2025/08/11

Rising (Cabrillo Fest 2025 Final Concert) - Timothy McAllister

自宅で車で40分ほどのところにあるSanta Cruz Civic Auditoriumまで、ティモシー・マカリスター Timothy McAllister氏が客演するコンサートを聴きにいってきた。

Cabrillo Festival(カブリロ現代音楽祭)は、1963年に作曲家ルー・ハリソンらによってカブリロ大学で創設され、以来、現代作品に特化したオーケストラ音楽祭として高い評価を受けている。特に「存命中の作曲家による新作」に焦点を当てている点が特徴。創設者のルー・ハリソンが公にQIAとして生きた人物ということもあり、さらに今年は、サンタクルーズのLGBTQIAプライドの50周年を記念し、特にLGBTQIAに関連したプログラムが多かったようだ(プログラム最後のJake Heggie「Good Morning, Beauty」など)。

2025/8/10 7pm-
Santa Cruz Civic Auditorium
Adolphus Hailstork - Saxophone Concerto (Timothy McAllister, saxophone)
Jennifer Higdon - Cold Mountain Suite
Tyson Gholston Davis - As Juniper Storms
Jake Heggie - Good Morning, Beauty (Gabrielle Beteag, mezzo-sop)

すべて初めて聴く作品、あまり馴染みのない作曲家が並ぶが、T.G.Davis氏の作品を除いて聴きやすい作品ばかりだった。各曲の前には、作曲家が出てきて作品について解説を入れながら進む。アメリカだとおなじみのスタイルなのだろうか。

この中でも「Saxophone Concerto」は、マカリスター氏の好演と相まって、非常に強い印象を観客に与えたように思う。どんな難パッセージにおいても崩れないニュートラルで良く通る美しい、しかしパワーのある音色、作品の遊び心を存分に引き出した色付け、そして最終部に向けての盛り上がり…。技術的に吹ける人は他にも居るかもしれないが、このキャラクターで作品を自分のものとして吹ききってしまう人はマカリスター氏にちょっと想像できない。

Hailstork氏は、健康上の問題により臨席は叶わなかったが、演奏の前、代わりにマカリスター氏がコメントした。マカリスター氏にとっても、特別な作品とのコメントがあり…15歳の時に初めて現代に生きる作曲者として初めて触れた作曲家が、Hailstork氏だったとのことだ(確か、「American Guernica」という作品を演奏した、などとコメントがあった)。

その他の作品もなかなか面白く、Jennifer Higdon氏の、オペラ抜粋である「Cold Mountain Suite」は、ドラマチックな展開に感銘を受けたし、Jake Heggie「Good Morning, Beauty」も…これは詩の内容がもうちょっとリアルタイムで分かればより面白かったと思うのだが(わからない単語や言い回しが多くて…)、Gabrielle Beteagの好演に会場全体が大いに沸いていた。やっぱり歌って凄い。

演奏会後には、会場の外でAfterpartyが開かれ、ケーキや飲み物が振舞われた。写真は、LGBTカラーの虹色にライトアップされたSanta Cruz Civic Auditorium。


2025/07/21

シュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭のAsya Fateyeva氏

アドルフ・サックス国際コンクールでの入賞以降、様々なオーケストラの協奏曲ソリストとして引っ張りだこのアーシャ・ファテエヴァ Asya Fateyeva氏であるが、2024年にドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭に独奏者として招かれた時の映像を以下のリンクから観ることができる。

https://www.ndr.de/fernsehen/sendungen/Asya-Fateyeva-beim-Schleswig-Holstein-Festival,klassik256.html

プログラムが、もはやAsya Fateyeva氏オンステージ、というようなもので:

ビゼー「カルメン第1組曲」
トマジ「サクソフォン協奏曲」
ボルヌ「カルメン・ファンタジー」
モーリス「プロヴァンスの風景」
ビゼー「カルメン第2組曲」
ラヴェル「ボレロ」

…という、ビゼーの「カルメン」を除いてサクソフォン尽くしの演奏会。ボルヌはサクソフォンとハープでの演奏、また、「ボレロ」においてAsya Fateyeva氏はソプラノサクソフォンで参加している。

