凄くならないはずがない。
【松下洋サクソフォンリサイタルVol.5
~世界のサクソフォニストより II~
第6回アドルフ・サックス国際コンクール優勝者ニキータ・ズィミン氏を迎えて】
出演:松下洋、ニキータ・ズィミン Nikita Zimin(以上sax)、永井基慎(pf)
日時:2016年7月1日(金曜)19:00開演
会場:青葉台フィリアホール
プログラム:
B.セコーン - パズル・ソナタ
P.サラサーテ - ツィゴイネルワイゼン
旭井翔一 - ジャズ・ソナタ
A.ピアソラ - エスクァロ
A.ピアソラ - 悪魔のロマンス
F.プーランク - トリオ
P.ジュナン/旭井翔一 - ヴェニスの謝肉祭
松下くんは、セコーンの新作、そして旭井さんの名作を取り上げた。セコーンは、楽章ごとにやや取っ付きづらい部分も散見されるが、瞬間瞬間の響きや、聴衆をがっちり掴んで離さない響きの作り方が随所に見られる。特に、第2楽章の一部にはペンタトニック・スケールを利用した日本風なメロディまでも出現し、さらにサクソフォンのダーティな部分と美しい部分を上手に共存させている、佳作だと感じた。旭井さんの作品の面白さは、言わずもがな。特に第1楽章のすっきりとしたジャズ風の部分など、爽快そのものである。
いずれも松下くんのキャラクターにとてもマッチしており、大きな振れ幅を各所に見事に当てはめ、作品の魅力を存分に引き出していた。期待通り、いや、毎度のことながら"期待以上!"(期待以上、って言葉で言うのは簡単だが、実際それをステージで出して聴衆に届けるのって凄いことで、並大抵の努力と才能ではできないものだと思う)のステージだった。
ニキータ氏は、サラサーテとピアソラという、アレンジ物の演奏。内容は、何かをスペシャルにするといったことはない、至極まっとうな編曲…しかしそれはすなわち、ヴァイオリン作品etc.をそのまま、忠実にサクソフォンで再現せねばならない、ということである。激烈な技術と安定性が求められる。
YouTubeなどで彼の演奏を聴くと、ロシアらしい(師匠のマルガリータ・シャポシュニコワに影響を受けたような)、非常にダイナミックで爆音系の音、というイメージを持っていたのだが、一発目の音から驚いた。瞬間瞬間に表情やアタックを変えていく、繊細な音楽作りが耳に残った。隣りにいたけいとさんと話したのだが、コンクールはやはりコンクール仕様のセッティング、また、マイク乗りが良い倍音構造など、そういったところも関係しているのかもしれない。もちろん、繊細なだけではない。実に深みのあるしなやかな音色。曲作りにおける大胆な立ち振舞い、超絶技巧(と感じさせないほど鮮やか)、ステージマナーなど、多くの点で完成された素晴らしい奏者だと思った。いやー、ライヴで聴けて良かった。
最後の3曲は、松下くん、ニキータ氏のデュオ。ピアソラの美しい作品で、軽くジャブを打ち、プーランクへ。サクソフォンデュオで演奏されすぎ、というほど演奏されているプーランクだが、本日のような演奏を聴くと、まだまだサクソフォンでも開拓の余地がある作品だと感じる。若さゆえのスリリングさと、互いを尊敬しあう幸福感を併せ持つ、稀有な演奏となった。
旭井さんがオブリガードを書いたという「ヴェニスの謝肉祭」は、これはもう言葉にするのが意味を成さないほど。「つべこべ言わず聴いてみてくれ、凄いから!」と、そんな感想しか書けない。敢えて言うなら、2人同時K点越え100連発、といったところだろうか(笑)。
アンコールは、ローゼンブラットのロシア民謡を、これまた超絶アレンジで。全編通して、心からブラヴォーを送った、そんな演奏会であった。また聴きたいなあ。ブログが饒舌になってしまった。
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