2022/03/30

アダムズ「シティ・ノワール」初演の補足

一つ前のエントリにて、初演ライヴ録音/演奏を紹介したが、その演奏の最後の描写がなかなか感動的なのだ。

実際の映像をぜひご確認いただきたいのだが、初演に臨席していたアダムズが、ドゥダメルに呼ばれて壇上に上がったのち、真っ先にマカリスターを聴衆に向けて紹介するのだ。それだけ、「シティ・ノワール」のサクソフォンのソロにアダムズが感銘を受けていた、ということなのだろう。この出来事が、その後の「サクソフォン協奏曲」の制作・初演に繋がっていることは明白である。

ニューヨーク・タイムズ紙の、アダムズのインタビューを抜粋する。

https://www.nytimes.com/2013/09/18/arts/music/classical-saxophone-an-outlier-is-anointed-by-john-adams-concerto.html

電話インタビューで、アダム氏はマカリスターの強みを熱心に語っていた。「偉大な芸術家にとっては、楽器の細部、つまりリード、マウスピース、パッド、そういった小さな、小さな、極小の物理的細部が極めて重要になってくるのです」とアダムズは言いました。「そして、彼の絶対的な、不屈の精神で、何でもやってみようとする姿勢も素晴らしいと思っています」。

マカリスターは、このチャンスを掴みました。「私個人としては、アダムスはNo.1でした。彼は、私たちが手に入れたい、いや手に入れる必要がある最大のゴールでした」と彼は言っています。「深いポリリズムの構造、巨大な氷河のような形こそが、彼の音楽のトレードマークです。その中でサクソフォンが扱われていることは本当にエキサイティングなことです」。

2022/03/27

サクソフォンを含む管弦楽作品:アダムズ「シティ・ノワール」の名盤

グスターボ・ドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニックのライヴ録音(2009年)。ジョン・アダムズ「シティ・ノワール」初演にして最高傑作と断言する。

人気指揮者の大舞台ということで、日本国内でもNHKで映像が放映され、その熱い演奏が当時話題となった。事前の下馬評では、メイン曲であるマーラー「交響曲第一番」への期待が高く、「世界初演」は、ほぼ世間の眼中に無かったようだが、演奏会後の話題をかっさらったのはこの「シティ・ノワール」であった。

モダンなジャズの影響を色濃く受けた作品で、これがドゥダメルのキャラクターにどハマり。シモン・ボリバル・ユース・オーケストラを率い、「マンボ!」で一世を風靡した"若き"指揮者が、LAフィルという、技術的にもエンタメ的にも充実した手兵を得て、未知の作品に体当たりしたのだ。面白くないはずがない。映像はDVD化/配信などもされているが、とにかく激しく、熱く、アダムズの分厚い響きをホール一杯に昇華させている。

サクソフォンは、ティモシー・マカリスター。巧さが際立つ。巧いとはいっても、サラサラっと行くわけではない。スコアを見ていただければわかるが、とにかく「どう吹くべきか」というのが想像がつかない音運びだが、この初演一発目にして、極めて説得力ある、完成された解釈を提示してしまう驚き。

スコア参考(アカウント作成で無料で参照可能):https://www.boosey.com/cr/perusals/score?id=982

現代サクソフォンの完成形が聴ける場として、ぜひ多くの方に聴いていただきたい録音/映像だ。

2022/03/26

サクソフォンを含む管弦楽作品:名作セレクション

 ビゼー「アルルの女」、ムソルグスキー/ラヴェル編「展覧会の絵」、ラヴェル「ボレロ」、ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」「パリのアメリカ人」など、サクソフォンが使われている管弦楽作品はそれなりに存在し、それなりに演奏機会も多いため、それなりに耳にする機会も巡ってくる。

しかしながら、サクソフォンの魅力を全方位から(響き、歌、機動性)引き出す、管弦楽作品での活用例はごくごく限られているだろう。さらに悪いことに、作品がマイナーなこともあって演奏機会が少なく、一般聴衆はおろか、サクソフォン奏者にも知られていない、という状況が発生している。

個人的に考える、オーケストラの中のサクソフォン:名作セレクションは、下記の3つ。引き続き、別の記事で録音についても触れたい。

・ダリウス・ミヨー「世界の創造(1923)」:ミヨーが作曲したバレエ音楽。世界の始まりの神話の世界をモチーフにした物語が基礎にありながら、音楽自体にはミヨーが米国訪問時に耳にしたジャズ(1920年代の)をふんだんに取り入れている。サクソフォンは、「序曲」のレガート風旋律から、熱狂的な後半部まで、一貫して存在感を放つが、特に聴きものは終盤の乱痴気騒ぎの中に、悠々と歌う即興風のメロディだろう。

・ジャック・イベール「遍歴の騎士(1933?/1950)」:こちらもバレエ音楽で、ドン・キホーテの物語に付加された、スペイン情緒溢れる作品。セクションワークの他、無伴奏でのvヴィルトゥオジックなカデンツァなど聴き応え十分。中間楽章は「黄金時代」として単独でも演奏される。1933年にイベールが音楽を担当した映画「ドン・キホーテ(J.W.Pabst監督作品)」に基づいた再編集作品との情報があり、件の映画のサウンドトラックを着目(耳?)しながら観てみたのだが、どうも関連性が見出せなかった。別の作品かもしれない。

・ジョン・アダムズ「シティ・ノワール(2009)」:ロサンゼルス・フィルハーモニックのグスターヴォ・ドゥダメル芸術監督就任記念演奏会に向けて作曲された委嘱作品。モダン・ジャズの空気管に支配された分厚いハーモニーの上を、各ソロ楽器の走句が縦横無尽に覆いつくす中にあってなお、サクソフォンが放つ存在感そのもに感動を覚える。この作品をきっかけにアダムズ「サクソフォン協奏曲」が生まれたのだが、その話はまた次回に。