2023/06/25

ダニエル・ケンジーのYouTubeチャンネル

ひと月ほど前に、ダニエル・ケンジー Daniel Kientzy氏のYouTubeアカウントが突如として開設され、同時に57本もの演奏録音(残念ながら映像は無いようだが)がアップロードされた。

特に現代作品の分野において、大量の録音を実施しているダニエル・ケンジー氏ならではの内容。作曲家の名前に馴染みが無い中、どのような音が飛び出すかは予測不可能。じっくり腰を据えて聴いてみて、新たな響きを発見することに楽しみが見いだせるだろう。

私も聴いたことがあるのは、ジェルジー・クルタグの「ブカレストの叔父を訪ねて」くらいで、ほかは初耳。とにかく分量が圧巻で、まだ全然聴けていないのだが、少しずつ聴いていこうと思う。

https://www.youtube.com/@daniel-KIENTZY


2023/06/24

ラッシャーの演奏(Frederick Kochのコンチェルティーノ)

1964年にシガード・ラッシャーに献呈されたFrederick Kochの「サクソフォン・コンチェルティーノ」の録音を見つけた。ラッシャー氏の演奏は数多く所持しているが、この作品の録音を聴くのは初めてだと思う。Frederick Kochについては、このCleveland Arts Prizeページが詳しい。1923年生まれの作曲家だそうだ。

ラッシャー氏向けに書かれた曲の「らしさ」が溢れており、録音はモノラルで音質も決して良くないが、なかなかの名演だ。

https://archive.org/details/cd_series-composers-tapes_frederick-koch-daniel-dorff-wolfgang-ludew/

「Harth, Carnegie / Community Orch」との記載があり、指揮はRobert Harthだろうか、しかし確定には至らない。以下は、Frederick Koch氏の写真。



2023/06/21

The Saxophone Mass(サクソフォン・ミサ曲)

ジョン・ハールの「サクソフォン・ミサ曲」という作品を、「The John Harle Collection Vol.8 - Gothic」で聴くことができる。ギルドホール音楽院サクソフォンアンサンブルをフィーチャーした演奏で、大規模、かつ、実験的要素を含む壮大な作品である。

のちに「恐怖と壮麗」という作品で、作品のコア(中世の音楽を活用するなどの考え方)を流用しながら、コンパクト、かつ、ポップな要素をも携えて再び世に問われることになるが、その片鱗を「サクソフォン・ミサ曲」の各所で垣間見ることができる。例えば「恐怖と壮麗」の最終部、40本のソプラノサクソフォンが炸裂する箇所は、明らかに「サクソフォン・ミサ曲」の一部を引用していることが分かる。


「恐怖と壮麗」と「サクソフォン・ミサ曲」の関係性については、ジョン・ハール自身の言葉を引用しておこう。

 《恐怖と壮麗》は、音楽による五つのドラマからなるファンタジーである。「過去の中に現在を見出だせ。そうすれば世界が理解できる」といったのは、ロイヤル・シェイクスピア劇団の芸術監督であるエイドリアン・ノーブルだった。そしてこのアルバムが形を整えるに連れて、彼のこの言葉は私の心の中でより鮮明に鳴り響くようになった。

 この音楽の種が最初に蒔かれたのは1980年代の中頃、ハリソン・バートウィッスルとドミニク・マルドウニーがナショナル・シアターでわれわれ音楽家にとって刺激的な演奏を行った時のことである。彼らは、中性音楽が構造的・即興的な遊び場として面白い素材であることにわれわれの目を開かせてくれた。彼らの努力の成果は私の場合、《サクソフォン・ミサ曲》となって結実した。これは16人のサクソフォン奏者、4人の打楽器奏者、2人のキーボード奏者、ニュー・ロンドン・コンソート、そして1台の大砲のための1時間に及ぶ大作である。《サクソフォン・ミサ曲》が埋葬されて10年後、このアルバムに収録された作品で、バートウィッスルとマルドウニーの努力はさらなる成果を生んだ。

