2005/06/09

ミュール「コンプリメンタリー」

グリーンドア音楽出版から出ているマルセル・ミュール「コンプリメンタリー」を購入。一曲目、ランティエ「シシリエンヌ」の最初の音が聴こえてくる瞬間から肉声のごとき豊かな音色にゾクゾクしてしまう。そうそう、この感じ!初めてミュールの録音を聴いたときの、サクソフォーンの音色が体の隅々に染み渡ってゆく感覚。確か初めて聴いたのはヴェローヌ「ラプソディ」(こちらは1930年頃の録音)だったが、ハープとチェレスタのやや硬質な音色に導かれてゆったり入ってくるサクソフォーンが鳴り始めた瞬間、いままでSPの奥で演奏していた三人のアンサンブルが突然身体に「入ってくる」という感覚を味わったのである。気付けば感動のあまり涙を流しながら聴いていたなあ…。

そんな感覚を、このCDでも味わうことができる。言葉では説明しきれない演奏がここにたったの\2520で…これは聴くしかないでしょう!あらゆる管楽器愛好家にお勧めしたい。呼吸という単純な行為がサクソフォーンという楽器を媒介にして音になるプロセスを極限まで高めた演奏なのだ。

ちなみに演奏のすばらしさもさることながら、選曲も資料的価値の高いものとなっている。トマジの「ジラシォン」は「協奏曲」の第二楽章だし、ミュール自身も気に入っていたというパスカルやチェレプニンの録音も貴重…チェレプニンは曲の持つ痛快さがたまらない。デュクリュックはドゥラングルや原博巳による録音と聴き比べてみると一興。松沢増保による解説も興味深い。

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