2012/03/17

田中靖人「モリコーネ・パラダイス」

田中靖人氏のニューアルバム。このアルバムの制作が進行しているとき、「モリコーネをテーマとしたアルバムを…」という情報からは、このアルバムに対しまったく興味がわかなかったのだが、ジョン・ハール John Harle氏がプロデュースを行なっている、と聞いて180度考えが変わった。購入後の感想も、「田中靖人氏のアルバムではなく、ジョン・ハールのアルバムである」と躊躇なく言い切ってしまえるほどのものである。

真島俊夫氏アレンジのモリコーネメドレー(もちろんこのアルバムにも収録されている)の名を冠した「Morricone Paradiso(EMI Music Japan TOCE-90218)」。映画音楽の大家として名を馳せる、エンニオ・モリコーネ(1928 - )の多才さを、田中靖人氏が見事に奏でるサクソフォンで楽しむことができるアルバムである…と、おそらく普通のモリコーネアルバムだったらここでレビューが終わってしまうのだが、このアルバムは違う。はっきり言って、近年の日本のサクソフォンで出版されたアルバムの中でも、随一の完成度を誇るものである。そして、そのほとんどの要素が、ハール氏が手がけるアレンジや音作りと、田中靖人氏の演奏の相乗効果から来るものだ、ということが判る。

1.ラ・カリファ:映画『ラ・カリファ』より(編曲:千住明)
2-4.セルジオ・レオーネ組曲(編曲:山下康介)コックアイズ・ソング~夕陽のギャングたち~ウエスタン
5.モリコーネ・パラダイス(編曲:真島俊夫)
6.巨匠とマルガリータ:映画『巨匠とマルガリータ』より(編曲:朝川朋之)
7.キ・マイ(私だけが):映画『マッダレーナ』より(編曲:イアン・ガーディナー)
8.マット、カルド、ソルディ、モルト・・・ジロトンド:映画『Vergogna schifosi』より(編曲:ジョン・ハール)
9.ストリップティーズ:映画『明日よさらば』より(編曲:ジョン・ハール)
10.風、叫び:映画『プロフェショナル』より(編曲:ダニエル・ハール)
11.海の上のピアニスト(メドレー)(編曲:小林洋平)
12.ガブリエルのオーボエ:映画『ミッション』より(編曲:長生淳)
13.黄金のエクスタシー:映画『続・夕陽のガンマン』より (編曲:ジョン・ハール)
14.エクソシスト2(メドレー)(編曲:小林洋平)
15.ガブリエルのオーボエ:映画『ミッション』より(編曲:ジョン・ハール)

まず、曲目を並べるだけでその異常さに気付くことだろう。編曲の提供元が、あまりに豪華すぎるのだ。しかも、ほとんどがこの録音のための書き下ろしと思われる。プロデュースのジョン・ハール自身の編曲に加え、千住明、小林洋平、朝川朋之、山下康介、真島俊夫、長生淳 etc.という布陣。ちなみにダニエル・ハールはジョン・ハールの息子だそうで(へえ)。

そして、演奏者もとんでもないことになっている。田中靖人氏以外に、ジョン・ハール自身のソプラノ・サクソフォン、篠崎正嗣ストリングスに、なんとポール・メイエや、サラ・レオナードなどが加わり、制作費をペイできるのかという余計な心配をしてしまうくらいだ(苦笑)。実際、リリース記念コンサートの時ジョン・ハールが来日できなかったのは、CDで金を使いすぎて予算が足りなくなったせいではないか、という噂があるくらいで…笑。弦楽パートのコントロールはかなり緻密かつクオリティが高いものだが、さすがスタジオ・ミュージシャンを集結させただけあるというものだ。ハールのサックス、サラ・レオナードのソプラノ・ヴォイスや、メイエのクラリネットなど、いずれも強烈である。

1曲目の「ラ・カリファ」を聴いていると、まあ、田中靖人氏とストリングスの癒し系フィルム・ミュージックだよね、という感想に落ち着くのだが、この印象がわずか2曲目で崩れる。この音作り、まさに完全にジョン・ハールの支配下に置かれているという印象を、聴き手のほとんどが受けることだろう。この傾向は、アルバムの大半の部分を占めており、聴後感としても、やはりハールの音作りが耳につくのである。

サクソフォンんの音数としては、一般的なサクソフォン・アルバムと比べればかなり少ないのかもしれないが、全体のコンセプトが明確かつ高密度なおかげで、高い満足感を得ることができる。最終部のトラックの配置も良い!多重録音のサクソフォン五重奏による「海の上のピアニスト」でごきげんな演奏を楽しみ、「ガブリエルズ・オーボエ」でモリコーネのメロディ・メーカーとしての才能に唸る。そして、超名曲「黄金のエクスタシー」にむせび泣き、「エクソシスト2」のスーパー・ハイテンション&クール&カッコイイ演奏にしびれるのだ。最後は、ハール編の「ガブリエルズ・オーボエ」でしっとりと。ここの流れは、ちょっと他のアルバムでは聴けないことだろう。

サクソフォンを吹いている、すべての皆様にオススメする。Amazonへのリンクは、こちら→モリコーネ・パラダイス

0 件のコメント: