なんと、アダム・ゴーブ「アウェイデー」をサクソフォン・アンサンブルで演奏してしまった、という動画が現れた。吹奏楽の名曲/難曲として知られる本作品、確かにサクソフォンにマッチするかも…と夢想することはあるが、こうして実現してしまったことが驚きだ。演奏はEastman Sax Project。まあ、彼らは何でもできるからなあ…(あの「春の祭典」をサクソフォンアンサンブルで演奏してしまうほどの団体なのだから)。
編曲はJonathan Wintringham氏による、とのこと。ユージン・コーポロン指揮北テキサス大学吹奏楽団の名演を想起させるような、コンパクトかつスピード感溢れる演奏だ。
以下は、昔書いた同曲の曲目解説。
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イギリスの作曲家、アダム・ゴーブ Adam GORB(1958 - )は、10歳から作曲を独学で開始し、ケンブリッジ大学と英国王立音楽院を首席で卒業した。卒業後はロンドン大学のスタッフ、ロイヤル・アカデミー・ミュージック講師を歴任し、2000 年より、英国で最も権威ある音楽大学のひとつ、マンチェスターの王立北部音楽院の、現代音楽作曲科教務主任を務めている。
ゴーブは、1992 年に発表した管楽合奏のための作品「メトロポリス」によって、一躍その名を世界に知らしめた。同作のウォルター・ベーラー記念賞の受賞をきっかけに、主に吹奏楽分野での(演奏に相当なハイ・テックニックを要する作品を書く)作曲家として国際的に認知されている。数ある作品からは、鮮烈なリズム、躍動する音世界、ジャズからの影響…といった多彩な作風を特徴とすることが読み取れる。自身のルーツである、ユダヤ系民族の音楽をヒントに筆を進めることもあるという。また、「聴衆に与えるインパクトは音楽が持つメッセージ性の強さに比例する」とのゴーブ自身の哲学から、なんらかのテーマが埋め込まれた作品が多い。
「アウェイデー」は、ゴーブが王立北部音楽院吹奏楽団の委嘱を受けて発表した作品。王立北部音楽院吹奏楽団といえば、ティモシー・レイニッシュ教授の指揮下、世界でも指折りのスーパー・テクニックを披露するバンド。楽器の音域をフルに使いながら超高速で駆けずり回るスケール、鬼のような複合拍子、複雑奇怪なリズム…など、バンドとしての高い性能が求められるのは、ひとえにこの怪物のような技術をもつ吹奏楽団のレベルに合わせて書かれた所以だ。なお、実際の曲の雰囲気については、以下のゴーブ自身の言葉から読み取っていただくのが良いだろう。
「アメリカのミュージカル・コメディにインスピレーションを受けて、この7分間の序曲を書いた。この作品には、毎日が戦争のように忙しい人々が、全て忘れ、ついに思い切り休暇をとった!という開放感が表されているんだ。バーンスタインやストラヴィンスキー、ガーシュウィン、そしてジェイムズ・ボンドが、時速100マイルで走るオープンカーに乗って、一緒に旅行を楽しんでいる、というような様子を想像してみてくれ…。」
全体の構造は、単一楽章のソナタ形式。たった6分の間に、急-緩-急-緩-急-緩-急と、目まぐるしく曲想は変化してゆく。全楽器のユニゾンで演奏される短い序奏の後、まずトロンボーンによって基底となるリズムが示され、続いて木管楽器による、第1主題(急)提示部になだれ込む。いったん曲想が落ち着くと、弦楽器のようなレガートの第2主題(緩)が、サクソフォンにより演奏され、華麗に展開されてゆく。
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