2023/01/29

エストニア国立交響楽団演奏の"City Noir"

ジョン・アダムス「シティ・ノワール」は、すでに世界中のオーケストラによって(チャレンジングな)レパートリーとして広く認知されているようだ。

アメリカにおける初演:グスターヴォ・ドゥダメル指揮ロサンゼルス交響楽団…以降、イギリス、フランス、オランダ、カナダ、ポルトガル、スペイン、オーストラリア、オーストリア、ドイツ、ベルギー、チェコ、エストニア、フィンランド、スイス、日本他で演奏され、版元であるBoosey&Hawkesのページからたどる限り、その演奏回数は86回を数える。

演奏が極めて困難、という部分はもちろんあるものの、人気が出ることは自然だろう。スピード感ある導入部から、ジャズの影響を受けたハイブリッドな作風は、多くの聴き手に衝撃を与える。

映像ではないのだが、Olari Elts指揮エストニア国立交響楽団の演奏が、YouTubeにアップロードされていた。オーケストラの演奏としてはなかなか健闘しているが、サクソフォンは誰が吹いているのだろう?クラシック・サクソフォンとして良い音ではあるが、初演者であるマカリスター氏の強烈なソロを聴いてしまうと、役不足感は否めないところ(楽譜として吹ききれず落ちている所も…)。


2023/01/22

デザンクロの"Noël des Flandres"

アルフレッド・デザンクロが書いた、4声部の合唱のための「Noël des Flandres」を初めて聴いた。

「レクイエム」や「サルヴェ・レジーナ」を始めとする美しい合唱作品の数々は、Les elementsのデザンクロ作品集のアルバムで愛聴している。凝縮された宝石のような輝きを放つ作品の数々は、事あるごとに聴きたくなる内容だが、そのアルバムには収録されていなかった作品。

「フランダース地方のクリスマス」とでも訳せば良いのか、4分程度の小品で、Commotio Choralという団体の演奏。デザンクロの合唱作品の中でも、群を抜いてエキセントリックな音運びと和声で、一度聴いたら忘れない強烈な印象を残す(難易度は高そうだ)。そして、最終部の、静謐さを湛えて、音楽波が収まっていくような美しさといったら!

2023/01/21

Harvey Pittel plays Dahl's Concerto in 1971

アメリカのサクソフォン奏者、ハーヴェイ・ピッテル Harvey Pittel氏の独奏によるインゴルフ・ダール「サクソフォン協奏曲」の演奏。指揮は、ダールに南カリフォルニア大学で学んだ、マイケル・ティルソン・トーマスで、オーケストラはボストン交響楽団。

https://archive.org/details/cd_heiller-read-dahl-compositions_anton-heiller-gardner-read-ingolf-dahl/disc1/

ボストン交響楽団のアーカイヴをたどると、1971年(ダール死去の翌年である)にこの布陣で6回演奏しており、この演奏はこのリストなかのいずれかのライヴ録音と思われる。

極めてアグレッシヴに音楽を運んでおり、聴きごたえがある。マイケル・ティルソン・トーマスは、90年代にザ・ニュー・ワールド・シンフォニーと同曲を録音しており(独奏はジョン・ハール氏)、そちらも評価が高いことで有名だが、その片鱗という一言では片づけられない、若き時代の迸るような、湧き出るような、演奏だ。

ちなみに、原典版ではなく改訂版であり、独奏パートはossiaを多用。さすがにラッシャー派の、フラジオ音域を含む音運びにトライするような時代ではなかった…ということだろう。

2023/01/20

マルティノン「四重奏のための協奏曲」ピアノ版の演奏

おなじみ、Ellipsos Saxophone Quartetの演奏によるジャン・マルティノン「サクソフォン四重奏とオーケストラのための協奏曲」を見つけた。本来はオーケストラとサクソフォン四重奏、という編成だが、2台ピアノ版の楽譜も出版されている。

オーケストラ版と比較して、華やかさには欠けるものの、エッジが立ったピアノの音色は、特に第2部:アパッショナートで強いドライヴ感を生み出している。サクソフォン四重奏の面々が上手いのは言わずもがな。


2023/01/14

Marcus Weiss plays Caplet's "Legende"

