ラジオのパーソナリティによって読まれた、曲目解説をディクテーションしたので、下記に貼り付けておく。
次にお聴きいただくのは、ジェームズ・テニーの作品です。ジェームズ・テニーは、1934年に生まれて、2006年に70歳を少し越えたところで亡くなったアメリカの作曲家です。基本的にはアメリカのいわゆる"実験音楽"の伝統に属する人です。いろいろな作品を残していますすが、多くの曲が特定の過去の作曲家、あるいは彼と時代を共有していた同時代の作曲家の作品と、関連付けられた形で作曲されています。例えばエリック・サティ、コンロン・ナンカロウ、ハリー・パーチといったアメリカの非常に実験的な作曲家や、あるいはヨーロッパの前衛的な作曲家の基礎となったような人たち、それだけではなくて、クセナキス、フェルドマン、アイヴズ、ヴァレーズ、ケージといったアメリカの作曲家たちについても、関連した作品を書いています。
関連した作品を書く、というのは、必ずしも、そういう人たちの音楽に似たものを書くということではなくて、テニー自身がそれらの音楽のなかで、「こういうアイディアでこの音楽は書かれているのだろう」と考えたそのアイディアを、彼流に換骨奪胎して、まったく元の音楽とは違う音楽を書くという仕事をいくつか行いました。
そしてシェルシについても彼は音楽を書いています。この演奏会はシェルシに関わる音楽の演奏会ですので、ここでテニーの「波の力~シェルシに捧ぐ~」というタイトルの曲が演奏されたわけです。この作品は1996年に書かれたもので、従って、先程申し上げた「シェルシをもう一度訪ねる」というプロジェクトの一部ではないですが、実はシェルシは1980年代になるまで、つまり彼が亡くなる少し前になるまで、ほとんど演奏されることもない、非常に孤立した作曲家だったわけです。80年代から90年代にかけて、すでにシェルシについて非常に強い意識を持っていたということは、シェルシに対する早い時期の評価を代表するものの一つといって良いと思います。
このジェームズ・テニーの曲は、アルトサクソフォンと13人の演奏家からなる小さなオーケストラのために書かれています。タイトルを「波の力」と訳しましたが、英語で"scend"というタイトルになっています。波によって船が持ち上げられる、といった、波が何かを持ち上げるといった意味合いの言葉です。
この曲はきちんと楽譜に書かれているところも少しあるのですが、多くの場所は演奏家の自主的な判断によって演奏を進めていくという要素が入っています。決められた音の高さの中から、その場その場で演奏家が自分で音の高さを選んで、それを10秒から30秒演奏し、しばらく休みを置いて、また違う高さの音を演奏してゆく、という部分がだいぶ続きます。その中から、アルトサクソフォンのソロが音を拾い上げていって、旋律的な要素を作り上げていくという形で音楽が進行していきます。
それでは、ジェームズ・テニー「波の力~シェルシに捧ぐ~」をお聴きいただこうと思います。
解説の通り、非常に強い"持続"と、ゆるやかな響きの変遷を楽しむ作品で、サクソフォンの機動性や音量を活かした作品とは、一線を画する。この、不協和音が連続する中に、時折ぞくっとするような甘い響きも聴かれ、驚かされることもある。
0 件のコメント:
コメントを投稿