2014/07/04

H.ヴィラ=ロボス「ファンタジア」作曲の頃

エイトル・ヴィラ=ロボス Heitor Villa-Lobos「Fantasia ファンタジア」について、イサカ大学サクソフォン科Steven Mauk教授が書いた記事の一部を訳してみた。なかなか面白い。

http://faculty.ithaca.edu/mauk/docs/villalobos.pdf

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ユージン・ルソー氏の著作「Marcel Mule: His Life and the Saxophone(Etoile Music, 1982)」には、ミュールがヴィラ=ロボスと会った時のことを回顧している部分がある。

ヴィラ=ロボスとは、私がまだ20代の頃に会った。私はそのころすでにたくさんの演奏をしていたが、まだ音色の拡張のためにヴィブラートを導入する前であった。私たちは意気投合し、その頃ヴィブラートを使っていなかったにも関わらず、ヴィラ=ロボスは私の音色を気に入ってくれた。あるオーケストラの客演指揮者としてヴィラ=ロボスが招かれていた時、私はそのオーケストラで吹いていたのだ。彼はとても神経質な男で、時折オーケストラの楽員が手を抜くと、激怒するのであった。
その後再びヴィラ=ロボスはパリを訪れたが、その時もサクソフォンを含む作品を演奏した。その頃、私は音色の拡張のためにヴィブラートを導入していた。ヴィラ=ロボスは、それをとても気に入ったようだった(原文:did not at all hide the fact that he liked it.)。ヴィラ=ロボスの多くの作品がサクソフォンを含んでいることを知っているでしょう?
そして数年後、ヴィラ=ロボスは「ファンタジア」の自筆譜を私に送ってきた。「ファンタジア」は、私に献呈されていた。

ヴィラ=ロボスは、ソプラノサクソフォンと3つのホルン、そして弦楽合奏のために、1948年に「ファンタジア」を書いた。そのため、ミュールはその頃にその譜面を受け取っているはずである(フルスコアに"1948年ニューヨークにて"という注釈がついている。またピアノリダクション版に"1948年リオにて"という注釈がついている)これが合っているのか間違いなのかは良くわからず、オーケストラ版がニューヨークで、ピアノリダクション版がリオデジャネイロで書かれたかどうかも、よくわからない。ルソーのインタビューは次のように続く。

ルソー:「ファンタジア」を演奏したのですか?
ミュール:いいえ。何人かの指揮者と交渉したのですが、誰も興味を示しませんでした。私自身も、いまいちこの作品に興奮しませんでした。
ルソー:自筆譜を持っているのですか?
ミュール:いいえ。どこにあるかわかりません。パリからサナリー(訳注:ミュールはパリでサクソフォンを吹いていたが、引退後、サナリーへと移住した)へと引っ越した時、多くのものを失くしてしまったのです。
ルソー:ヴィラ=ロボスとは文通していましたか?
ミュール:はい。しかし、彼の手紙をわたしはもう持っていません。

1948年は、ヴィラ=ロボスにとって特別な年だ。この年、ヴィラ=ロボスは膀胱がんと診断され、ニューヨークのニューヨークメモリアルスローンケタリングがんセンターで手術を受けた。この年にヴィラ=ロボスが作曲した作品を見ると、声楽とピアノのための4つの作品(そのうちの1曲「ビッグベン」と呼ばれる作品はオーケストラのためにも編曲されている)、1つのピアノ協奏曲、そしてこの「ファンタジア」を書いている。ほとんどが伝統的なクラシックの編成のために書かれたなか、ヴィラ=ロボスが非常にめずらしいソプラノ・サクソフォンのために作品を書いたことは特筆に値する。しかも、初演の計画もミュールからの委嘱もない、という状況において!

David P. Applebyによれば、「ファンタジア」の初演は1951年11月17日、Waldemar Szilmanをサクソフォン独奏に迎えて、ヴィラ=ロボス指揮の室内楽オーケストラによって、リオデジャネイロの Auditório do Ministério da Educação e Culturaにて行われた。

Peer International(現在のSouthern Music傘下)が1963年に本作品を出版した。ミニチュアスコアは売り譜、パート譜はレンタル譜で利用可能。ピアノリダクション版には「Fantasia for soprano or tenor saxophone and chamber orchestra」と書かれている。オーケストラスコアには、「Fantasia for Saxophone, 3 F Horns and String Orchestra」と書かれ、「B-flat saxophone」という指示があるのみである。

ここでひとつの疑問が生じる。ヴィラ=ロボスは、この作品がテナーサクソフォンで演奏されることを想像していたのだろうか?ミュールという、史上最も偉大なソプラノサクソフォン奏者の一人に献呈されたことから、ソプラノサクソフォンを念頭において作曲されたと推測される。実際、オクターヴ下のテナーサクソフォンで演奏されると、可愛らしさや繊細さに欠けるように思う。テナーサクソフォンの指示が追加されたのは、単に出版社の経済上の都合かもしれない。1963年当時、ソプラノサクソフォンでクラシックを吹く奏者はごくわずかであったから、同時にテナーを編成に加えたのかもしれない。

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以上。

3 件のコメント:

  1. ピアノと一緒の演奏だと、音域の都合でソロの音が埋もれてしまうところがありませんか?

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  2. わんこさん

    テナー版ですか?たしかにそのように聴こえる部分もあるかもしれません。

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  3. ご存知だったら申し訳ありません。もともとファンタジアはFで書かれていたものの、ミュールの意見でE flatに変更されたようです。昨日のドゥラングル先生の演奏会では、Fで演奏されてました!

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