これは「恐怖と壮麗」のブックレットに記載されたコメントで、このアルバムを入手したときから「サクソフォン・ミサ曲」の存在はとても気になっていた。そういった背景から「The John Harle Collection」にそれが収録されたことは個人的に非常に嬉しい出来事だった。このコメントからすると「サクソフォン・ミサ曲」は演奏時間1時間とのことだが、「The John Harle Collection」に収録されたものは20分程であり、その差分の理由は判らない。もしかしたら、複数バージョンが存在しているのかもしれない。

2023/06/19

上田市のアーバンSQ

長野県上田市のサントミューゼにて、アーバン・サクソフォン・カルテットがリサイタルを開く。

アレンジ作品とオリジナル作品がバランス良く配置されている。特にオリジナル作品の選曲センスが素晴らしく、サクソフォン四重奏の魅力を存分に魅せてくれるものと期待される。

ところで、この演奏会向けの曲目解説を仰せつかり、今日納品したところ(最近ブログが書けていなかったのは、ここに時間を割いていたため)。最近はChatGPTや、ChatGPTをベースにした曲目解説がちらほらと出てきているような噂も聞いており、普通に書いたのでは太刀打ちできないため、普段音楽を聴かない方でも分かるように、なるべく平易に、興味を持つように仕上げたつもり。これまでの仕事と比べて、推敲の回数・時間はかなり多くなった。

そういったこともあり、オリジナル作品については一通り改めて聴くことになったのだが、プラネル、ジャンジャン、トーキー、マスランカと、演奏し尽くされている作品ばかりだが、どれもこれも改めて名曲だな、との思いを強くした。

日時:2023年7月22日(土)開演14:00(開場13:30)

出演:アーバン・サクソフォン・カルテット
曲目:
プラネル/バーレスク
ドビュッシー(編曲:中村均一)/アラベスク第1番
ドヴォルザーク/ユーモレスク
ピアソラ(編曲:中村優香)/エスクアロ(鮫)
チャイコフスキー / アンダンテ・カンタービレ
ジャンジャン / サクソフォン四重奏曲
トーキー / JULY
マスランカ/マウンテン・ロード


2023/06/07

サクソフォニストVol.33到着

日本サクソフォーン協会の協会誌「サクソフォニスト Vol.33」が到着。今回も協会誌の編集委員として携わっている。

・第37回日本管打楽器コンクール特集
・特殊奏法が開くサクソフォンの新しい音響的可能性
 -《息の道》に向かう野平一郎のサクソフォン作品群の考察を通して-
・日本のサクソフォン史 第2章
・キンダー楽器を活用したサクソフォーンの早期教育研究
・日本サクソフォン界の隆盛を築いた奏者たち~昭和の知られざる資料集~
・サクソフォンにおける古楽的アプローチに基づいたバロック音楽演奏
・第19回ワールド・サクソフォーン・コングレス&フェスティバル倉敷 報告
・第39回ジャパン・サクソフォーン・フェスティバル報告

このうち、私は「日本のサクソフォン史 第2章」と「日本サクソフォン界の隆盛を築いた奏者たち~昭和の知られざる資料集~」を担当した。

「日本のサクソフォン史 第2章」は、翻訳を行った。原文は杉原真人氏の英語論文である。「日本サクソフォン界の隆盛を築いた奏者たち~昭和の知られざる資料集~」は、今年3月のジャパン・サクソフォーン・フェスティバルでポスター展示した「日本のサクソフォン史~現代に至る日本サクソフォン界の系譜と、日本に影響を与えた世界の奏者」の再構成版である。

