2012/05/23

松下洋サクソフォンリサイタル:Lucky to be me☆

いや~、楽しい演奏会だった!クラシック・サクソフォンのリサイタルを聴いたあとの、こういった聴後感は初めてだな。演奏会情報の記事でも書いたが、リサイタルというよりフェスティバル。出し惜しみせず、聴衆全員を満足させるまでの妥協ないスタイルに感銘を受けた。

【松下洋サクソフォンリサイタル Lucky to be me☆All Americans】
出演:松下洋(sax)、岩本健吾(pf)、田村哲(cond)、加藤里志、丸場慶人、小澤るい、山下真実、海老原恭平、上野耕平、藤本唯、竹内理恵、塩塚純、高桑啓、小川卓朗、野田薫、中島諒、関聡、石川勇人(以上sax)、白井愛子、穴井豪(以上dance)
日時:2012年5月21日(月)19:00開演
会場:横浜みなとみらいホール・小ホール
プログラム:
D.マスランカ - サクソフォン協奏曲より第1楽章
G.ガーシュウィン - 3つのプレリュード
S.ライヒ - ニューヨーク・カウンターポイント
J.ウィリアムズ - エスカペイズ
J.マッキー - Sultana, Damn, Strange Humor, Rush Hour
R.モリネッリ - ニューヨークの4つの絵
~アンコール~
L.バーンスタイン - Lucky to be me

「こだわり」と一言で済ませられるレベルをゆうに超えた、終始一貫した見事な演奏会。夢見たり、実現可能性を考えたりはするけれど、このようなプログラムや編成を実現できてしまうのは、もしかしたら日本では松下洋さんだけかもしれない。まったく凄いことだ。「All Americans」というサブタイトルが付いているが、マスランカとガーシュウィンとライヒとウィリアムズ、そして後半にマッキーとモリネッリ並べても、ここまで違和感がないのかと驚いた。聴く前から期待してしまうというものだ。仕事がおしたが、みなとみらい駅からダッシュしたおかげで何とか一曲目には間に合った。みなとみらいの小ホールは大混雑。松下さんや共演者のお友達と思われる音大生っぽい方々に加え、一般のお客様も3割ほど。

一曲目のマスランカから、美しい響きに心奪われた。松下さんの演奏の魅力は何よりその求心力にあると思っているのだが、冒頭のピアノの連打から始まる部分にコラールのメロディが乗ってきたところからゾクゾクした。音をばらまく中間部分も、すらすらと実に見事に吹きこなしてゆく。そして、驚いたことにほぼ全ての曲において暗譜だ!ピアノとの密なアンサンブルも魅力的であった。ガーシュウィンは、これは冒頭から松下さんの独壇場だ。ボーンカンプ氏に送ってもらったというシャポシュニコワ編の仕掛け・飛び道具満載の楽譜を、松下さんなりに料理して吹いていたのが印象的だった。

ライヒは、この会場では初めて聴いた方も多かったことだろうが、演奏終了後のざわ付き具合は一番だったかも(笑)。確かに、あのパルス風の音楽が、静かな中間部を経てスウィング風に変化するなど、先の読めない展開は新鮮に映るのであろう。この耳あたりの良さ→かっこ良さという変化は、やはり憎い。松下さんの今回の演奏は、ソフィスティケイトされた響きよりもむしろ生っぽいデッドな響きを全面に押し出した演奏で、ちょっと意外だった。第3楽章へのハマリ具合はなかなか(バリトンの音場はもう少し近いほうが好みだったか)。「エスカペイズ」では、全体の構成感を捉えつつ、最後に向けて爆発させる手腕が素晴らしい。

さらにパワーアップしての後半は、まずジョン・マッキーの作品を4連続!リズムを効果的に使った名曲を楽しむ。マッキー氏の公式サイトから、元の編成での演奏を聴くことができるのだが、事前予習していったはずが逆にやられた!という感じだった。4曲を、サックス+ピアノ→サックス+パーカッション×2→サックス4本+パーカッション+ダンス→サックス5本+パーカッション+ダンス…徐々に最高のテンションへと繋げ、これが面白くないはずがない。常にイケイケ系だった小川さんのバリサクすげー。ダンサーも、白井愛子さん、穴井豪さんという豪華な布陣、しかもインプロヴィゼイションを交えながらのプレイに、大いに盛り上がった。

続くモリネッリも、マッキーでの賑やかなあとにどうなることかと思ったが、こちらも素晴らしい演奏だった。豪華な布陣となった指揮者+12本のサクソフォン、それぞれがきちんと役割を担いながら、見事に松下さんをバックアップしていた。このメンバーを集められるのは、やはり松下さんの人柄だろうか。最後の曲ももちろん暗譜。第1楽章:やや日本風の美しいメロディを歌い上げるところなどとても感動したし、第2楽章のオーヴァーブロウ、第3楽章のジャ・サクソフォンそのままの音色(松下さんがこのようなスタイルもこなせることに驚いた)、第4楽章の、松下さんのウェニアンの「ラプソディ」を思い出させる集中力は、締めくくりに相応しい演奏だった。アンコールは「Lucky to be me」。美しい音色で演奏され、まるでブラームスかマーラーの歌曲のように聴こえたのだが、バーンスタインの作品だったのか。

終演後、みなさんがロビーで口々に「楽しかった」と言っているのが印象的だった。演奏終了後は、打ち上げに一次会→二次会と参加(笑)。さすがに寄る年波には勝てないということを思い知った…(笑)でも、初めてお会いする方を含め、いろいろな方とお話できて楽しかった。

本リサイタルにあたって提供した曲目解説は、後日ブログで公開する予定。

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