突然の新井靖志氏の訃報。最初はFacebookで情報を知ったのだが、いつの間にかコンサート・イマジンのページにニュースリリースが掲載されていた。まだ51歳、若すぎる死だ。
http://www.concert.co.jp/news/detail/820/
日本管打楽器コンクールでの入賞後、トルヴェール・クヮルテットのテナー奏者として、シエナ・ウインド・オーケストラのコンサートマスターとして活躍、また昭和音楽大学他では講師として後進を育成した。
文字にして並べることのできる功績以上に、多くのものを残したサクソフォン奏者であったと思う。黄金期を迎えたシエナにおける、要のポジションで生み出される美音、多くのカルテットのテナー吹きに何とかしてあの音を出したい/あの演奏をしたいと思わせるような、トルヴェールの中での絶妙な立ち回り、師事したサクソフォン奏者からの尊敬等々、簡単に言ってしまえば、多くのサクソフォン奏者からの"憧れ"の眼差しの先にいた奏者の一人だ。"憧れ"とは、決して手に入れることのできない何かを示す時に使われる言葉であるが、おそらく新井氏の音色/音楽/指導は、他人では知り得ない独自の才能と努力から生み出された、唯一無二のものであったと思う。
私自身も、いろいろと思い出すことは多い。初めて聞いたプロフェッショナルのカルテットは、松本ハーモニーホールで聴いたトルヴェール・クヮルテット、ボザの「アンダンテとスケルツォ(テナーの独奏から始まる)」であった。トルヴェール・クヮルテットとしての演奏は、シモクラ・ドリーム・コンサートやサクソフォーン・フェスティバルなど、いくつかライヴを聴く機会があった。ソロを聴いたこともあり、一番最初は、長野県北信地区のリーダーズバンドにゲストとして招かれた際に演奏されたビンジ「協奏曲」の演奏。"アルトを吹く新井さん"を珍しく感じた。最後にライヴで聴いたのは、リリアで「サクソフォーン発表会」に出演したときだろうか。比較的最近まで演奏活動は続けており、いつでも聴ける機会はあるなあと軽く考えていたが、まさかこんなことになるとは。
大学入学以降はカルテットでテナーを吹く機会が増え、取り組む作品によっては意識せざるを得ない存在だった。長生淳「彗星」「八重奏曲」、ピアソラ/啼鵬「ブエノスアイレスの春/夏/秋/冬」、ロジャース/真島俊夫「私のお気に入り」、吉松隆「アトム・ハーツ・クラブ・カルテット」等々、今考えれば、新井氏の演奏から、"参考演奏"以上の何かを感じ取っていた。
そして、やはり外せないのは名盤「ファンタジア(Meister Music MM-1091)」「夕べの歌(Florestan FLCP21011)」の存在であろう。特に「ファンタジア」!いかに多くのテナーサクソフォン吹きがこの演奏によって新井氏の凄さと自身の甘さを思い知らされたことか!想像を絶するほどに、軽やか。テナーサックスって鍵盤楽器だっけ?という錯覚に陥ってしまうほど。サイドキーも低いシドレミもなんのその。音の一粒一粒がはっきりと目立って、曖昧さを極限まで排した見事すぎる内容である。「テナーサクソフォンという楽器で「普遍」を呈示することに成功した(おそらく世界最初の)録音(Thunderさんのレビュー記事より)」を実現した、その技術力の高さに慄くと同時に、私自身はある種の"不器用さ"のようなものを感じ取ることもある。おそらく真面目で優しい方だったのだろう、"スター"として輝くことができる能力を持ちながら、いざそうなった場合に上手く立ち振る舞えないことを知っており…敢えて一歩引いたところで音楽家/指導者として着実に歩むことを座右の銘としているような、そのような奏者だからこそ成し得た演奏ではないかな、と思う。
稀有な存在であった。謹んでご冥福を申し上げます。
突然の訃報にただただ驚いています。
返信削除「ファンタジア」のCDは、楽器を始めてから最初に買ったサックスのCDで、
聴いた時の衝撃は今も忘れられません。
記事にあるように、私にとってもいつまでも「憧れ」の奏者でした。
ここ数年、縁あって何度かレッスンしていただく機会がありましたが
とても優しく、まじめな先生で多くの方から慕われるのがわかるお人柄でした。
まだ51歳ということで、ほんとに残念としかいいようがありません。。。。
「ファンタジア」については、言うまでもなくテナー吹きの真のバイブルの一つですね。続く「夕べの歌」のテナーも、さらに自然体の新井さんの立ち振舞いが素晴らしいと思います。
返信削除もっと長生きして活動を続けて欲しかった、というのは、皆の願いですね。。。