その他、面白い記事が多く、ぜひ入手してご覧いただきたい。



2023/06/03

ジョン・ハールのインタビュー記事@PRS for Music

ジョン・ハールのインタビュー記事を試訳してみた。特に子供の頃の音楽との関わり合いなど、いままで知らない情報もあり、興味深い内容である。

https://www.prsformusic.com/m-magazine/features/interview-john-harle

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序文:ジョン・ハールは、ロンドンを拠点に活動するサクソフォン奏者、プロデューサーであり、作曲分野ではIvor Novello Awardを受賞している。世界中のオーケストラと共演し、ハリソン・バートウィッスル、マーク・アンソニー・ターネジ、サリー・ビーミッシュ、マイケル・ナイマンの作品に生命を吹き込んでいる。また、ハービー・ハンコック、エルビス・コステロ、ポール・マッカートニーといった一流のアーティストと共演し、彼らのビジョンを世界中のステージに届けている。ここでは、イギリス音楽の革新の最前線で活躍する彼が、様々なキャリアから得た洞察を紹介します。

ー どんな音楽を聴いて育ったのですか?

小さい頃、そして10代のころまでは、とても熱心に音楽を聴いていました。ピンク・フロイド、ペンタングル、キング・クリムゾン、シュトックハウゼン、デューク・エリントン、ファウスト、ハリソン・バートウィッスルなどの音楽の「異質さ」に惹かれました。電子音に熱中し、プログレやジャズも楽しんでいました。

ー サクソフォンを始めたきっかけは?

サクソフォンについても「異質さ」に惹かれました。また、デューク・エリントン・オーケストラのサクソフォン奏者、ジョニー・ホッジスの演奏に、言葉にならないほどのインスピレーションを受けました。ホッジスはアルトサクソフォンをボーカルのごとく聴かせるのですが、特に私にはマヘリア・ジャクソンに聴こえたのです。その類似性には頭が上がりませんでしたが、その音の深さをコピーするのではなく、自分自身で解釈しなければならないとも思いました。父は共産党員だったこともあるビジネスマンで、私を何度もエリントンに会わせ、エリントンやコルトレーンのようなミュージシャンの人生経験、つまり非常に暗く恐ろしい時代における彼らの真の闘い、公民権運動について教えてくれました。私は高級校に通う恵まれた子供だったので、自分の音楽的な感覚の深さを表現するために別の方法を見つけなければなりませんでした。ジャズは、他者のものであり、その権利があるように思えたので、「おもちゃ」にする気にはなれませんでした。今となっては、それが過剰な気遣いであったことに気づきますが、結果的にそうなってしまったのです。でも、サクソフォンが私の楽器になったのは、おそらくサクソフォンがどこにも属さず…つまり、私と同じだったからでしょう。プログレ、ジャズ、フォーク、クラシックなど、自分のリストにあるすべての音楽の周辺を演奏するのが好きだったんです。10代の頃はプログレのリードギターを弾いていて、サクソフォンよりもずっと練習していたのですが、そのおかげで自分のサクソフォン・サウンドを見つけることができたと思います。19歳から22歳までサクソフォンに没頭し、その後フリーランスとしてナショナル・シアター、無数の映画セッション、ロンドン交響楽団など、さまざまなタイプの音楽に携わるようになりました。

ー 最初のブレイクは何だったのですか?

1980年にスタンリー・マイヤーズが私のベルリン・バンドのコンサートに来て、ジョー・オートンの伝記映画『Prick Up Your Ears』の音楽のオーケストレーションと演出を私に依頼したのです。それは信じられないほど強烈なもので、あれほど懸命に働いたことはありません。ウンドトラック・アルバムでは、ハンス・ジマーや他の素晴らしいアーティストと緊密に仕事をしました。これは自分のためのものだと思いました。

ー キャリアを通じて最も影響を受けたのは誰ですか?

1974年にデューク・エリントンと出会い、それが私の全人生のターニングポイントとなりました。後にも先にも、これほど気品があり、カリスマ性があり、親切な人に会ったことはありません。ハリソン・バートウィスルと故リチャード・ロドニー・ベネットは、共に長い間激しい仕事をする中で、私に多大な影響を与え、父親のような存在でした。また、マイケル・ナイマンのバンドで長い間演奏したことで、サクソフォンのサウンドへのアプローチが明確になり、それが私の中に常に残っています。この4人の素晴らしいミュージシャンが、さまざまな場面で、今の私を形成するのに役立っています。

ー キャリアを通じて、さまざまなコラボレーションを行っていますが、これらの創造的な関係から何を得ているのでしょうか?