マルカル・ワイス Marcus Weiss氏(1961-)は、スイスのサクソフォン奏者。スイスのバーゼル音楽院でIwan Rothに、アメリカのノースウエスタン大学でフレデリック・ヘムケに師事。1995年からバーゼル音楽院で教鞭をとるほか、XASAXとしての活動も有名である。私個人的には、シュトックハウゼンの「Edentia」への録音参加が印象深い。

多くのオーケストラに客演しているが、下記でご紹介するのはワイス氏がアンドレ・カプレ「伝説」に参加した録音である。録音年不明。"Ensemble Andre"という名前の室内オーケストラと共演しているようだが、そのオーケストラがどういった団体であるかはわからなかった。

https://archive.org/details/cd_music-of-andre-caplet_andre-caplet

いかにもライヴ録音、といった趣で、万全のコンディションとはいえない演奏ではある。サクソフォンは、さすがワイス氏といったところか、良い仕事をしているが、弦がやや取っ散らかっている印象。サクソフォン以外の管楽器も凡庸である。

2023/01/13

Joan-Marti Fresquier plays "Jackdaw"

Joan Marti-Fresquier氏が、バリトンサクソフォンとテープのためのWayne Siegel「Jackdaw」の演奏をYouTubeにアップしていた。氏の実力が如実に表れた、切れ味鋭い演奏。Stephen Cottrell氏の、独特の温度感の演奏とは一線を画すものだ。

スペインのサクソフォン奏者であるMarti-Fresquier氏は、バリトンサクソフォンサクソフォン専門の奏者として、素晴らしい録音を数多く送り出している。特にJacobTVの「Pimpin'」の映像は強烈な印象を残し、私にとって同曲のベスト演奏の一つとなっている。


2023/01/09

シュミット「伝説」ヴァイオリンまたはヴィオラバージョン

ヴァイオリン、ないし、ヴィオラで演奏されることもあるフローラン・シュミット「伝説」の、各録音。商用録音では、ヴァイオリン奏者Alexis Galpérineの、ピアノのElisabeth Herbinとの共演盤が有名。以下に挙げたものは、いずれもオーケストラとの共演。

音域がサクソフォン版と比べて拡張されていることに気付くだろう。少し驚くが、むしろ音運び的にはこちらのほうが自然で、いちど聴いてしまうと、サクソフォン版は「下げている」という印象になってしまう。そのうち、サクソフォンでもフラジオを駆使して、ヴァイオリンやヴィオラのごとく自然に演奏する奏者が出てくるかもしれない。

ヴァイオリン・バージョン。



ヴィオラ・バージョン。


2023/01/08

マルセル・ペラン演奏のロジェ・カルメル「コンチェルティーノ」

マルセル・ペラン Marcel Perrin氏の演奏による、ロジェ・カルメル「コンチェルティーノ」。 

https://archive.org/details/cd_argento-dietrich-levkovics-calmel-composit_dominick-argento-karl-dietrich-dimitri-lev

難局を見事に吹きこなしており、20世紀前半~中期の、フランス・サクソフォン界を代表する奏者の一人であったことを思い知らされる。特に、最終部に向けたオーケストラとの燃え上がるようなカタルシスが、聴きものだ。ヴィブラートやソノリテは(どうしても比べてしまうのだが)マルセル・ミュール氏と似通ったところがあり、この時代のトレンドをよく表わしているものだと思う。



2023/01/07

マルセル・ペラン Marcel Perrinについて

マルセル・ペラン Marcel Perrinという奏者についてHarry R. Gee「Saxophone Soloists and Their Music」から経歴を引用する。

==========

1912年6月1日アルジェリアのアルジェ生まれ。幼少より著名なトランペット奏者であった父の手ほどきを受けた。アルジェ音楽院で学び、ヴァイオリン、サクソフォン、和声学、対位法でそれぞれ一等賞をエた。パリでマルセル・ミュールの下で学び、音楽教育学の教員免状を獲得。アルジェに戻り、サクソフォン講師、コンサートアーティストとして活動を始めた。1935年、アルジェ・サクソフォン四重奏団を結成、1962年までコンサートツアー、放送向け収録で活動。独奏者としては、妻のスザンヌ・ペラン・ヴァルスや、各地のオーケストラと共演しながら、1933年から1980年までベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、イタリア、ポルトガル、スウェーデン、スイスなどを周遊した。この演奏活動が認められ、多くの作曲家から作品の献呈を受けている。さらに作曲、著作活動も展開し、1954年に出版された「Le saxophone」により教育功労賞を受賞した。フランス・サクソフォン界黎明期において、各国を周り演奏活動を行った奏者の一人である。

==========

よく知られたところでは、Marc Eychenne「Cantilene et Danse」を献呈され、また、Roger Calmelからも「Les Caracteres」というサクソフォン、フルート、ピアノのための作品を献呈されている。ペラン氏の名前をあまり知らなかったのだが、マルセル・ミュールと同時期に活動した奏者としては注目すべき奏者の一人であろう。

アフリカのアルジェリア出身、というのも驚いたが、1962年のエビアン協定締結までアルジェリアはフランスの植民地であったため、有能なアーティストであったペラン氏がパリへ学びに行く、というのは自然なことであったと思われる。

写真等は下記リンクからどうぞ。父のクレマン・ペラン氏の写真や、アルジェ四重奏団の写真も掲載されている。演奏を聴くこともできる。

http://tournantsrovigo.free.fr/portraits.htm

マルセル・ペラン氏と、妻のスザンヌ・ペラン氏。


2023/01/04

デファイエ演奏「サーカス・パレード」の録音

ピエール・マックス・デュボワのアルト・サクソフォンと打楽器のための「サーカス・パレード」の、ダニエル・デファイエ氏の録音をInternet Archive上で見つけた。思いつくサクソフォン関係の作品名/作曲者名を入れていったところ、偶然に発見した。

https://archive.org/details/cd_french-composers-vol163_arthur-honegger-pierre-max-dubois-pierre-s/

以前見つけたリヴィエの「コンチェルティーノ」もそうだったが、この録音については、存在すら聞いたことがない。商用録音としてのリリースはもちろんのこと、過去の数々の復刻盤や、昨年出版されたSaxiana(Nicolas Prost氏)の復刻にすら含まれていない。

以前から、デファイエ氏来日時のライヴ録音を持っている(東京文化会館におけるリサイタル、すぐ見つけられないが、どこかで演奏写真をみたこともある)が、トータルではこちらの演奏に軍配が上がるだろう。録音レベル的に割れ気味だが、同時にデファイエ氏の持つ、極めてソリッドな音をしっかりと捉えており、聴き応え十分。

打楽器奏者、Vincent Geminiani氏(フランス・パリ生まれとのことだが、名前からするとイタリア系移民だろうか?)の、きちっとした仕事も印象深い。「Modern Pop Percussion」というアルバムを聴いてみたが、クラシックの分野にとどまらない演奏者としての懐の深さを感じ取ることができた。


この写真はBillaudotのデュボワ氏の作品カタログの表紙。デュボワ氏については、斎藤広樹氏がFacebookページに掲載したエピソードが非常に面白い。ぜひご一読を。

https://www.facebook.com/hiroki.saito.39395/posts/pfbid02w5vG8m9R6eHMVNMKeBAXyiv2GZgiFgQfLhWiEs2aQb1uXJv7YZhP5X6dFnZ5nstUl

2023/01/03

Heaven to Clear When Day Did Closeの演奏映像

ディヴィッド・マスランカの秘曲、テナーサクソフォンと弦楽四重奏のための「Heaven to Clear When Day Did Close」の演奏映像をYouTubeで発見した。Garrett Evansというサクソフォン奏者の5th Year Recitalの1曲目として演奏されている。

作品紹介は、マスランカ公式ページの作品紹介からどうぞ(Ramon Ricker氏の演奏も聴ける)。

これまで、「Eastman American Music Vol.2」というアルバムに収録されているRamon Rickerの演奏しか知らなかったので、とにかく新鮮。体当たり的に収録され、しかし高次元でまとまったRamon Rickerの演奏(やはりこれが決定盤だろう)とは違い、少しの冷静さ、ライヴならではのキズ、弦楽パートの技量が追いついていない…といった、ツッコミどころはいろいろとあるものの、あまり演奏されない作品において、新たな演奏を聴くことができる、というのはそれだけで代えがたいことである。Garett Evans氏のテナーサクソフォンは見事だ。