2013/03/31

ドゥラングル教授リサイタル@上野

ドゥラングル教授の演奏会といえば、2007年、2012年の静岡音楽館AOIでの素晴らしいステージを思い出す。いずれもサクソフォンエレクトロニクスのための作品を中心に取り上げたプログラムであり、前衛的なプログラミングと、それらを難なくこなすドゥラングル教授の演奏に驚いたものだ。

…打って変わって今回は、サクソフォンのための「古典作品」ともいえるようなラインナップ。しかもピアノは野平一郎氏ときたもんだ。ドゥラングル教授自身の選曲なのか、外部からのリクエストなのかは分からないが、ともかくまたまた素晴らしいステージを楽しんだ。

【クロード・ドラングル サクソフォン・リサイタル】
出演:クロード・ドゥラングル(sax)、野平一郎(pf)
日時:2013年3月30日(土)15:00開演
会場:東京文化会館・小ホール
料金:S席5000円、A席3500円、U-25席1500円
プログラム:
J.B.サンジュレ - 2つのカプリス
D.ミヨー - スカラムーシュ
F.プーランク - クラリネット・ソナタ
P.ポルトジョワ編 - フランス・シャンソン集
P.ヒンデミット - アルト・サクソフォン・ソナタ
J.ブラームス - ヴィオラ・ソナタ第2番
M.ラヴェル - ハバネラ形式による小品(アンコール)
E.サティ - ジュ・トゥ・ヴ(アンコール)
C.ドビュッシー - シランクス(アンコール)

チケットは、「チケットれすQ」なるシステムを使って購入。オンラインでクレジット決済を済ませるとQRコードが送られてきて、コンサート会場受付の読み取り機にそのQRコードをかざすと、座席の場所が印字されたレシートのような紙を渡された。これがチケット代わりらしい。発券手数料が安いのがありがたかった。

客席は見た目8〜9割ほどの入り。いつもよく見かける音大生っぽい方々は少なくて、一般の音楽ファンのような方々が多かったような。

ソプラノサクソフォンによるサンジュレ。ピアノで演奏された短い序奏は、まるでモーツァルトの交響曲の冒頭をオーケストラで聴いているような気分にさせられた。やはり野平一郎氏のピアノは凄い。そしてドゥラングル教授のサクソフォンである。しぶしば、サクソフォンが円錐管であることを忘れさせてしまうような、上から下まで完璧なコントロール、そして音程。音色もキラキラとして、いったいどこから音が出ているのかわからないほどだ。そもそも、ただ演奏されるだけではつまらないサンジュレをあのように見事に聴かせてしまう、という時点でそもそも大前提からして違う。

「スカラムーシュ」は、お二人の丁々発止といったやり取りが面白かった。ドゥラングル教授も、細かい所は吹き飛ばしてしまっているように聴こえる(実際はそんなことないのだろうが)。ヴァンドレンレーベルにレコーディングされた同曲の演奏を知っている人からすると、別人の演奏のようでちょっと衝撃的かもしれない。それにしても、野平一郎氏がスカラムーシュを弾くというのも実に面白い機会であることだ。プーランクも、フランスのエスプリの薫り高く、細かな仕掛けがはっきりと浮き彫りにされており、楽しかった。ついつい、プーランクがサクソフォン作品を書いてくれたら、どんな作品になったのかなあと思い巡らせてしまった。

前半最後はフランス・シャンソン歌曲集。編曲者のフィリップ・ポルテジョワは、ルデューQのアルト奏者としても有名な人物だ。リラックスした音色、草書体のようなフレージング。会場全体がまるでパリのカフェの昼下がり、といった雰囲気に包まれた。「愛の讃歌」「バラ色の人生」「パリの空の下」「枯葉」といったおなじみのナンバーが、抑制の効いたアレンジで奏でられた。純粋な音楽を聴く幸せを感じた。ただひたすらにメロディに身を委ねるような聴き方をしてしまったが、そんなのもたまにはアリかなと。

後半はヒンデミットから。メカニカルなサクソフォンとピアノの絡まり…まるでスコアが透けて見えるようだ。技術的に完璧であることは間違いないのだが、熱いようでいて冷静というか不思議な体温で奏でられていた。そして最後はブラームス!私はこの作品の第2楽章の憂鬱な感じと幸福な感じが入り混じったテンションが好きで、サクソフォンで演奏されることでその感情がより強調される気がしている。ヒンデミットもブラームスも、より精神性云々といったところに近い演奏だったような。だから、文字で感想を起こすのがためらわれる。

アンコールは3曲。最後に演奏された「シランクス」がことのほか印象深い。師弟繋がりということで、先日聴いた伊藤あさぎさんの奏でたラヴェルの「ソナチネ」を思い出した。会場の外は寒かったが、なんだかほっこりした気持ちでホールを後にしたのだった。

このあと、一蘭でラーメンを食べて東神奈川駅まで移動。松下洋&PEDROSAXOも驚異的だったのだが、その感想は次の記事にて。

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