2013/03/09

第32回サクソフォーン・フェスティバル(その2)

♪アドルフ・サックス工房からの枝分かれ:雲井雅人、宮崎真一
1. アドルフ・サックス製(1869年)
J.P.マルティーニ - 愛の喜び
G.ビゼー - アルルの女より前奏曲、間奏曲
2. ビュッフェ・クランポン社製(1875年頃)
G.ビゼー - アルルの女より間奏曲
3. エドゥアルド・サックス製(1915年頃)
M.ムソルグスキー - 展覧会の絵より古城
モンシー - ゴルコンデの王妃(?)
4. セルマー社製Model26(1926年)
C.サン=サーンス - 白鳥
C.サン=サーンス - 白鳥(ブッシャーのマウスピース使用)
5. コーン社製6M "Naked Lady"(1945年)
G.F.ヘンデル - オンブラ・マイ・フ
ドリー - セレナード(?)
再び、3. エドゥアルド・サックス製
F.フォレ - 牧人たち
F.コンベル - マールボロの主題による変奏曲

5つのサクソフォンを時代順に演奏しながら、合間に雲井氏と宮崎氏のトークが挟まれる。お二人の漫才のようなやり取りが面白く(悠々自適?といった雰囲気の雲井氏と、きっちり解説を挟み込んでくる宮崎氏、といった具合)、そのトークも面白かった。アドルフ・サックス工房制作の楽器(宮崎氏コレクション)による演奏は、現代のサクソフォンを知る向きからすれば想像すらできない、まるで金属製のおもちゃのような軽い音…しかし、まぎれもなくこの音こそがサクソフォンの原点なのであり、より肉声に近いという感覚も得ることができた。セルマーサクソフォンは、すでに現代のエッジの効いた大音量サウンドの片鱗を見せており、アンサンブルや吹奏楽の中に混ざっていても気づかないかもしれない。この日一番の衝撃は、"Naked Lady"と呼ばれるアメリカのサクソフォンである。音程や操作性に改良が加えられながら、原点とも言えるアドルフ・サックス工房の雰囲気を多分に残していることに驚いた。いつかGarage Sのブースで吹いたブッシャーのサクソフォン+ラッシャーのマウスピース、の組み合わせを思い出した。最後の「マールボロの主題による変奏曲」は、雲井氏がエドゥアルド・サックスを携えたときの十八番であるが、何度聴いてもまた新しい感動を得ることができる。大喝采!

♪フェスティバルコンサート:伊藤あさぎ
A.マルチェロ - 協奏曲
帰国後も活躍の伊藤あさぎさん、こういった機会で聴くことができたのは嬉しい。驚異的なほど響く美しいソプラノサクソフォンの音が印象的だ。音数の少ない作品で、ただ演奏するだけでは平凡になってしまうが、アタックやアクセントの取り扱いはバロック音楽の作法そのものだった。バックの弦楽四重奏は意外とフラットに音を扱っていたため、サクソフォンのほうがよほど古楽器らしくらしく聴こえた。ちなみに、ダグラス・オコナー氏も大絶賛。"So grace!!(優雅な・優美な)"と言っていた。3/17のリサイタルが楽しみだなあ!

♪フェスティバルコンサート:ジェローム・ララン
L.スタイン -
もう日本ではすっかりおなじみとなったジェローム。2006年の来日のときからすると、隔世の感がある。もしかして、フェスティバルコンサートでの外国人奏者が抜擢は初めてだろうか(間違っていたらごめんなさい)。
ジェロームの演奏は、技術的な安定性はもちろんのこと、時折熱さを交えてくるところに魅力があると思う。うねるような高速フレーズを駆け抜ける様子など、実にカッコよいことだ。演奏はとても良かったのだが、作品としては、演奏機会がなくなってしまった理由がわかるというか…それほど良い作品ではないように感じた。

♪フェスティバルコンサート:井上麻子
石毛里佳 - フラジャイル
井上麻子さんは、最近ちょくちょく関東で聴く機会が増えてきて嬉しい。井上さんの骨太な演奏がわりと好みで、いつかフルリサイタル(デニゾフやロベールなどの、ネオ・クラシカル作品がすごい演奏になりそう)を聴いてみたいなと思っている。不思議な温度を持つ作品で、サクソフォンも弦楽四重奏も熱演。ときどきゾクッとするような響きがあった。初演は田村真寛氏が行ったそうだ。

♪フェスティバルコンサート:上野耕平
G.ガーシュウィン - "ポーギーとベス"メドレー
このガーシュウィンのアレンジは、フレデリック・ヘムケ氏がCDに吹き込んでいるものと同じなのだそうだ。ガーシュウィンのメドレーと聞いてかなりテクニカルな譜面を想像していたのだが、意外にも音数はずっと少なく、ガーシュウィンのメロディメーカーとしての側面を見せつけるようなアレンジ。中間部に一瞬だけ走句が出てくるが、あとはほとんどゆったり。上野耕平氏、なんだか舞台に出てくるときから貫禄がありすぎだ(笑)。上記のようなアレンジのためか、特に全編にわたって、上野氏の「うた」の扱い方を聴けたのは、とても嬉しかった。音やヴィブラート、フレージングが丸裸になるが、隅から隅までセンスよく完成されており、恐れ入る。

♪フェスティバルコンサート:林田和之
L.E.ラーション - サクソフォン協奏曲
成本理香氏によるこの弦楽四重奏とピアノのためのアレンジは、雲井雅人氏のリサイタルのために書かれたもの。まさか再び聴くことができるとは思わなかった。曲についてはいまさら説明するまでもないだろう。新古典主義ともいうべき作風(まるでモーツァルトみたい)に、ヒロイックなサクソフォンの独奏フレーズを乗せた名曲だ。林田氏のサクソフォン・ソロを初めて聴いたのは、やはりフェスティバルでの石井眞木「オルタネーションI」の演奏だった。その時の名演をう再び思い出すような、やはり素晴らしい演奏で、終始興奮しっぱなしだった。その音色は、直前までの4人と比較して、より小ホールで聴いたアドルフ・サックスの音色からの強いリンクを感じた。

♪フェスティバルオーケストラ:池上政人指揮フェスティバルオーケストラ
A.ドヴォルザーク - 交響曲第9番より第4楽章
毎年恒例のフェスオケ。細かいアンサンブルなどなんのその、その場の何もかもをかなぐり捨ててフィナーレに向けて突っ走る様は、とても楽しい。なんて言ったって「祝祭」オーケストラですからねえ。この曲は超個人的に思い出の曲であるので、なんだか感慨深いものもあるのだった。コントラバスサクソフォンは、実行委員長の原博巳氏だった。

♪SAX大合奏
伊藤康英 - サクソフォンのためのファンファーレ(アルルの女)
L.v.ベートーヴェン - 歓喜の歌
J.P.スーザ - 星条旗よ永遠なれ
演奏はしなかったのだが、客席後ろのほうでフェスを反芻しつつ聴いていた。巨大なパイプオルガンの機械の中にいるような、不思議な体験ができるのだ。スーザのピッコロアンサンブル、ならぬソプラニーノアンサンブルにはシビレた(笑)。

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以上。非常に充実した一日を過ごすことができ、大満足。実行委員長をはじめとするスタッフの皆様には感謝申し上げたい。

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