2010/07/18

田村哲リサイタルのプログラム・ノート

先日行われた田村哲氏のリサイタルでは、曲目解説を担当した。いくつかの曲目解説は、塙美里さんのリサイタルに寄稿したものを再構成したものだが、およそ80%は書き下ろし。毎度のことながら、このブログ上でも公開する。

いろいろと練りながら、ちょうど良い着地点を探していく作業って楽しいなー。本当は、各曲の解説はもう少し短くても良いのだと思うが、そこまで練りきれなかったのが悔やまれる(実は今回、文字数の指定がなかったのだ笑)。

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ロベール・プラネル - プレリュードとサルタレロ サクソフォンという楽器が誕生したのが1840年頃。その後数十年を経て、1900年代の始め頃に、ようやく楽器として広く認知されました。サクソフォンのために書かれたオリジナル曲の多くが近代~現代の作品であり、ともすれば"サクソフォンの演奏会"というと、難解な曲のオンパレードとなってしまうことも珍しくありません。
 しかし、この「プレリュードとサルタレロ」の作曲者、ロベール・プラネル(1908- 1994)は、近代~現代を生きた作曲家でありながら、聴衆が親しみやすい作品を数多く残しています。ヴァイオリン奏者としてキャリアをスタートさせ、幼少の頃よりクラシック音楽の名曲に数多く触れたことが、プラネルの音楽観に影響を与えたのでしょう。静寂な序奏に始まり、次第に熱気を帯びる「プレリュード」、そして、技巧的な無伴奏のカデンツァを経て、「サルタレロ(13世紀のナポリの踊り)」が快活に演奏されます。

ピーエル=マックス・デュボワ
 フランスの生まれの作曲家、ピエール=マックス・デュボワ(1930 - 1995)は、サクソフォンの世界と密接な関わりを持つ作曲家です。生涯のうちに残したサクソフォンのための作品は、およそ70曲以上!そのどれもがサクソフォンの高い運動性を引き出したものばかり。まるで、見た目も華やかな曲芸師たちが紡ぎ出す、サーカスのステージを目の当たりにしているようです。デュボワの曲は、作曲の師匠であったダリウス・ミヨーの、南フランスを思わせる底抜けた愉悦感を受け継いでいるような印象を受けます。
 本日演奏される「ソナチネ」も、ご多分に漏れず、愉悦感とエスプリに満ちあふれた傑作の一つ。1966年に作曲され、ベルギーのサクソフォン界の第一人者、フランソワ・ダニール氏に献呈されました。

バリー・コッククロフト - ビート・ミー
 オーストラリアのサックス奏者&作曲家であるコッククロフトが、たった一本のテナーサックスを使って描き出すジャズとロックの世界。スラップタンギング、マルチフォニック、循環呼吸といった数々の特殊奏法が炸裂する。

フェルナンド・デクリュック - ソナタ
 フェルナンド・デクリュック(1896 - 1954)は、フランスに生まれた女流作曲家です。12歳でパリ音楽院に入学し、若くして音楽の才能を発揮しました。オルガンでの海外演奏旅行をきっかけに、フランスのみならずアメリカでも活躍し、大西洋を股にかけて精力的に演奏活動を行いました。彼女はサクソフォンのために20近くの作品を書いていますが、それは夫であったモーリス・デクュック(トスカニーニ指揮ニューヨークフィルの専属サクソフォニストであった)の影響によるところが大きいと言われています。デクリュックの作品は、長い間サクソフォン界で見過ごされてきましたが、数年前より、この「ソナタ」を始めとして演奏会やレコーディングで取り上げられる機会が増え始めています。
 曲はミステリアスな雰囲気のピアノに導かれて始まり、やがて歌い始めるサクソフォンはまるで弦楽器のようなフレーズを紡ぎ出します。サクソフォンとピアノが濃密に絡み合いながら4つの楽章が続けて演奏され、やがて訪れる輝かしい終結部に向かいます。

アルフレッド・リード - バラード
 吹奏楽に関わったことのある方ならば、アルフレッド・リード(1921 - 2005)の名前はおなじみでしょう。20世紀の吹奏楽界をを代表する作曲家のひとりで、アメリカを中心に活躍しながら「アルメニアンダンス」「エル・カミーノ・レアル」を始めとする数々の傑作を世に送り出しました。意外なことに日本との関わりは深く、1970年に「音楽祭のプレリュード」が全日本吹奏楽コンクールの課題曲として取り上げられて以来、プロ・アマチュア問わず国内の数々の演奏会に客演、また日本の音楽大学の客員教授に就任するなど、来日回数は80回以上に上ります。
 「バラード」はアルトサクソフォンと吹奏楽のために書かれた小品。アメリカの名手、ヴィンセント・アバトのために書かれ、のちにピアノとサクソフォンのためのデュエット版も出版されました。サクソフォンは、その表現力の広さから「歌う管楽器」とも呼ばれますが、この曲は、まるでオペラのアリアのように美しいメロディに満ち溢れています。

セザール・フランク - ソナタ
 ベルギーに生まれ、パリにおいてその活動の幅を広げたセザール・フランク(1822– 1890)は、フランスにいながらにして伝統的なドイツ音楽に根差した作曲活動を展開しました。自身が教会のオルガン奏者でもあったことから、オルガンやピアノのための作品を数多く残し、それらの作品は今日の演奏会でもたびたび取り上げられます。
 そのフランクの手による最高傑作と言われているのが、この「ヴァイオリン・ソナタ」です。フランス音楽界から生まれたヴァイオリンの作品の最高峰とも称されるこの作品は、フランク晩年の1988年ころに生み出され、当代随一のヴァイオリニストと言われたウジェーヌ・イザイに捧げられました。第一楽章で奏でられるメロディが、めくるめく形を変えながら楽曲のあちらこちらに顔を出す「循環形式」という作曲法が使われています。これにより4つの楽章の間には緩やかなつながりが感じられ、全体を通して何か一つの物語が構成されているような印象を受けます。独奏パートのみならず、ピアノパートが充実していることも、この作品の聴きどころの一つです。

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