本当に偉大なアーティストは、他の誰よりも懸命に働くということを学びました。たとえ私が曲を書いたとしても、エルビス・コステロやマーク・アーモンドのようなシンガーは、それが本当に自分のものになるまで努力するのです。これこそ本物のパフォーマンスの最高峰であり、いつも謙虚であり、そのことはインスピレーションを与えてくれます。バービカンのプロジェクトで、ハービー・ハンコックと密接に仕事をしたことがあります。私はいつものジーンズとTシャツで出かけたのですが、ハービーはオズワルド・ボアテングの新しい鮮やかなオレンジ色のスーツで現れました。彼は私を見て、明らかに私の出で立ちに感心していないようでした。彼は半笑いのような笑みを浮かべて、「ジョン、気を抜くなよ!」と言い放ちました。彼は誰とも昼食をとろうとしませんでした。彼はハムステッドのハムステッドにあるクラクストン・スタジオを予約して、毎日そこでピアノの練習をしていました。おそらくジャズ界で最も偉大な現役のハーモニック・ブレインが、毎日4時間も作曲と音階の演奏をしていたのですから、決して忘れることはできません。

ー ムーンドッグと仕事をするのはどんな感じでしたか?

ムーンドッグは真の紳士でしたが、厳しい管理者でもありました。(ペンタングルのベーシストである)ダニー・トンプソンを通じて彼と知り合い、一緒にバンドを結成して、エルビス・コステロがメルトダウン・フェスティバルを企画したときに、我々を出演させるように説得しました。そして、ワッピングの古いエレファント・スタジオでアルバム『ムーンドッグ・ビッグ・バンド』を制作しました。レコーディングの2日目に、私は「多くの音楽は技術的にとても簡単だ」と間違えて言ってしまった。その翌日、彼は猛烈に難しいサクソフォン・ソロを持ってやってきて、急遽録音することになった。技術的には大変な挑戦でしたが、何度もテイクを重ね、最終的には成功しました。恣意的な基準で音楽を判断するのではなく、音楽を尊重することを教えてくれました。

ー 普段、あなたの作品はどのように誕生するのですか?

窓の外を眺めてボードレールのようにため息をついても、ほとんど浮かんできません。家にいる日は、朝5時から昼まで作曲や制作をし、その後1時間半ほどサクソフォンの練習をします。こういうルーティンがあると、目の前の素材を扱うときや、飽き飽きしたときに、アイデアが浮かんでくるんですよね。

ー これから作曲をする人へのアドバイスをお願いします。

音楽を作るということは、日常のありふれたものに対する反抗であることを忘れないでください。自分の音楽がありふれたものになったと感じたら、すぐにやめてください!音楽の歴史はリソースであり、インスピレーションでもあります。自分の好きな曲がどのように作曲され、制作されたかを調べ、その情報を自分のために使ってみてください。ディレクターやプロデューサーに何かをカットするように言われなくても済むように、自分自身の音楽を編集できるようになりましょう。プロデュースのことより、音楽について詳しくなることです。プロデュースは、頭の中の音に後から付いてきます。LogicやCubase、Liveなどを開くと、あなたの音楽は4/4、120bpmで、Appleが認めた公式な想像力のすべてが、右側にあるApple LoopsやSculptureシンセの中にあると教えてくれます。これは嘘です。MacやLogicをアップデートし続けるのはやめましょう。それは地獄への入り口です。Logic 9はLogic Xよりまだいい。彼らはお金を稼ぐために、音楽的な目的ではなく、ソフトウェアをいじくり回しているだけなのです。自分の持っているもの、つまり想像力と技術的、和声的な能力を使って仕事をするのです。練習のために有名な曲をアレンジして、原曲の新鮮なバージョンのように聞こえるようにハーモナイズし直してみましょう。映画やテレビの音楽で賞を取るのは、できれば避けたいものです。かつて一緒に仕事をしていた人たちは、あなたが「高価」になりすぎたと思うかもしれません。