2013/11/27

安井寛絵さんの演奏会:sax&electroによる空間表現の現在

楽しみにしていた安井寛絵さんの久々の演奏会@日本。改めて、凄い演奏家だと感じると同時に、日本のクラシック・サックス界に定常的に安井さんがいてくれれば…!と思うのだった。

【サキソフォーン、エレクトロニクスによる空間表現の現在】
出演:安井寛絵(sax)、松宮圭太(comp)、渡邉裕美(electro)、田野倉宏向(sound)
日時:2013/11/26(火曜)19:00
会場:トーキョーワンダーサイト渋谷
プログラム:
夏田昌和「Danse sacrée et danse profane au pays d'Extreme Orient」
松宮圭太「PHOTON EMISSION」
ホアン・アロヨ「SIKURI I」
エフェクトのデモンストレーション
即興(渡邉裕美のプログラミングによる)
ピエール・ジョドロフスキ「Mixtion」

渋谷の繁華街の一角の公民館のような場所。ワンダーサイト青山とは違った雰囲気に少したじろぐ。会場は、全方位コンクリート打ちっぱなしの白い壁。後方にはMac、オーディオインターフェイス、ミキサーが並び、客席を8本のスピーカーが取り囲む。8ch、って、なかなかすごいな…。

レクチャーコンサートといった趣。冒頭ならびに曲間には、作品やエレクトロニクス作品の演奏方法概観、また安井さんや共演陣が学んだ音楽院でのエピソードなどが話された。とてもおもしろい試みで、こういったコンサートがサクソフォンの世界にももっと増えて良いのではないかなと感じた。

そして肝心の演奏だが、以前聴いたリサイタルと同様、驚異的な技術レベルである。安井さんの演奏は、特殊奏法だろうが何だろうが、曖昧な部分がいっさい見当たらない。重音一つとっても、自身のコントロール下に置いているのだ。また、音色という点で、フランスそのままという感じは受けず、きちんと一旦内面で消化してからプレゼンテーションするあたり、実に稀有な存在だと思う。また、共演陣の仕事も鉄壁で、この種のコンサートに(時折)つきまとう不安定な要素を、全く感じなかった。

夏田氏の作品は、「West, or Evening Song in Autumn」の再構築作品と言えるだろうか。臨席した夏田氏からは、「(打楽器だと準備が大変だがエレクトロニクスならば)メトロでも演奏できるお手軽バージョン」との言葉も飛び出したが、これはこれで面白い内容だと思った。「Danse profane」は、ソプラノサクソフォンのエッジの効いたリズムがとても楽しかった。安井さんの修士リサイタルで委嘱初演された作品なのだそうだ。続く「今日完成した」という松宮作品は、これもまた興味深く聴いた。サクソフォンパートの扱いに、他のIRCAM発の作品と似たものを感じる。

ホアン・アロヨ氏の作品は、ここのリンク先でも安井さん自身による演奏を聴くことができるが、映像とは全く違った印象を受けた。もっとおとなしい作品かと思いきや、ある意味本日のプログラムの中で最もアグレッシヴな作品にも聴こえたのだから、面白い。続いて、客席から希望者を募って(tfm氏、かどぐちさん、安井さんの妹)、エフェクトのデモンストレーション。さらに、渡邉氏謹製のMAX/MSPパッチを使った即興。即興は、これまで聴いたことのあるどのタイプとも違う感じを受けたが…ちょっと私の言葉が足りず上手く表現できない(例えれば、平野さんや大石さんの即興とはまた違ったタイプ、ということ)。

楽しみにしていた「Mixtion」。自身の内面をひたすら掘り下げていくような演奏に感銘を受けた。この種の作品を演奏するときに演奏家に求められるのは、どれだけ自分を作品の中に埋没させる方向にシフトするか、それとも、とにかく作品を俯瞰する方面にシフトするか、なのだと思っているのだが、安井さんの演奏は没入型だっただろうか。それにしても、安井さんにはテナーサクソフォンがなんとも似合うこと!また、これだけテナーサクソフォンをダイナミック、かつ自在にコントロールできる演奏家を、あまり見たことがないなあ、とも思ったのだった。

あー!また聴きたいな!フランスにおいて最先端のサクソフォンに取り組む演奏家として、今後も時々日本のサクソフォン界にパンチを入れるような企画を聴かせてほしいものだ。

本日使われた3台のサクソフォン。

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