臨時編成の若いオーケストラのようで、オーケストラにはムラがあるが総じてしっかり演奏されている。特にトマジは祝祭感溢れる素敵な演奏で、ライヴ感に満ち溢れ、推進力があり一聴の価値ある演奏だ。トマジだけは、YouTubeにて抜粋を観ることもできる。

2025/07/20

Tapiola Sinfonietta & Rascher SQ plays Glass

フィンランドのエスポーの市立オーケストラであるタピオラ・シンフォニエッタと、Rascher Saxophone Quartetの演奏によるフィリップ・グラス「サクソフォン四重奏のための協奏曲」の演奏映像。

Rascher SQの演奏は相変わらずのハマり具合である。世界で一番多く本作品を演奏しているのがRascher SQであろう。アルトサクソフォンはMorgan Webster氏ではなさそう。前任のHarry White氏だろうか?

2025/07/12

木山光「Hadewijch II」の録音

 木山光氏のサクソフォン四重奏曲「Hadewijch II(ハデヴィッヒ2)」の録音をSound Cloud上で見つけた。2014年11月の、なんとAmstel Quartetによる実況録音。

https://soundcloud.com/gaudeamusnl/hikari-kiyama-sax-quartet

本作品は、海老原恭平氏、松下洋氏、塩塚純氏、小川卓朗氏のカルテットによって、第1回洗足現代音楽作曲コンクール・サクソフォン作品部門にて演奏され、入選ならびに洗足賞を獲得している。木山氏は当時欧州で活躍しており(今も?)、Amstel Quartetが取り上げることは自然といえば自然だが、それでもかなりの意外性があった。

作曲者が求める響きは、楽譜の注釈にもあるとおり「This piece need noisy tone. And this piece is not so colled comtemporary musc, this is noise Jazz - Rock music.」「Composer wants to produce as fast as possible & as loud as possible like Free Jazz - Rock improvisation」というもの。一方で、作品を聴いてみると分かるが、リズム・音運びなど、相当細かい部分までギッシリと精緻に書かれており、そのアンバランスさをどのように演奏として表現するかがキーとなる。いずれにせよ、高い技術力と圧倒的なパワーが必要な、一筋縄ではいかぬ作品。オプションでPAの使用によって120dbへのアンプリファイが推奨されている。

中川俊郎氏は「音楽の枠組みの向こう側、ゾッとする「彼岸」を覗こうとする探求心を見る(第6回JFC作曲賞本選に選出された「ハデヴィッヒ」の評より)」と語った。

2014年に2度演奏したが、これまで取り組んだ作品の中で、技術的には一番難しかったかもしれない。

Dynamic Saxophoneと名付けられた、このAmstel Quartetの当該演奏会のプログラムはこちら。



2025/06/22

日下瑶子氏のマスランカ論文

日下瑶子氏の博士論文、「デイヴィッド・マスランカのサクソフォーン作品における表現の根源 : 作曲プロセスの考察を通して」が、国立音楽大学のサイトから参照可能となっている。内容について以前もブログで触れたが、マスランカ氏の音楽活動と思想を包括的に記録・分析したものである。

​彼の吹奏楽作品やサクソフォン作品を中心に、作曲背景、初演情報、作曲思想の変遷、演奏解釈などが詳細に記載されている。マスランカ氏の作品は技巧的な要素から静寂を強調する表現へと変化し、心理療法、メディテーション、仏教思想に基づくマインドフルネスの影響を受けている。自然的、​宗教的、現実的なテーマを音楽に反映し、深い精神性を追求したことを、論文中でつまびらかにしている。 ​

サクソフォン作品では、技巧的な内容からシンプルで静寂を感じさせる表現へ移行し、コラール旋律の引用や調性の明確化が特徴である。 奏者に対して演奏上の限界を超える表現を求め、精神的境地に迫ることで音楽の本質を追求した。 ​また、委嘱者や初演者との関係を深めることで、楽器の可能性を理解し、マスランカ氏が理想とする音楽を実現していった経緯が、関係者の言葉を用いながらリアルに語られる。 ​

さらに、楽譜やディスコグラフィーの詳細な記録を通じて、彼の作品が国際的に広く演奏されていることが示されている。

マスランカの音楽遺産を包括的にまとめあげた、非常に貴重な内容であり、今後、サクソフォンでマスランカ作品を演奏するときに必ず参照されるべき資料だ。また、マスランカ氏の作品に興味がある方にも、いちどぜひ一読いただきたい内容。



