2007/11/11

Rodney Rogers「Lessons of the Sky」

ロドニー・ロジャース Rodney Rogers氏は1953年生まれのアメリカの作曲家。オーケストラ、室内楽、合唱、メディア等の分野に楽曲を提供し、BMI賞、ASCAP賞、タングルウッド・フェローなどの栄誉に輝く。ロジャース氏の作品は、欧米のみならずアジアやオーストラリアでも演奏されており、さらにAlbany Recordsから「Optimism」というタイトルで作品集が発売されている。いる。現在は、作曲活動の傍ら、アリゾナ州立大学の音楽学科で作曲、音楽理論、アナリーゼ、対位法を教えているそうだ。

そんなロジャース氏が手がけた「Lessons of the Sky」は、ソプラノサクソフォンとピアノのためのおよそ8分間の作品で、1985年の所産。楽譜の出版元はEble Music。タイトルの意味するところは、どこまでも広がる「空」という空間を探索することは、開放・生命・無限について考えるきっかけを与えてくれる…といったようなことである(ちょっと分かりづらいですね)。耳あたりは完全なる調性音楽であり、タイトルから連想されるどこまでもさわやかな響きが印象深い。

楽曲前半は、短いモチーフの集合を急速に飛び越えながら、随所に繰り返しのフレーズを織り込み、ピアノと随所でリズミックに絡んでゆく、といった趣。楽譜面はかなりに変拍子であるようだが、拍子を感じさせない心地良さが面白い。最初聴いたときは、イギリスのグラハム・フィトキン Graham Fitkinあたりの音楽を思い出したのだが、フィトキンよりも使用している和声はところどころに出現するサックスのクレシェンド付きロングトーンが、実に印象的に響く。

中間部では、少し落ち着きをみせるロングトーン主体の進行。徐々に盛り上がった後は、ピアノによるカデンツァを経て後半へ。ミニマル風な短いモチーフの繰り返しを見せながら、頂点へと達し、クライマックスではどこまで続くのだと思わせるようなソプラノの長いロングトーンの下で、ピアノが16分音符からなるフレーズを打鍵する。そしてサックスが再び…の繰り返し。冒頭部よりもシンプルな音運びで、集中して聴いているとトリップさせられてしまいそうだ。そして、最後の最後まで、曲の冒頭から続く爽やかな印象はそのままである。

録音は、イギリスのサクソフォン奏者カイル・ホーチ Kyle Horch氏のアルバム「Anglosax(Clarinet Classics CC0046)」を参照していただきたい。イギリスの奏者が典型的に持つ長いフレーズを一息で吹ききる能力と、フレージング・テクニックを求めるこのアメリカの楽曲とが、幸福な出会いを果たした結果から生まれた、すばらしい演奏。イギリスとアメリカを折衷したようなホーチ氏のエモーショナルな音色も、この曲にぴったりだ。

ホーチ氏はアメリカのノースウェスタン大学に留学してフレデリック・ヘムケ Frederick Hemke氏に師事した経験があるそうだが、そのアメリカへの留学経験がアルバムの選曲に影響を及ぼしたことは間違いないだろう。ロジャースの「Lessons of the Sky」ほか、ヴォーン=ウィリアムズ作品やマイケル・バークレー、エリオット・カーターの作品が入っている。アルバムタイトルからして"Anglosax"だしな。ちなみに、ノースウエスタンでは雲井雅人氏と同時期に学んでいたとのこと。…というか、ホーチ氏というイギリスのサックス吹きの存在を知ったのも、雲井氏に伺ったことがきっかけなのであった。

ところで、なんで突然「Lessons of the Sky」を取り上げたかと言うと:雲井雅人サックス四重奏団のテナー奏者としても有名な林田和之氏がCafuaにソロアルバムを吹き込んだと言うのだが、そのリリース予定アルバムのタイトルが「Lessons of the Sky」だったのだ!ロジャース氏の「Lessons of the Sky」が取り上げられているかどうかは知る由もないが、そういえばホーチ氏の「Anglosax」のなかで一番好きだった曲が「Lessons of the Sky」だったなあと、思い出して取り上げてみたくなった…というような流れ。林田氏のアルバムに「Lessons of the Sky」が入っていたら嬉しいなあ、なんてね(笑)。

そういや雲井雅人サックス四重奏団の新CD、「レシテーション・ブック(Cafua)」の発売ももうすぐですな。当初9月予定だったのが11月に延期になったそうで、しかもなーんだか11月中に発売される気配がないのだが、あわてず楽しみに待ちたいと思う。

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