2007/04/19

ラクール「四重奏曲」

ギィ・ラクール Guy Lacour氏は1932年生まれのサクソフォン奏者・作曲家。10歳からサクソフォンを始め、ヴェルサイユ音楽院でマルセル・ジョセに師事、続いてパリ国立高等音楽院でマルセル・ミュールに師事し、1952年に一等賞を得て卒業する。卒業後の活動としては、マルセル・ミュール四重奏団のテナー奏者としての参加が特に有名。その外、独奏者としてカラヤン指揮ベルリン・フィル、バレンボイム指揮パリ管弦楽団、ロストロポーヴィチ指揮フランス国立放送管弦楽団、等の演奏会・レコーディング等に参加。また、教育者として、国内のいくつかの音楽院のサクソフォーン科で教鞭をとっていた。

(あれれ、書き始めたは良いものの、Thunderさんところの記事と、けっこう記事内容がかぶるなあ(^^;

「ラクール」と聞けば、大抵のサックス吹きの方はBillaudotから出版されている「50のエチュード」を思い浮かべるだろう。ラクールがヴェルサイユ音楽院で師事したマルセル・ジョセ Marcel Josseに献呈されたこの曲は、いまや世界中のプロサックス奏者の卵が、各々の師匠から必ずと言って良いほど一番初めに与えられる課題…というほど有名になっている。

そういえば、今まで「50のエチュード」を開くたびに、なんでジョセに献呈されたのかなー、なんて考えていたが、そうか、キャリアの最初の頃に入学したヴェルサイユ音楽院でラクールが師事していた師匠こそが、マルセル・ジョセだったのですね。なるほど、それで分かった。ラクール自身がコンセルヴァトワール時代に師事した、ジョセ先生の教育活動を支援するために、サクソフォン初学者にぴったりな独奏エチュードを書いたということか。もしかしたら、ジョセがラクールに依頼したのかもしれないけれど、ジョセ-ラクールの師弟関係は、この曲の成立を紐解くヒントになるのは間違いなさそうだ。

と、話が逸れた。「四重奏曲(Quatuor)」の話でしたね。1969年に書かれたこの曲、12音技法を踏襲しつつ、ラクール独自の書法(特にその特徴的なリズム!)も織り込みながら、実に魅力的な作品に仕上がっている。ラクール自身は、作曲は独学との事だが、そんじょそこらのサックス四重奏曲を、軽~く鼻の先で吹き飛ばしてしまうくらいの強烈な印象がある。個人的には、シュミットやデザンクロあたりと同列に並べても、遜色ない曲だと思っているほどだ。

曲は、「エレジー」「スケルツォ」「ロンド・フィナーレ」の三つの楽章からなる。「エレジー」は、テナーサクソフォンの独奏から開始され(この主題が、12音を満遍なく使用したもので、おもしろい)、ソプラノ、アルト、バリトンの順番に動機が受け継がれてゆく。一種の激遅フーガともとれる進行で、実に密度の高い音空間が形成されてゆく。4本が濃密に絡まり、盛り上がった後は一瞬クールダウン。続いて各楽器のカデンツァが奏でられ、直後に和音のデクレシェンドでスッと曲が閉じる。

第2楽章「スケルツォ」は3/8拍子。短く鋭角的なフレーズがあちこちに顔を出し、第1楽章と打って変わって快活な表情を見せる。一瞬曲想が変わるトリオは、2分音符の7thディミニッシュコードの伸ばし。すぐに3/8に戻り、前半と同じ調子で進行していく。

第3楽章「ロンド・フィナーレ」は曲全体の雰囲気に割って入るような、ユニゾンの短い序奏から始まり、ジェットコースターのように音符が飛び跳ね回る。第1楽章のメロディも顔を出すが、常に最初のユニゾンの勢いを保ったまま疾走する。そしてトドメの練習番号[X] Brillant!ここから先は、奏者にとってのまさに地獄だ。

良い曲なのに、演奏会やレコーディングで聴く機会がほとんどないのはどうしたことか。やはり難しいからか?一度くらい、生でも聴いてみたいものだが…。どなたかお願いしますm(_ _)mあー、楽譜もあることだし、自分たちで吹いてしまう、という手もあるなあ(ぜったい無理です)。いつかは吹けるようになりたいと思っている曲の一つなのだ。

愛聴盤はダニエル・ゴーティエ Daniel Gauthier率いる、アレクサンドル四重奏団 Quatuor Alexandreのアルバム「Reminiscence(Societe Nouvelle d'Enregistrement SNE-566-CD)」。実はラクールの演奏はこれしか持っていない…のだが、このCDは凄い!演奏曲目はデザンクロ、グラズノフ、ラクール、パイロン。そのどれもが超一級品の演奏なのだ。たまたま、ラクールが入っているCDが、こんなにも素晴らしい演奏を繰り広げているのは、ラッキーだったかも。

ちなみにこのCD、現在では入手至難。万が一ネットなどで見つけた際には、速攻ゲットをオススメします。

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