2025/06/14

Gerald McChrystal plays "From nowhere to Nowhere"

 イギリスのサクソフォン奏者、ジェラルド・マクリスタル氏が、Michael McGlynn氏作曲の「From Nowhere to Nowhere」を演奏する映像。1996年の映像ということでかなり若い時代の演奏だが、相変わらずの美しい音色、ほれぼれしてしまう。

イギリス産の無伴奏作品を聴くときに感じる、不思議な懐かしさのようなものは何なのだろう。

続いてMichael McGlynn氏が吟じる「The Mermaid」も素敵だ。McGlynn氏自身が歌う、別の演奏映像もあった。



2025/06/02

Wonki Lee - American Sonatas from Two Millennia

※本アルバムは、6/13をもって発売となった。ぜひ多くの方に聴かれてほしい。

Wonki Lee 李源冀さんは、韓国人のご両親を持つ東京生まれのサクソフォン奏者。日本で育ち、その後ニューヨークのマンハッタン州立音楽院でサクソフォンを学び、現在、モンタナ州立大学にてAssistant Professor of Saxophoneとして後進を育成する傍ら、様々なプロジェクトで演奏活動を展開する。昨年11月、Leeさんが教鞭をとるモンタナ州立大学において、雲井雅人氏、日下瑶子氏らとともに、ディヴィッド・マスランカ「サクソフォン四重奏と吹奏楽のための協奏曲」を演奏している。このモンタナの演奏会には私は伺う予定だったのだが、たまたま本業の日本出張が重なり叶わなかったのだった。

だいぶ前…2013年に日本でお会いしたことがあり、また、演奏も直接聴いたことがあるのだが、テクニックがあるのは当然のこと、実に美しい音でサクソフォンを操る奏者であり、「ニュートラルな」という言葉でも片づけられない…日本、そしてアメリカで、サクソフォンを学んだ経験を上手く取り入れ、他の誰でもないLeeさん自身の音楽としてプレゼンテーションする能力のある方だ。その後はしばらく聴く機会が無かったが、2020年に発売された「American Sonatas」を聴き、これがとても良いアルバムだった(特にクレストンのWith Vigorが持つロマンティシズムを、くどくならずしてこのように聴かせられる奏者はちょっと思いつかない)。小品集、ミニアルバムと、いくつかのリリースを経て、久々の大作を集めたアルバムのリリースとなった(ご本人から直接送っていただいた、感謝!)。

「American Sonatas from Two Millennia(Clarinet & Saxophone Classics Recordings CC0080)」マスランカ、ムツィンスキー、オルブライト、という、いまでこそ技術的に吹いてしまう人はたくさん出てきてはいるが、音楽性や精神性を維持したまま登攀することは、一筋縄ではいかないようなレパートリー。一方で、アメリカ産のソナタとしては間違いなくいずれも傑作であり、多くの奏者がレコーディング、もしくは演奏会で取り上げている。

Leeさんの演奏は、驚くべきことに、美しい音や歌心をしっかりと維持している…のだが、これまでの演奏・録音で聴いたような、演奏の裏にあるキャパシティの余裕、というものを、敢えて取り去るまで、音楽へと没入しているように感じた。マスランカ氏の音楽は、奏者を限界を超えたところへ連れ去り、驚くべき表現を引き出すが、その方向性を地でいくような演奏だ。なかなか軽い気持ちで聴くことができず、受け取り手にも強い集中力が必要だ。

CDと一緒に同封されていたメッセージに書かれている「マスランカ氏がたどってきた経験(NYからモンタナ州に移住)を共感できた」との言葉通り、マスランカ「ソナタ」への思い入れの強さは尋常ではない。ライナーの冒頭に置かれたForwardには、ディヴィッド・マスランカ氏と、Wonki Leeさんの、不思議なほどの一致が語られている。ぜひCDを入手して全文を読んでいただきたい。また、Maslanka Pressによる再浄書版を初めて使った録音とのこと。のみならず、ムツィンスキー、オルブライトといったアメリカ産の傑作ソナタをも、同時代のアメリカの奏者による最高の演奏でもって堪能できる、多くの方に聴いていただきたい盤だ。

CDを送っていただいたときに頂戴したモンタナ州立大学のポストカード。素敵ですね。